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追放された万能補助師、辺境で気ままにスローライフしてたら、なぜか英雄も聖女も集まってきました〜気付けば最強国家の王様扱いです〜  作者: 妙原奇天


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第23話 大指揮者の影と、縫い目の決意

 広場全体が震えた。

 記譜士たちの杖が一斉に振り下ろされ、旋律が黒い波となって押し寄せる。

 影人の群れは声を揃えて囁き、街路の建物さえ唸りを上げて音を放った。

 影の都そのものが、巨大な楽器のように鳴動していた。


「……来るぞ!」

 セイルが影符を構える。


 裂け目の奥から、ゆっくりと姿が現れた。

 人の形をしている――だが、その背丈は塔のように高く、腕は無数の指に分かれていた。

 仮面をつけた顔には口がなく、代わりに譜面が刻まれている。


「……あれが……」

 リュミナの声が震えた。


「“大指揮者”」

 セイルが呟く。

「影の都の主。記譜士たちが旋律を合わせることで呼び起こされる、影の核だ」



 大指揮者が両腕を振り下ろす。

 指が弦のように空気を弾き、轟音が広場を覆った。

 兵士たちの影が抜け落ち、別の影人として立ち上がる。


「仲間の影まで……!」

 カイルが蒼白になる。


「絶対に負けられない!」

 リュミナが祈りを叫ぶ。


 俺は符を噛み、血で印を刻む。

「《補環・影光縫合シャイン・ステッチ》!」


 光と影の糸が交差し、影人を縛る。

 だが大指揮者の一振りで、糸は容易く断ち切られた。


(強すぎる……! 普通に縫っただけじゃ止まらない!)



 ノコが吠え、影人に飛びかかる。

 だが、影の指が襲いかかり、弾き飛ばされた。

「ノコ!」

 俺は駆け寄り、必死に抱きかかえる。

 まだ息はある――だが衝撃で立ち上がれない。


 その時、記譜士のひとりが声を上げた。

「補助師よ、見ただろう! 縫い目など無力だ! 旋律こそが世界を織り上げる!」


「違う!」

 俺は立ち上がる。

「旋律は確かに力だ。だが、声がなければ響かない。布がなければ音は消える!

 俺は縫う。人の声と影を繋ぎ、新しい旋律を作るために!」


 リュミナが頷き、カイルが符を差し出す。

「僕の符を……アレンさんの糸に重ねてください!」


 セイルが影符を突き出す。

「俺の影もだ。光と影、両方を束ねろ!」


 仲間の声が重なり、俺の胸を打つ。



 俺は全ての符をまとめ、血で大きな印を描いた。

 広場の地面いっぱいに縫い目を刻み、空へと伸ばす。


「《補環・総縫合グランド・スティッチ》!」


 光と影と声の糸が束ねられ、大指揮者の腕を縫い止める。

 記譜士たちの旋律が揺らぎ、仮面がひび割れた。


 だが――大指揮者はなおも動く。

 巨大な譜面の顔がこちらを向き、空白の口から低い音が鳴り響いた。

 その一音で、広場全体の糸が震えた。


「まだ……終わってない!」

 俺は血を吐きながら叫ぶ。

「縫うんだ――俺たちの声で!」


 仲間が応えた。

 リュミナの祈り、カイルの符、セイルの影、ノコの吠え声。

 それらすべてが糸に編み込まれ、大指揮者の旋律へ挑む。



 広場に響いたのは、二つの合奏だった。

 一方は影の旋律。

 一方は人の声を縫い合わせた新しい布。


 そのぶつかり合いの中で、俺の心臓は焼けるように熱くなった。

 だが、退くわけにはいかない。


(俺は補助師だ。舞台に立つ者ではない。

 けれど――舞台を支える縫い目がなければ、旋律は決して完成しない!)


 俺は最後の叫びを放った。


「《補環・縫止め終結ファイナル・ノット》!」


 光と影の糸が、大指揮者の譜面の顔を縫い裂いた。

 轟音と共に広場が揺れ、黒い建物が崩れ落ちる。


 ――そして。

 大指揮者の影が霧散した。



 広場に沈黙が戻る。

 記譜士たちは仮面を砕かれ、影となって消えていった。


 リュミナが膝をつき、祈りを終える。

 カイルが歓喜の涙を流し、セイルが低く呟く。

「補助師……お前は、旋律を縫い変えた」


 ノコが弱々しく吠え、俺の手に頭を預けた。

 その温もりを感じながら、俺は静かに息を吐いた。


「……まだ終わりじゃない。都の中心が残っている」


 影の都の奥から、再び低い鼓動が響く。

 それは次の舞台の始まりを告げていた。

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