第25話 調律師との第一楽章
広間を満たす旋律は、ただの音ではなかった。
それは刃であり、鎖であり、心を震わせる呪いだった。
壁の譜面が脈動するたび、仲間の息が乱れ、俺の糸は次々と切り裂かれていく。
「アレン……!」
リュミナが祈りを重ねるが、その声すら旋律に呑まれそうだった。
「補助師よ」
調律師の低い声が響く。
「糸で旋律を縫おうなど、愚かな試みだ。旋律はただ響き、完成に至るべきもの」
「違う!」
俺は符を噛み、血で大きな印を描いた。
「響くだけなら、ただの音だ! 糸があるからこそ、人の声は“曲”になる!」
調律師の杖が振り下ろされ、黒い衝撃波が広間を薙いだ。
兵士たちが吹き飛び、石の床に叩きつけられる。
カイルが必死に符を広げ、叫ぶ。
「アレンさん! 僕の符で響きを増幅します! 一緒に!」
「任せろ!」
俺は符を重ね、声を張った。
「《補環・二重縫合》!」
光と符の糸が重なり、黒い衝撃波を押し返す。
その隙にセイルの影符が記譜士たちを縛り、リュミナの祈りが仲間を癒やす。
ノコが吠え、群れを切り裂いた。
*
だが調律師は一歩も動かない。
仮面の奥から響く旋律は、なお増していく。
杖が振られるたび、広間の譜面が新しい音を放つ。
「これが……第一楽章……」
セイルの声が低く響く。
「奴はまだ、本気を出していない」
リュミナが血の気を失った顔で俺を見る。
「アレン、このままじゃ……!」
「わかってる!」
俺は奥歯を噛みしめ、血でさらに印を刻む。
(ここで退けば、地上は影に呑まれる。俺たちが縫うしかない!)
*
「皆、声を合わせろ!」
俺は広間に響くよう叫ぶ。
「これは“第一楽章”だ。次が来る前に、縫い目を刻む!」
リュミナの祈りが旋律となり、カイルの符が光を放ち、セイルの影が絡み、ノコの吠え声が広間を震わせる。
それらすべてが糸となり、俺の印に重なった。
「――《補環・合奏縫合》!」
光と影の糸が束ねられ、調律師の旋律に挑む。
広間の壁が震え、仮面がわずかに軋む音を立てた。
調律師の杖が止まり、低い声が響いた。
「なるほど……これが、お前たちの曲か。
だが――楽章はまだ始まったばかりだ」
仮面の奥の目が光を放ち、広間全体の譜面が一斉に鳴り響いた。
黒い嵐が巻き起こり、第二楽章の幕が上がろうとしていた。
調律師との第一楽章が幕を開けました。
アレンたちの縫い合わせた旋律は確かに届きましたが、敵はまだ力を隠しています。
次の楽章で何が起こるのか――ぜひブクマ・評価・感想で応援してください!
あなたの声が、この物語を最後まで縫い続ける糸になります。




