表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された万能補助師、辺境で気ままにスローライフしてたら、なぜか英雄も聖女も集まってきました〜気付けば最強国家の王様扱いです〜  作者: 妙原奇天


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/31

第22話 影の街路と、囁く影人

 影の都に踏み込んだ瞬間から、空気そのものが異質だった。

 息を吸うたびに冷たさが胸を刺し、耳の奥に絶えず旋律が囁いてくる。

 街路は黒い譜線のようにうねり、建物は音符のように連なっていた。


 影の住人――いや、「影人」と呼ぶべき存在が歩いている。

 顔はなく、ただ人の形をした影が並び、低く何事かを囁き合っていた。


「聞くな」

 セイルが低く言った。

「影人の囁きは心を削る。耳に残した瞬間、影の一部に取り込まれる」


 ノコが低く唸り、俺の足元に寄り添う。

 リュミナは祈りを小さく唱え、耳を覆うように光の膜を展開した。


「……みんなの声で打ち消さないと」

 俺は符を刻む。

「《補環・耳縫い共鳴》!」


 仲間の声が重なり、囁きを薄める。



 影の街路を進むと、広場に出た。

 そこでは百を超える影人が集まり、仮面の記譜士の周囲で旋律を唱和していた。

 重なり合う声は狂気の合唱。

 その響きが街全体を震わせ、空の天蓋にひびを走らせている。


「……これが“合奏”の本番か」

 リュミナが震える声で呟く。


「まだ序曲だ」

 セイルが短剣を構える。

「都の中心には“大指揮者”がいる。記譜士たちはそのために旋律を揃えている」


 カイルが汗を滲ませながら符を握りしめる。

「僕らだけで……止められるんですか?」


 俺は頷いた。

「止めるしかない。ここで糸を断てなければ、地上ごと喰われる」



 俺たちは広場に踏み込んだ。

 瞬間、影人たちが一斉にこちらを向いた。

 顔はないのに、視線だけが刺さる。

 囁きが波のように押し寄せ、頭の奥で無数の声が重なった。


「アレン……!」

 リュミナの声が震える。


「縫え!」

 俺は血を噛み、符を刻んだ。


「《補環・群声縫合コーラス・ステッチ》!」


 光の糸が囁きを束ね、旋律の波を押し返す。

 リュミナの祈りが重なり、カイルの符が声を増幅する。

 セイルの影符が影人を縛り、ノコが突撃して道を切り開く。


 記譜士が仮面の奥で笑う。

「人の声で抗うか……面白い。だが、声はやがて嗄れる」


 杖が振るわれ、旋律がさらに強まる。

 広場の石畳が震え、譜面のような亀裂が走る。

 そこから新たな影人が這い出した。


「数が……増えていく!」

 カイルが叫ぶ。


 俺は奥歯を噛み、糸をさらに重ねる。

「嗄れる前に縫い止める! みんな、声を出せ!」


 兵士ではない。村人でもない。

 ここにいるのは俺たち五人と一匹だけだ。

 だが、声は重なり、旋律に抗う布を作った。



 一瞬、広場の中心に裂け目が走った。

 そこから響いたのは――低く、巨大な拍。


「……大指揮者が目覚めかけている」

 セイルが顔を上げる。


 リュミナが血の気を失った声で囁く。

「これ以上は……」


「退けない」

 俺はきっぱりと答えた。

「ここで縫う。影人も、記譜士も、この扉も全部だ!」


 仮面の記譜士たちが杖を揃え、合奏が始まる。

 俺は符を掲げ、血で最後の印を刻んだ。


「――《補環・全縫合オール・ステッチ》!」


 光と影と声がひとつに束ねられ、広場を覆った。

 その瞬間、影の都の街路そのものが震え、黒い建物が軋んだ。


 ――戦いは、いよいよ都の中心へと進もうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ