万年二位の私、完璧超人のライバルに文句を言ったらなぜか告白扱いされたんだけど
「く、や、し、い!!!」
だんっ!
私は怒りに任せてテーブルに拳を叩きつけた。
地味に自分の手が痛くて、余計に腹が立つ。
「小テストの結果?」
目の前でお茶を飲むアリスがのんびり首をかしげた。
「そうよ、私、98点なのよ!すごいでしょ?すごいわよね!?」
「ちょ…近いよ、イーデル!!」
テストをぐいぐいとアリスの顔に押し付ける。
「すごいけど、エリオットは100点なんでしょ?」
聞きたくない事実に私は耳を塞いで机に突っ伏した。
「言わないで!」
「あのエリオットだよ?侯爵家のスーパーハイスペック男子。どうして勝てると思ったの?」
「入学試験は勝ってたのよ!!」
入学式で主席として挨拶したのは私だもの。
滅茶苦茶勉強して、死ぬ気で勝ち取った栄光よ。忘れないわ。
「それで目をつけられちゃった感じ、あるけどね?」
「器が小さい!!!」
主席確実と言われてた男――エリオット・フォン・グレイヴン。
ヤツが伯爵令嬢ごときにトップを奪われた時のあの顔は忘れない。
優雅に微笑んでいたが、こめかみが引きつっていたもの。
あれは相当悔しかったに違いない。
「でも、素敵だったよね。『君の努力に敬意を表する』だっけ?」
正面から見てたのは私だけだから、アリスは気が付かなかったみたいだけど、あのとき、ヤツの目は全然笑ってなかった。
「クレイヴン侯爵家の嫡男に『君は僕のライバルだ』なんて言わせるなんて、凄いことよ?」
そう。
それ以降、私はテストで一位を取ったことはない。
万年二位令嬢。…屈辱の二つ名だ。
そもそも、三位以下の連中に笑われる筋合いもないのよ。
それも腹が立つ。
ぷりぷりしていたら、背後から声がかかった。
「やぁ。賑やかだと思ったら、君たちだったんだ?」
「クレイヴン様!」
アリスの弾むよそ行きの声で、誰なのか分かってしまい、ぐっと眉が寄る。
厭味ったらしい、貴公子声が気に障るけど、相手は格上の貴族。
振り向く前に、なんとか頬を引き上げた。
笑えてる、…はずよね?
「小テストは残念だったね?君らしくない計算ミスだったみたいだけど?」
「苦手なところを確認できてよかったですわ。次につながりますもの」
腹 立 つ !!
毎度毎度、わざわざ嫌味を言いに来るのはなんなの。
「良ければ、僕が勉強を見てあげようか?」
「ご冗談でしょう?ファンの方に恨まれてしまいますわ」
「…前から、気になっていたんだが」
はっきり断るとヤツが小首をかしげた。
「僕は君に何かしたかな?」
アリスが小さく悲鳴を上げるほど破壊力のあるあざとい仕草に、イラッとする。
「どういう意味でしょうか?」
ほほほ、あんたがいちいち私の上に立つのが目障りだなんて、言えるわけないでしょうが。
「君はいつも淑女らしく振る舞っているのに、僕にだけ当たりが強いよね?」
「まぁ!心外ですわ」
分かってるなら、こっちに来ないでほしい。
「今だって『邪魔だ』って顔に出てるよ?」
「え!?」
うそでしょ!
思わず頬に手を当てる。
「…思ってるんだ」
カマかけやがった!
頬に手を当てたまま「ほほほ」と誤魔化す。
「女性から疎まれる経験がないんでね。良かったら理由を聞かせてくれないか?」
ええ、そういうところが全部鼻につくんですよ。
そんなこと、言うわけにはいかない。
「私には眩しすぎて距離を感じてしまうんですわ」
適当に誤魔化そう。
確かに私の態度は感じ悪いと思うけど、妬み嫉みの結果だもん。
直せる気がしない。
「へぇ?」
ヤツの唇が薄く持ち上がった。
その目が貴公子にあるまじき苛立ちを含んでいる。
やばい。なんか怒らせたっぽい…
「アリス嬢、少し見なかったことにしてくれないか?」
「勿論ですわ!」
待って、アリス!
お願いだから即答しないで。
助けを求めて視線を投げたけど、アリスは手元の本に目を落として、私なんか見向きもしない。
高位貴族に逆らわない。
貴族の鏡か!
内心でオタオタしてると、ヤツの細く綺麗な指先が顎に添えられ、上を向かされた。
間近に迫る端正な顔に、思わず声がひきつる。
「しゅ…、淑女に対して失礼なのでは?」
「君が白々しい嘘をつくからだ」
なんで、こんなにしつこいの!!
思わず睨み付けると、またヤツの目が細くなる。
「『眩しい』の?」
「このような態度、理解いたしかねますわ」
「この距離で、僕にそんなこと言えるのは君だけだと思うよ?」
カフェテラスの視線が集まってくる。
エリオット・フォン・グレイヴンは、いつでも注目の的なんだから当然だわ。
だけど、私も限界だった。
「そういうところです!」
顎に固定されていた手を振り払う。
「みんながあなたに夢中だと、確信しているそういう態度が私には合わないんです」
叩き落とされた手を、ヤツは呆気に取られた顔で見ていた。
まず、女性に拒否されたことがないんだろう。
もう、社会勉強と割り切って、私の事は忘れてほしい。
「顔が良くて、スタイルが良くて、頭が良くて、おまけに剣術も素晴らしいからって自惚れないで!」
溜まっていた鬱憤を晴らすように、私は不満を叩きつけた。
「意外な高評価……」
「違います!!」
呆然と呟くヤツの言葉を全力で否定する。
しかし、ヤツは椅子を引いて、私の正面に腰を下ろした。
「素晴らしい告白に聞こえたけど?」
「違います」
ギリギリと拳を握りしめる。
事実の羅列は告白では絶対にない。
「僕が君より優秀なのが不満なんだ?」
「…そうですね」
公開処刑か。
悔しさで目がチカチカする。
「でも、君より頭悪い男は論外だろう?」
「…?まぁ、そうですね?」
あれ?なんか空気がおかしい。
ヤツの手が私の手を取る。
――近い。
「なら、僕は君に意識してもらえるように、常に君の上に立つしかないよね?」
「……?」
一瞬の空白。
「きゃぁ!」
本を読んでるはずのアリスの悲鳴が聞こえた。
「君の気持ちが分かって良かったよ」
ヤツの目が、猫のように細くなった。
あれ?私もしかしてネズミなの?
「違う、絶対違う!!」




