表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された万能補助師、辺境で気ままにスローライフしてたら、なぜか英雄も聖女も集まってきました〜気付けば最強国家の王様扱いです〜  作者: 妙原奇天


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/31

第4話 王都の影

 王都へ近づくにつれ、空は濁った色を帯びていった。

 街道を渡る風が、ほんのりと鉄の匂いを含んでいる。焚き火の煙でも、馬糞でもない。――瘴気の匂いだ。


 ノコが鼻を鳴らし、低く唸った。

 ガイルは外套の裾を掴み、言葉少なに歩を速める。


「王都は……どうなっている」

 問う俺に、彼は目を逸らした。


「見るがいい。あと半刻で城壁が見える」



 城壁が視界に入ったとき、息を呑んだ。

 白亜だったはずの壁は灰色に曇り、上空には黒い線が柱のように立ち上がっている。霧の筋が塔を呑み、旗を腐食させ、空気を震わせていた。


「三本……?」

 リュミナが杖を握る。

 確かに、瘴気の柱が三つ、王都の三方を囲むようにそびえていた。南門の手前で馬車が立ち往生し、荷を捨てて逃げる人々が群れを成す。


「三つとも、同時に……」

 俺は呟き、足を止めた。

 柱が三本立つなら、ただの偶然ではない。拍の取り合わせで“合奏”するつもりだ。王都そのものを呑み込む大規模な式。


「勇者隊は?」


 俺の問いに、ガイルが苦く笑った。


「レオンは中央の柱へ向かった。セラは北、ミレイユは東。……そして俺は、戻された。『呼んでこい、アレンを』と」


 その名を聞いたとき、胸がひりついた。

 捨てた者たちが、また俺を求める。

 だが怒りは湧かない。代わりに、妙な静けさが心に広がった。


「俺が行くのは、レオンの柱だ。ガイル、お前は案内を」


 彼は頷き、剣を握り直した。



 南門を抜けた瞬間、街の景色は一変した。

 市場の屋台は倒れ、果物も肉も腐汁を垂らしている。

 人影は少なく、見えるのは徘徊する霧喰いばかり。


 ノコが飛びかかり、符の光で強化された牙が一体を粉砕する。

 俺は即座に印を重ねた。


「《補環・結界展開》!」


 広場に光の網が走り、逃げ遅れた子どもと母親を包み込む。

 リュミナが駆け寄り、傷を癒やす。


「ありがとう……!」

 母親の声は震えていたが、光に照らされ、恐怖は和らいでいった。


 その姿を見た瞬間、俺は改めて確信した。

 ――補助は、決して無駄じゃない。

 守るべきものはここにある。



 やがて、中央広場が見えてきた。

 石畳を割ってそびえる黒柱。

 その根元に、レオンの姿があった。


 鎧は傷だらけ、剣は霧を浴びて鈍っている。

 だが彼の目は、まだ燃えていた。


「アレン……!」

 レオンがこちらに気づいた。

 その声には、怒りも嘲笑もなかった。あるのは、助けを乞う必死さだけ。


「来い! 俺にはお前が必要だ!」


 広場を覆う瘴気が、耳を裂くように鳴った。

 黒柱の刻線が、不気味な光を帯び始める。


 俺は一歩、踏み出した。

 怒りではなく、復讐でもなく。

 ただ、この街を守るために。


 補助師の糸を、再び紡ぐために。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ