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追放された万能補助師、辺境で気ままにスローライフしてたら、なぜか英雄も聖女も集まってきました〜気付けば最強国家の王様扱いです〜  作者: 妙原奇天


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第30話 余韻の縫止め、地上への帰還

 調律師は霧散した。

 だが影の都はまだ生きているかのように震えていた。

 壁の譜面は消えかけながらもかすかな響きを残し、街路は軋むように音を奏でていた。


「……まだ終わっていない」

 俺は手に残った糸の震えを見つめる。

 調律師が消えても、都に刻まれた曲が残響として鳴り続けている。

 このままでは地上に影が滲み出すだろう。


 リュミナが膝をつき、祈りを込めた。

「アレン……最後の“縫止め”を」


 カイルがぼろぼろになった符を差し出す。

「もう新しい符は描けません。でも……この残骸を燃やせば、糸を強めることくらいはできます」


 セイルが影符を握り潰し、影を地に染み込ませた。

「俺の血も使え。影に生まれたものの役目として、最後に都を閉じる」


 ノコが弱く吠え、俺の足元に顔を擦り寄せる。

 獣の声までも、糸の一部に加えようとするように。


「……ありがとう、みんな」

 俺は血を滲ませ、広間の床いっぱいに最後の印を描いた。



 印が完成すると同時に、都全体の響きが一斉に集まってきた。

 まるで“余韻”そのものがひとつの旋律となり、俺に縫われることを拒んでいるようだった。


「くっ……!」

 糸が軋み、手が裂ける。

 血が滴り、光と影が入り混じった布に染み込む。


「アレン!」

 リュミナが祈りを叫び、カイルが符を燃やし尽くす。

 セイルが剣を突き立て、影を縫い込む。

 ノコが最後の力で吠える。


 仲間の声が俺を支える。


「――《補環・終縫結界ファイナル・クロージャー》!」


 布が広間全体を覆い、都そのものを縫い止めた。

 響きがひとつ、またひとつと消えていく。

 街路の軋みが止まり、建物の震えが静まる。

 やがて黒い天蓋が砕け、光が差し込んだ。



 目を開けると、俺たちは砦の丘に立っていた。

 遠くに広がる空は青く澄み、影の都は跡形もなく消えていた。

 ただ一面の草原が風に揺れているだけだった。


「……帰ってきた……」

 リュミナが涙を流す。


 カイルはその場に倒れ込み、息を荒げながら笑った。

「本当に……終わったんですね……」


 セイルは外套を翻し、低く呟いた。

「都は閉じた。俺の役目も、これで果たされた」


 ノコが弱々しくも尾を振り、俺の足元に頭を乗せる。

 その温もりを感じながら、俺は空を仰いだ。


「俺たちの声で……影を縫い止めた。

 これが……俺たちの合奏だ」


 風が吹き抜け、まるで新しい曲の始まりを告げるように草原を揺らした。



 だが物語は、これで終わりではなかった。

 地上に戻った今、待つのは人々の声だ。

 英雄と呼ぶ者もいれば、異端と罵る者もいるだろう。

 それでも俺は――補助師として縫い続ける。


 人の声を。

 影の記憶を。

 そして、新しい未来を。

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