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追放された万能補助師、辺境で気ままにスローライフしてたら、なぜか英雄も聖女も集まってきました〜気付けば最強国家の王様扱いです〜  作者: 妙原奇天


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第7話 縫い跡の街

 王都の夜明けは、いつも鐘の音から始まるはずだった。

 けれど今、鐘楼に吊された鐘はひび割れ、ただ冷たい鉄の塊となっている。

 代わりに聞こえるのは、人々のざわめき、修繕を始める槌音、子どもの泣き笑い。


 戦は終わった――だが、街はまだ震えていた。



「アレン、こちらを」

 リュミナが布を差し出す。血に濡れた俺の腕を、ためらいもなく包もうとする。


「自分でやる。……補助師は、縫うのが仕事だ」

 冗談めかして笑ったが、彼女は真剣な顔で首を振った。


「あなたは人の傷を縫える。でも、自分の傷は……わたしが縫う」


 布が締まり、滲む痛みが薄らぐ。ノコがその様子を心配そうに見上げ、尻尾をちょんと叩いた。


 少し離れた場所で、レオンとガイルが市民に声をかけていた。

 勇者の名はまだ人々に響く。だが、その隣に立つ俺の名は、知られていない。

 それでいい。舞台に名が刻まれる必要はない。布の裏で縫い目がしっかりしていれば、表の模様は美しく見えるのだから。



 昼前、王城からの使者が来た。

 緋色の外套をまとった老人――宰相オルフェンだ。王に次ぐ権力を持つ男が、自ら瓦礫の広場に足を運ぶとは。


「補助師アレン、と申されたか」

 白い眉の下の目は、鷹のように鋭い。


「ああ」


「王は汝の功績を讃え、騎士団長に次ぐ地位を……」


「断る」

 即座に遮った。


 広場が一瞬、静まり返る。レオンでさえ言葉を失った。


「俺が欲しいのは椅子じゃない。王都が自分で立てるように“型紙”を渡すだけだ」


 宰相の目が細められる。怒気ではなく、探る光。

 しばしの沈黙のあと、彼は頷いた。


「ならば、王命として求めよう。王都を守る術を、形にして残せ」


「わかった。だが条件がある」


「ほう」


「王都だけじゃない。辺境にも、鉱山にも、港町にも。暮らす人々の祠を直し、水路を繋ぎ、避難の道を刻む。そのための自由をくれ」


 宰相は口元に皺を寄せ、やがて静かに笑った。


「自由は重いぞ、補助師」


「針と糸は重くない。だが、布を繋がなければ人は裸だ」


 その返しに、老人はさらに目を細めた。



 夕刻。

 修繕が進む街を歩くと、子どもが石畳に落書きをしていた。

 黒柱が立っていた跡を、白い粉でなぞり、そこに花を描いている。


「ここ、もう怖くないよ」

 笑う声に、大人たちも足を止める。


 俺は胸の奥でひとつ糸を結んだ。

 まだ十二柱の影がある。調律師は必ず戻る。

 だが――今日、王都の人々は“自分で祈りを重ねる力”を見せた。


 補助は影で十分だ。

 人が自らの歌を取り戻せるなら、それを縫う糸になる。


 ノコが吠えた。尾を振り、次の道を示すように。


「行くか」

 俺は頷いた。


 のんびりと暮らすための旅は、まだ続く。

 影で縫い、拍を揃え、暮らしを守る。

 ――十二柱が立ち上がる前に、世界を“縫い直す”ために。

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