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07年お正月

 昨年から始まった即興小説スレッド。皆様のご協力のお陰で、なんと年を越すことができました。この章はその頃の即興小説です。

 どうやら、小説の世界にもお正月は来たようで……。

松原志央

「猪」「黒豆」「命綱」


 どうやら今年は猪年(亥年)らしい。干支にはあまり興味がなくて気にしていなかったし、覚える気もなかったから猪があるなんて、ちょっと以外だった。

 これは、妹がおせちの黒豆を摘みながら、テレビの命綱だけを使い高い場所に上る人を中継すると言う有りがちなバラエティ番組を俺と一緒に退屈に見ている時に教えてくれた。


(より)ね、今年が年女なんだよー!」


「年女……?」


「お兄ちゃん知らないの?」


「あぁ」


「あのね……」


 とまぁこんな感じだ。どうやら俺は馬年(午年)生まれらしい。約5年まえ年男だったらしい。

 俺は黒豆を摘みながら後何年子供として正月を迎えられるか勘定した。


*******

影之兎チャモ

「駅伝」「お茶」「日の出」


 正月ほどテレビ番組がつまらない時期はないと思っていた。


 取り合えず、茶の間に映される駅伝。観ていても、なんでこんなにつまらないのしかやらないんだという愚痴しか浮かばない。

 なにが悲しくて人が、しかもムサ苦しそうな男が走っているだけの映像を流し続けるんだろうか。これは何かの拷問だろうか。日本人は皆マゾなんだろうか。

 俺は仕方なしに、本日何杯目になるか分からないお茶を汲もうと腰をあげた。


 と、その時だ。

 一緒にテレビを見ていた親父が、おぉっ! と、声をあげた。

「道路に裸の美女が飛込んできたぞっ」

「な、何ィ〜!?」


 すぐさまテレビに目をやるも、そこには既に美女はおらず。代わりに日の出の静止画に「しばらくお待ち下さい」というテロップが添えられていた。


 俺がその年から駅伝を欠かさず観るようになったのは言うまでもない。


*******

ゆうな

「しめ縄」「鏡餅」「おとそ」


「あかさたな、はまやらわ」

 正月気分が抜けず、昼まで寝ていた僕の耳に入ってくる妹の声。

 「いきしちに、ひみぃりぃ」

 もそもそと起きてリビングへ向かう。

 「うくすつぬ、ふむゆるぅ」

 ここ2、3日、僕の妹はこればかりを練習している。

 「えけせてね、へめぇれぇ」

 隣では鏡餅の残りを食べているじいちゃん。

 妹は最後の『ん』を言いたくて日々頑張っているのだが……。

 「おとそと…おとそこ……おこ、と…」

 いつもここで詰まる。小さな口を突きだし必死で頑張る妹が可愛いくて、この日僕はつい吹き出してしまった。



 ――次の瞬間、怒った妹の巨大な泣き声が家を揺らし、玄関に飾ったまま忘れられていたしめ縄を落とし、じいちゃんの咽に餅を詰まらせた。

 残っていた正月気分も一気に抜けていった。


*******

ゆうな

「日常」「初夢」「傘」


 今年、私は初夢を見ただろうか。

 ふと、そんな疑問が頭に浮かび、そしてすぅっと消えていった。


 目的もなく一人フラフラと歩いていた。暖かい陽射しが降り注ぎ、時間がゆったりと流れていた。

 と、向こうから濃い水色の傘が、上下に揺れながら歩いてくる――そう錯覚するくらい小さな少女が、傘からひょっこりと顔を覗かせた。側まで来ると、くりっとした大きな目で私を凝視し、少女はたどたどしい口調で突然叫んだ。

 「もうじきあめがふってくるよ!!」

 こんなにも晴れているのに?

 私は空を見た。

 その瞬間、空から滝のような勢いで水が流れ落ち、全てを飲み込んで行った。必死でもがく私を、水色の傘を船にしてぷかぷかと浮く先ほどの少女が、楽しそうに笑っていた。

 非日常的な出来事に対応出来なかったのか、泳ぎは得意なはずの私も、次第に荒れ狂う海の底に沈んで行った。


 ――はっとして目を覚ますと、遊びに来ていた幼い姪が私を覗きこみ、大量のよだれで私の顔を濡らしていた。

 こたつでウトウトしたせいか、今年の初夢は最悪なものとなった。


*******

和成創一

「日常」「初夢」「傘」


「これは夢だ」とはっきり自覚できる夢がある。

 俺の場合、それが初夢に訪れた。

 よりによって世界で一番大事にしている“傘”をぶっ壊してしまったところから始まるのだ。

 さらに夢は、この傘をくれた初恋の女の子の声で俺に追い討ちをかけてくる。

「そんな人だなんて知らなかった」

 俺は平身低頭、考えられるありとあらゆる手段を用いて彼女の気を引こうとした。夢と自覚している分、恥や外聞を気にする必要はない。全身全霊、一所懸命、一意専心……


 で、目が覚めて思い出す。そういえば初めて声をかけられた時の台詞も同じものだったと。

 すでにその子と“恋人”であることが日常を通り越してマンネリになっている今、俺はお節介な初夢に心から感謝した。

「初心忘れるべからず」


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