第21話 扉の裂け目、都への突入
石版に刻まれた旋律がうねり、裂け目が広がっていく。
黒い風が峡谷を吹き抜け、影をまとった鳥が空を乱舞した。
人々の叫び声が背後で上がる。砦から駆けつけた兵士たちも、耳を押さえて膝を折っていた。
「アレン!」
リュミナが必死に祈りを重ねる。
「このままじゃ……影の都と地上が繋がる!」
「わかってる!」
俺は血で符を刻み、印を組み合わせた。
「《補環・縫止め環鎖》!」
光の糸が裂け目に縫い込まれ、拡大を一瞬止める。
だが、五人の記譜士が杖を振るたびに、糸は次々と切り裂かれていく。
「数が多すぎる……!」
カイルが額に汗を浮かべる。
「僕の符じゃ、二人分を押さえるのが限界です!」
セイルが黒い符を叩きつけ、影の鎖で一人を縛る。
「残り四人――時間を稼ぐ!」
*
裂け目の奥から、低い鼓動が響いた。
それは瘴気の柱ではない。もっと深い、巨大な“都市”の心臓のような音だった。
「聞こえるか……補助師」
記譜士たちの声が重なる。
「これは都の序曲。お前たちの糸では、決して縫い止められぬ」
「そんなことはない!」
俺は叫び、血で新たな印を描く。
「俺の糸は、人の声を縫う糸だ! 砦の者も、村の者も、ここにいる全員の声を貸してくれ!」
兵士たちが震える声を上げた。
村人が祈りを重ね、子どもが泣きながらも歌を口ずさむ。
リュミナがその声を束ね、カイルが符に書き込み、セイルが影の符を絡める。
無数の声がひとつの布となり、裂け目を覆った。
「――《補環・大合縫》!」
俺の叫びと共に、光と影と声の糸が交わる。
裂け目は震え、拡大を止めた。
*
だが。
記譜士たちが仮面の奥で嗤った。
「なるほど。糸を重ねれば扉を塞げるか。だが、それは同時に“入口”を縫うことでもある」
その瞬間、裂け目の縫い目が反転し、俺たちを内へと引きずり込んだ。
「っ……!」
視界が暗転し、足場が消える。
リュミナが悲鳴を上げ、カイルが叫び、ノコが吠えた。
セイルが外套を翻し、俺の腕を掴む。
「堕ちるぞ、補助師!」
影の風が渦を巻き、俺たちは闇の奥へと引きずられていった。
*
次に目を開いたとき、そこは地上とはまるで違う空間だった。
頭上には空がなく、黒い天蓋が広がる。
建物は石ではなく、影そのものが形を取っていた。
街路は旋律の譜面のように線で描かれ、人々の影が独立して歩いていた。
「ここが……影の都……」
リュミナが青ざめる。
カイルが震える声を漏らす。
「音が……頭に直接響く……!」
セイルが剣を抜き、低く言った。
「ここから先は、俺の故郷だ。影の都の中枢へ――行くぞ」
ノコが低く唸り、俺の隣に寄り添った。
ついに、影の都の扉が開いた。
ここからが本当の戦いの始まりだった。




