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追放された万能補助師、辺境で気ままにスローライフしてたら、なぜか英雄も聖女も集まってきました〜気付けば最強国家の王様扱いです〜  作者: 妙原奇天


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第29話 調律師との最終楽章

 交響を縫い止めたはずの糸が、再び震え始めた。

 影の都そのものが抵抗し、縫い目を食い破ろうとしている。

 仮面の調律師は杖を掲げ、割れた面の奥から光る目をのぞかせた。


「補助師よ……ここまで辿り着いたことは讃えよう。

 だが“最終楽章”に至り、糸など意味を持たぬ」


 広間全体が鳴動する。

 壁に刻まれた譜面が赤黒く燃え、都の鼓動が狂ったリズムで鳴り響いた。

 これは音ではない。都市そのものが心臓となり、最後の曲を奏で始めている。



「……アレン」

 リュミナが俺の腕を掴む。

「これ以上、あなたの糸だけじゃ持たない。私の祈りも、カイルの符も、セイルの影も……全部を重ねて!」


 カイルは震える手で符を差し出す。

「最後なら……僕の命を燃やしてでも!」


 セイルが外套を翻し、低く笑った。

「影に生まれた俺が、影を裏切る最期だ。悪くない」


 ノコが牙を剥き、俺の足元に立つ。

 その吠え声は「共に行く」と告げていた。


 俺は深く息を吸い込む。

 血で大きな印を描き、仲間全員の声を束ねる。


「行くぞ――最終楽章だ!」



 調律師の杖が振り下ろされ、黒い光が奔流となって広間を覆った。

 都市の旋律が牙を剥き、影人の残骸が再び立ち上がる。

 すべてが絶望の曲に繋がろうとしていた。


「《補環・最終縫合ファイナル・ステッチ》!」


 俺の叫びと共に、光と影と祈りと符と吠え声がひとつに編み込まれる。

 巨大な糸の布が広間全体を覆い、調律師の旋律とぶつかった。


 轟音。

 天蓋が砕け、都市が悲鳴を上げる。

 縫い目が軋み、糸が次々と切れる。


(まだだ……! ここで途切れさせない!)


「みんな、声を――!」

 俺の叫びに応えるように、リュミナが祈りを絶叫し、カイルが符を燃やし尽くし、セイルが影を解き放ち、ノコが天を突くように吠えた。


 そのすべてが糸に重なり、布はさらに輝きを増す。



 調律師の仮面が砕け、素顔が現れた。

 そこには人間に似た顔――だが口がなく、ただ無数の譜面が刻まれていた。


「……声を持たぬ者が、旋律を求めた」

 低い声が心の奥に直接響く。

「だからこそ、世界を曲に変えようとした」


 俺は血まみれの手で糸を引き絞る。

「お前が欲しかったのは“声”だろう?

 ならば――俺たちが縫い合わせた声をくれてやる!

 これが人の合奏だ!」


 布が一気に収縮し、調律師の身体を縫い止めた。

 仮面の奥の譜面が裂け、光が溢れ出す。


「……これが……声……」


 調律師の姿が霧散し、旋律が途絶えた。



 静寂。

 広間を覆っていた譜面は崩れ落ち、影の都の鼓動が止んだ。

 黒い天蓋に裂け目が走り、遠くに地上の光が差し込む。


 リュミナが涙を流し、カイルがその場に崩れ落ちる。

 セイルは剣を杖代わりに立ち、低く呟いた。

「……終わったか」


 ノコが弱々しく吠え、俺の手に頭を寄せた。


「いや……」

 俺は空を見上げる。

「まだ“縫い目”は不完全だ。都を閉じるためには――最後の仕上げがいる」


 影の都は沈黙している。

 だが、このままでは地上に残響が響き続ける。


 最終楽章の余韻を、完全に縫い止めなければならない。

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