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翻弄

 人は時に二種類に分かれます。翻弄する者と、翻弄される者です。

 転がす者、転がされる者。あなたはどちらになりたいですか?

マグロ頭

「眼鏡」「猿」「箒」


 ある所に何でも願いを叶えてくれる魔女がいました。

 晴れた日の事でした。彼女の所に、一人の青年が訪ねてきました。

「何でも願いを叶えてくれると聞いてます」

 礼儀のある、しっかりした青年です。爽やかな人物でした。しかし、彼女はその青年をいつもの様に扱いません。分厚い眼鏡をかけて、マスクをし、トンガリ帽子を被って相手をしています。異様な容姿でした。

「ええ、私が何でも叶えて差し上げましょうぞ。して、どんな願いかね」

 声色まで変えています。いつもの透き通った、軽快な声ではなくて、萎れた老婆の様な声です。その声に使い魔の猿魔は笑いを堪えるのに必死でした。

「僕は同僚の静香さんと付き合いたいのです」

 はきはきとしたその願いに、彼女は勢いよく立ち上がりました。衝撃で立掛けてあった空飛ぶ箒が倒れました。

「ならん。その願いだけは叶えとうない!」

「えっ、ちょっと、何故ですか!」

「ならんならん。どうしても駄目じゃ!」

「何故です! 理由はなんなん――」

「ええい。駄目って言ったら駄目なの!」

 そう言って彼女は、静香さんは変装をといて、真っ赤な顔で叫んだのです。


*******

和成創一

「時計」「セロハンテープ」「チョコレート」


 好きだったり、得意だったりするけど一方では苦手というものが、人には時々ある。

 僕の妹も、友達を作るのは得意だが内心では人付き合いは苦手だと思っているタイプである。

 さらに言えば甘えられるのは好きだが甘えるのは苦手。

 手先は器用だが根気の要る作業は苦手。

 ガムテープで貼るのは得意だがセロハンテープで貼るのは苦手――ってこれは違うか。

 だが、何にでも例外はあるものである。


「あらあら。紗枝ったら、お兄ちゃんの誕生日プレゼントがそれ? 相変わらず冷めてるわねぇ」

 そこらに転がっている空箱をセロハンテープで目張りした容器に入っているのは、几帳面なほど形の整えられたチョコレート。

 ちなみに僕は甘いものが苦手である。

「後で礼を言いにいかなきゃ。きっと待ってる」

「ふふ。そうね。今もそわそわしてるんじゃないかしら。素直じゃないんだから」

 洗濯物を干す母さんの背中をうなずきながら、僕はこりっ、とチョコレートをかじった。

 手作りのビターチョコレートは、これでもかというほど苦かった。


*******

ゆうな

「証明写真」「目覚まし時計」「ガム」


 「げ」

 言ってそろりと右足の裏を覗き見た。…やっぱり。靴の底と地面をガムがのびていた。最悪な気分で私は家に帰った。

 家にはテレビだけがぽつんとある。スイッチを入れると、雑音と共にニュースが流れた。

 「…には…だ……ます」

 必要な部分だけを聞き分けると、つまりこういう事らしい。

 就職の面接に落ちた男が面接官を刺してしまった。そして履歴書を持ち逃走したが、途中写真がはがれ落ちてしまい、男が捨てたらしき履歴書だけが発見されたらしい。

 …なんともまぁややこしい事件だな。

 けれどその証明写真を見つけた人には礼金が出るそうな。…これだけあれば、当面は生きてゆけるのに…

 私は朝早く起きるのが苦手で、遅刻ばかりし会社を首になった。目覚まし時計の音も聞こえず意味がない。…もうずいぶんと昔の事だ。

 さて、と腰をあげて一足しかない靴についたガムをとろうと靴を裏返した。

 ……―――あ?


この間とは違って、私はるんるん気分で街を歩いていた。まさか踏んだガムが家路の途中で犯人の証明写真をくっつけていたとは。


 私は爆音がなるという目覚まし時計を買った。


*******

松原志央

「携帯電話」「小説家」「陸上」


「もう、締め切りは一週間後ですよ?!何考えてるんですか!また仕事減りますよ!……え?仕事ならまたくるさ?」


 携帯電話の向こうから聞こえてくる憎いほど綺麗で低くて色のある声。


「貴方それでも大人気小説家なんですかぁあ?」


『……多分』


 奴、三谷収蔵(みたにしゅうぞう)もとい、本名三谷金治郎(みたにきんじろう)は若手の小説家で、わずか一年でサスペンス・ミシテリー界では知る人ぞ知る超大物小説家である。

 また、その容姿から女性からの支持率も多くある。陸上部に入っていたらしく、ハツグンのスタイルだ。

 しかし、性格は最悪。口癖は「多分」「ダルい」「嫌だ」と仕事をするのが面倒くさい奴なのだ。

 そのせいでこの一年間私がの担当になってからずっと困らされている。

 溜め息をついた。


「はぁ」


『なんだ?』


「私は毎回貴方に困らされるのですよ」


(より)


 奴はなぜか私を名字でなく名でよぶ。


「なんですかぁ」


『俺はお前をこの手で困らせるのが一番楽しみだ』


「はぁ?Sですか」


『……クク』


 携帯電話の向こうで奴が笑った。


「……どうしたんですか」


『明日、原稿取りに来い。……馬鹿かお前は。もう出来ているんだ』


「え?とりこし苦労じゃないですか!」


『クク……しばらく長く話したかったんだ。最近会ってないからな』


「はぁ?どういう意味ですか」


『その内教えてやる。……この激ニブが』


プツッ


「え?……はぁ」


 私は電話を切った。なぜかにやける自分がいた。


******

和成創一

「秘密基地」「キーボード」「ハサミ」


『樹上生活者に愛のハサミを!』

 キーボードを叩く手が思わず止まる。

 誰だ、こんなステキなコメント残す野郎は。気になるじゃないの。

 私は己が心が導くまま、そのステキ野郎のHPへ移動する。

 まさに秘密基地にぴったりな見事な樹上ハウスともっさもさの男が写った写真が現れる。クリックするとさらに次の写真へ。

 もさ男がハウスから少し離れた枝になっている実を取ろうとしている。幹に足をかければ簡単に取れそうなものを、もさ男はあえてハウスから身を乗り出して取ろうとしている。確かにハサミがあれば解決しそうだが……万事この調子だと愛ではなく悪意を感じる。

 加えてその様子は実に数十枚に渡る連続写真で表示されていた。もはや暇潰しのレベルをはるかに超えてカウンタストップしているくらいだが――私はなぜか楽しめた。

 最後の一枚、実が取れて青空を見上げるもさ男がこんな台詞をのたまっていた。

『暇を暇と感じない君こそ、樹上生活者だ!』

 ……やられた。


*******

影之兎チャモ

「教科書」「ノート」「プリント」


 テストが近く久しぶりに登校した。

 教科書やプリントの絵に髭などを添え、泥のような時間を過ごす。本を読めば事足りるのに、どうして義務という名の下に束縛されなければならないんだろう。

 漸くチャイムが鳴り、俺は立ち上がる。

 廊下を出る寸前に呼ばれ振り向くと、見知らぬ女が立っていた。

「あんまりこないでしょ」

「それがどうしたの」

「テスト困るんじゃないかと思って」

 そういって差し出された、ノート。断ろうとしたがあまりに真剣なため、思わず受け取ってしまった。

 帰宅後やることもなく、気まぐれでノートを開ける。全く教科書通りの内容で、呆れながら頁を捲っていると、あることに気付いた。

右下の空白にホネ人間がいる。パラパラ漫画か。

「つ、ま、ら、ん」

 そう言うとバラバラになって飛び散った。ノートを閉じて表紙を確認すると、名があった。あの女は貸し出し用と間違い、自分のノートを俺に渡したのだ。

「つ、ま、ら、ん」

だったら逃げればいいのに、思ったと同時にまた飛び散った。ノートの隅、それ以上出ることのないホネだけがある。


*******

和成創一

「烏龍茶」「パズル」「天使」


 人の心はミステリーである。パズルである。そして必ず、答えがある。

 ――なんて、カッコいいことを考えていた僕だけど。

「秀治、俺……やっぱ駄目だった。天使だと思ってたのが、いけなかったのかな……」

 親友にこう言われたら、ああ自分が考えてた事なんて所詮ガキのたわごとなんだナァと思ってしまう。

 だってさ、僕は何て答えればいいんだ? こんな真剣でつらそうな相手に。「天使なんてダサ」って突っ込むか? そう言う野郎はむしろ僕が許さん。

 女の子に出会った。恋をした。そして破れた。それが答え、取るに足らない単純なパズルの解――つい数秒前の僕ならそう思っていただろう。

 ふざけんな、僕。

「とりあえず……飲む、か?」

 バス用にとっておいた全財産を使い手に入れた烏龍茶。ホットを選んだら、本当に一円もなくなった。ついでにかける言葉もなくなった。やはり僕はガキだった。

 ただ、思う。今日ぐらい、ケチでインテリな自分とさよならしよう、と。

 バスが来ても動かない僕の隣で、友は静かに泣き始めた。


*******

Yoshina

「手紙」「湿布」「万歩計」


「あれ?河本さん、あなた25歳ですか?」

「?ええ、そうですけど」

「ですよねー…」

 私が首をかしげると、旅券事務所の職員は住基ネットが映し出されているパソコンをまじまじと見つめる。

「あのー何か?」

 心配になって恐る恐る尋ねてみると、

「あなた56歳になってますよ」

「はあ!?」

 思わず身を乗り出す私25歳。

「恐らくこれ導入した時に入力ミスがあったんでしょうね。区役所で申請したら直せますよ」

 想定外の事実に顔を引きつらせる。よりにもよって56歳とは。そういえば最近湿布や万歩計を売り込むダイレクトメールが沢山来てたなあと思い出した。まさか原因はこれか。

「あと1枚資料の添付を忘れているので、また手紙で送ってください」

「……わかりました」

 脱力感いっぱいで事務所を出て帰路に着く。パスポートを申請しなければ私は当分56歳だったのか。あまり歓迎したくない誤差である。家に着くと郵便受けを覗く。やはりダイレクトメールが。

『中国3000年の奇跡!これを飲めばあなたも10歳若返る!!』

 ……いや、10歳言うたら中学生やん。

 明日区役所へ行こうと私は決意するのだった。



 即興小説傑作集第二弾、いかがだったでしょうか?

 心に残る作品があった、という方は作者様の名前を添えて感想を送るか、作者様のメールフォームをご利用ください。

 また、即興小説の活動は現在も「小説家になろう〜秘密基地〜」のみんなの掲示板にて行われています。傑作集には収録されていない作品もありますので、ぜひご覧下さい。参加もお待ちしております。


 それでは、今回参加していただいた方々のご紹介を最後に添えさせて頂きます。


■マグロ頭さま(W6336A)

■AKIRAさま(W7052A)

■yoshinaさま(W6246A)

■更紗ありさ様(W3245A)

■影之兎チャモさま(W6270A)

■松原志央さま(W5773A)

■ともゆき様(S0003A)

■和成創一さま(W8588A)

■ゆうな様(W4620A)


 ご協力、ありがとうございました!

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