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追放された万能補助師、辺境で気ままにスローライフしてたら、なぜか英雄も聖女も集まってきました〜気付けば最強国家の王様扱いです〜  作者: 妙原奇天


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第24話 影の宮廷と、調律師の姿

 大指揮者を縫い潰した後も、影の都は静まらなかった。

 黒い天蓋の奥からはなお低い鼓動が続き、街路の譜面は脈動をやめない。

 俺たちは荒れ果てた広場を抜け、さらに奥へと進んでいった。


 石造りに見えるが、触れれば影が揺れる宮殿。

 それが「影の宮廷」だった。

 都の中心にそびえる黒い城。譜面を模した柱が何十本も並び、音符のような窓が並ぶ。


「ここが……」

 リュミナが息を呑む。

「影の都の中心……」


 セイルが外套を翻し、低く言った。

「この先に“調律師”がいる。俺の故郷であり、俺が裏切った場所だ」


 カイルが符を握りしめる。

「いよいよ本丸ってことですね……」


 ノコが吠え、宮廷の大扉を睨んだ。



 宮廷の中は、異様な静けさに包まれていた。

 壁には巨大な譜面が描かれ、階段の一段ごとに旋律が刻まれている。

 歩くだけで音が鳴り、進むごとに旋律が重なっていく。


「まるで……歩みそのものが曲になってる」

 カイルが呟く。


「罠だ」

 セイルが言う。

「ここを歩く者の心拍と声を記録し、“調律”に組み込むための」


 俺は足を止めた。

 心臓の鼓動が階段に刻まれるのを、確かに感じた。


(これ以上は……奴の舞台に呑まれる)


「俺の糸で縫って進む。みんな、声を合わせろ」

 符を刻み、印を描く。

「《補環・歩調縫い》!」


 仲間の声と俺の糸が階段を覆い、旋律の罠を縫い止めた。

 その隙に俺たちは宮廷の奥へ進んだ。



 やがて、巨大な広間に辿り着く。

 天井は見えないほど高く、壁一面が楽譜のような模様で覆われている。

 その中央に――調律師がいた。


 黒い外套、白い杖。

 顔は仮面に覆われ、表情はない。

 だが、その存在だけで空気が震えた。


「……来たか、補助師」

 低い声が広間に響く。

「糸で旋律に抗う異端。だが、縫い目は必ず解ける。曲は完成へ向かうのみ」


「完成させれば、人は影に呑まれる」

 俺は睨み返した。

「俺は縫う。人の声を繋ぎ、影も光も布にする」


 調律師が杖を振ると、広間全体の譜面が光った。

 影人が壁から溢れ出し、旋律を叫びながらこちらに迫る。


「……試そう。お前の糸が、この曲に耐えられるか」



 俺は符を切り、血で印を刻む。

「《補環・全縫合》!」


 光の糸が仲間を繋ぎ、影人の群れを押し返す。

 リュミナの祈りが流れ、カイルの符が響きを増幅し、セイルの影符が敵を縛る。

 ノコが先頭で吠え、群れを切り裂いた。


 だが調律師の旋律は圧倒的だった。

 杖が振られるたび、壁の譜面が音を放ち、俺の糸を切り裂く。


(これが……調律師の力……!)


 血を吐きながらも、俺は歯を食いしばった。

「まだだ……まだ縫える!」


 仲間の声が重なり、広間に新しい旋律が響いた。


 調律師の仮面が、初めてわずかに揺らいだ。

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