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追放された万能補助師、辺境で気ままにスローライフしてたら、なぜか英雄も聖女も集まってきました〜気付けば最強国家の王様扱いです〜  作者: 妙原奇天


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第26話 第二楽章・影の嵐

 黒い嵐が広間を呑み込んだ。

 譜面の壁がうねり、音符のような裂け目が開いては弾ける。

 そのたびに鋭い旋律が耳を突き、目を閉じても頭蓋の奥を叩かれるような痛みが走った。


「――っぐ!」

 リュミナが膝をつき、祈りが乱れる。

 カイルは符を広げながら必死に耐えているが、手が震えている。

 セイルでさえ影符を支えきれず、外套を大きく裂かれていた。

 ノコが牙を剥き、俺の前に立って吠える。


「補助師よ」

 調律師の声が嵐に溶け込む。

「第一楽章は前奏にすぎぬ。これが“第二楽章”――影の嵐。糸など紙切れのように散る」


 黒い指揮杖が振り下ろされ、嵐がさらに強まる。

 兵士たちの影が剥がれ、次々と影人へと変わっていく。


「やめろ……!」

 俺は符を噛み切り、血で印を刻む。

「《補環・多重縫合マルチ・ステッチ》!」


 光の糸を幾重にも重ね、兵士の影を縫い止める。

 だが次々に押し寄せる旋律の刃に、糸は千切れていった。


(駄目だ……! 普通の縫いでは追いつかない!)



 その時、カイルが叫んだ。

「アレンさん! 符に“逆旋律”を組み込みました! 嵐を打ち消せるかもしれない!」


「だがリスクが大きい!」

 リュミナが顔を上げ、必死に制止する。

「逆旋律は使う者の心を削る。あなた自身が……!」


「やるしかない!」

 カイルの目は恐怖よりも決意で光っていた。


 俺は頷き、彼の符を受け取った。

「ありがとう。あとは俺が縫う」


 符を刻み、血と声を重ねる。

「――《補環・逆旋律縫合カウンター・ステッチ》!」


 広間に逆位相の旋律が響き、嵐の一部が霧散した。

 空気が震え、調律師の仮面がわずかに傾く。


「……ほう。旋律を逆さに縫うか」

 その声にわずかな興味が滲む。

「だが、それは長く続かぬ」


 確かに、逆旋律を維持するほど胸が軋む。

 心臓の鼓動が乱れ、糸の震えが伝わってきた。



「アレン!」

 リュミナが叫ぶ。

「無理をすれば――あなたが影に呑まれる!」


「わかってる! でもここで退けば、地上が呑まれる!」


 ノコが吠え、セイルが影符を投げる。

 仲間の声が俺を支えた。


 俺は最後の符を掲げ、血で大きな印を描いた。


「《補環・縫嵐終止ストーム・ノット》!」


 光と影と逆旋律の糸が束ねられ、黒い嵐を縫い裂いた。

 轟音と共に広間の壁が崩れ、調律師の旋律が一瞬止まる。



 静寂。

 調律師は仮面を傾け、低く呟いた。


「……なるほど。お前の糸は確かに強い。

 だが、第二楽章はまだ半ばにすぎぬ。次に響くのは――“影の合唱”だ」


 杖が再び振られる。

 広間の譜面全体が震え、無数の影人が声を揃え始めた。

 それは嵐ではなく――地響きのような合唱だった。


(次は……本当の総力戦だ!)


 俺は膝をつきながらも立ち上がり、仲間を見渡した。

「ここで縫う! 絶対に……負けない!」

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