表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

コメディ

ケーブル

作者: ルーバラン

 ちょっとした豆知識。

 パソコンでインターネットにつなぐとき、ケーブルを使います。差し込む方をオス、差しこまれる方をメスと言います。


------


 今度、うちの会社が事務所の改装を行う。その際に煩雑になってしまったネットワークのケーブルも一新してすっきりさせようという計画をしている。

 その計画を進めていくために、今日は工事業者の鈴木電工さんと打ち合わせだ。今年入社したばかりの新人の加藤今日子も、隣に座らせ、参加させる。

 14時から開始の打ち合わせ。会議室に、業者の鈴木さんと俺と、新人の加藤がいる。今、ちょうど14時なったところだ。


「鈴木さん、はじめまして。今回はよろしくお願いします」


 名刺を交換して、打ち合わせを開始する。

 まずは目の前に広げた図面を見て、業者の鈴木さんが話を始めた。


「こちらこそよろしくお願いします……で、早速ですが先日メールで図面を送ってもらいましたから大体の事はわかるんですが……ここの天井部分はメス口に加工しておけばいいんでしょうか?」


 とんとん、とボールペンで気になった点をつつく。


「いえ。ここには無線を設置するんですよ。ケーブルを余分に購入したくないため、ここはオス口にしてもらえますか?」


「ああ、なるほどなるほど」


 そう言いながら、業者の鈴木さんは丸を打って「オス」とメモを図面に記入していく。


「……あの、先輩?」


 加藤から何か聞きたそうな目で見られてきたけれど、今は業者とのうち合わせの最中だ。


「あ、加藤。質問は後で聞くから。ちょっと待っとって」


「あ、はい」


 何を聞きたいか知らないけれど、後輩指導は後でいい。教育も大事だけど、業者を待たせてまでやる事じゃないからな。




 30分ほどで業者との打ち合わせは終わった。問題がありそうな箇所もなく、無事、ネットワーク含め工事は終わりそうだ。

 加藤と一緒に図面を片付けていたら、加藤が何かを訴えかけるような目で見てきた。


「……なんじゃいほら」


 何か言いたいことあるなら目で訴えかけてくるんでなくて、口を使え口を。

 困った顔をしていると、つい声をかけてしまう。ほんとは良くないんだろうけど……あかんな、自分。


「先輩先輩。さっきの打ち合わせで分からないところがあったんですけど」


「どこが分からなかったん?」


 別に、分かりにくいところなかった気がするんだが。

 広げたA2サイズの図面を折りたたみ、資料をクリアファイルに詰める。


「ほら、ケーブルの加工でオスとかメスとか言ってたじゃないですか。オスとかメスってなんですか?」


 ……それぐらい調べてくれ。と言いたいが、まだ入社して2か月ほど。知らなくても無理はないか。


「オスってのは差し込む側のケーブルの形で、メスっていうのは差し込まれる方の形。ほら、電話とかにも、壁に差込口があるだろ?」


 実物を見せて、これがオス口、これがメス口と話したが、どうも納得っていないよう顔をする加藤。


「ううん、どっちがオスでどっちがメスって言うのはわかったんですが、なんでオスとメスって言うんですか?」


 ……普通に考えればわかるだろ。


「加藤、これはそういうもんなんだ。別にお茶をなんでお茶って言うのかなんて、誰も疑問に思わない。それと一緒だ」


「絶対そんな訳ないですよ。先輩、何か隠してる顔してますもん! 先輩、なんでこっちがオスって言って、なんでこっちをメスって言うんですか?」


 いや、言いづらいから言わないんだっていうことを理解してくれよ。


「調べてくればわかるから」


 後輩指導、これは後輩指導なんだと言い聞かせながらも、いい加減、面倒になってきた。

 なんでこいつはわからないんだ。


「教えてくださいよ先輩! なんでこれがオスで何でこれがメスなんですか?」


「……」


 ゆっさゆっさと俺の腕をつかみ、ねだるように言ってくる。

 ……というか、会議室の片づけもほとんど全部俺がやって、なんでこいつは何もしない。口ばっか動かしてないで、手を動かせよ。


「先輩ってば、教えてくださいよ。ねえ、先輩ってば」


「男と女の夜の営み考えればわかるだろ! 言わせんな恥ずかしい!」


 ……しまった。ついイラッとして言ってしまった。加藤を見ると、はっとした顔をした後、顔を真っ赤にしていた。


「せ、せ、先輩のエッチー!」


 そう叫んで、手に持っていた片づけた資料を俺に投げつけてきた。バシンと俺のデコにぶち当たる。


「いってえ!? な、何しやがる加藤!?」


「せ、先輩がエッチこと言うから悪いんですよ! このバカバカバカ! バカ!」


 そう捨て台詞を残して、会議室を走って出て行った。

 ……というか、少し考えれば、ケーブルとケーブルの差込口って凸と凹なんだから、男と女、そこから連想してすぐにオスとメスなんて簡単に想像つくじゃねえか。なんで俺が馬鹿呼ばわりされなきゃいけないんだ。





「……うあ、先輩」


 加藤がまき散らした書類を全部片づけた後、自分の席に戻ったら、加藤が隣にいた。

 そらそうだろ。仕事中の席が隣なのに、逃げてどうするよ……その日は1日中、顔を合わせてにくかった俺と後輩の加藤だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 程よいえっちさ加減が可愛らしいですね。そのあたりの味付けが絶妙で面白かったです。 凹凸がある接続機器はけっこうオスメスと表現しますよね。加藤さんじゃないですけど、昔、それを知ってちょっと赤く…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ