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追放された万能補助師、辺境で気ままにスローライフしてたら、なぜか英雄も聖女も集まってきました〜気付けば最強国家の王様扱いです〜  作者: 妙原奇天


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第9話 辺境の砦と、不吉な予兆

 辺境へ向かう街道は、思った以上に荒れていた。

 王都の修繕には大勢の人と物資が回されているためか、こちらの街道は石畳の補修が滞り、雑草が割れ目から伸び放題になっている。馬車の轍も深く、すれ違う旅人の顔には疲労と警戒が色濃く浮かんでいた。


 俺とリュミナ、そして新たに加わったカイルは、ノコを先頭に歩を進める。森を抜け、丘を越え、やがて視界に低い砦が現れた。


 砦といっても、城のような立派な造りではない。石を積み上げただけの壁と、木造の櫓。だが辺境の人々にとっては唯一の拠り所だった。


「ここが……辺境砦ですか」

 カイルが声を上げる。彼の瞳には期待と不安が混ざっていた。


「そうだ。瘴気の柱が再び立つなら、こうした小さな砦がまず飲み込まれる」

 俺は言い、足を止めた。


 門の前にいた兵が俺たちを見て警戒の声を上げたが、リュミナが癒やし手であると名乗ると、すぐに表情が緩んだ。彼らは疲弊していた。



 砦の中は混乱していた。

 兵舎には負傷兵が溢れ、物資庫には空の木箱が積まれている。井戸の水も濁り、子どもたちは不安げに母親の背にしがみついていた。


「昨日から家畜が次々に倒れて……」

「瘴気の柱は見えないが、影だけが伸びてきているんだ」


 人々の声は怯えと焦燥で揺れていた。


「影……?」

 カイルが眉をひそめる。


「そうだ」

 俺は砦の外を見やる。確かに、日暮れが近いわけでもないのに影が長く、濃く伸びている。壁の石の間から漏れる闇は、まるで誰かが下から糸で引いているかのように不自然だった。


(まだ柱は立っていない。だが……兆しはある)



 その夜、俺たちは砦に泊まることになった。

 焚き火を囲み、簡素な食事を取る。パンは固く、干し肉は塩辛いが、疲れた体にはありがたかった。


「僕、ここに来るまでずっと悔しかったんです」

 カイルがぽつりと口を開いた。

「学院では“術式を作っても派手さがない”と笑われて……誰にも認められなかった。でも、アレンさんの補助を見て、目が覚めました」


「目が覚めた?」


「はい。魔法は光や炎だけじゃない。縫うように繋ぐのも、立派な魔法だって」


 彼の目は真剣だった。

 リュミナが微笑む。「あなたの術式、きっと役に立つわ」


「……ああ。ただし条件がある」

 俺は低く言った。

「仲間のために縫え。自分の力を誇るな」


 カイルは迷いなく頷いた。



 深夜。

 ノコの唸り声で目が覚めた。外を見ると、砦の周りに濃い影が集まり、地面を這っていた。


 闇の中から、低い呻き声。

 人の形をした影が立ち上がり、砦を取り囲む。


「影喰い……!」

 リュミナが杖を構えた。


「カイル、準備しろ」

 俺は符を散らし、印を刻む。


「《補環・斥霧結界》!」


 光の網が砦を包む。影喰いが壁にぶつかり、黒い霧となって弾ける。

 だが数が多すぎる。次から次へと湧き出し、結界を削っていく。


「持たない!」

 カイルが叫ぶ。


「なら縫い足せ!」

 俺は指を血で染め、さらに符を刻んだ。


「《補環・多重縫合マルチ・ステッチ》!」


 光の糸が幾重にも重なり、結界を補強する。

 同時にリュミナの祈りが兵士たちを支え、カイルの術式が符の効果を倍加させた。


 影喰いが次々に砕け、夜空に黒い火花が散る。


 だがその奥――森の闇の中に、異様な光が灯った。

 柱ではない。まだ小さい。だが、脈打つ赤黒い光。


(これは……芽か)


 瘴気の柱が立つ前段階――「瘴芽」。

 それが砦の外で脈動していた。


「明日には立つ」

 俺は呟いた。

「時間がない」



 夜明け。

 砦の上から見た森には、すでに黒い筋が走っていた。


 兵士たちの顔に絶望の色が広がる。

 だが俺は背筋を伸ばし、声を張った。


「諦めるな。瘴芽は縫える。砦を守るために、俺たちが縫い止める」


 リュミナとカイルが俺の隣に立ち、ノコが吠えた。

 影の中に、確かな希望の拍が響き始める。


 辺境の砦を守る戦いが、今、始まろうとしていた。

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