表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された万能補助師、辺境で気ままにスローライフしてたら、なぜか英雄も聖女も集まってきました〜気付けば最強国家の王様扱いです〜  作者: 妙原奇天


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/31

第20話 影の都の扉と、合奏の序曲

 峡谷を抜けた夜、焚き火を囲んだ俺たちは沈黙に包まれていた。

 記譜士を退けたとはいえ、奴は「合奏」という言葉を残して消えた。

 複数の記譜士、あるいは調律師自身が奏でる旋律。それが何を意味するのか、誰も口にできなかった。


 ノコが鼻を鳴らし、俺の膝に頭を押し付けてくる。

 その温もりが、かろうじて俺を正気に留めてくれていた。


「……アレン」

 リュミナが口を開く。

「あなた、あの旋律に呑まれかけていた」


 カイルも心配そうに顔を上げる。

「僕も少し……頭がぐらぐらして、現実と幻が混じる感じがしました」


 セイルは外套の影で目を細めた。

「記譜士が刻む譜面は“扉”でもある。お前たちはすでに、その向こうを覗いた」


「扉?」

 俺が問い返すと、セイルは低く頷いた。


「影の都へと繋がる門だ。瘴気の柱は地上に立つ。だが、その根は地下に広がっている。記譜士たちは旋律を通じて、都の扉を開こうとしている」


 リュミナの顔が険しくなる。

「つまり……柱が立つ前に、地下から侵食が始まっているってこと?」


「そうだ。そして“合奏”とは複数の扉を同時に開き、地上と地下を繋げる儀だ」


 カイルが震え声で言った。

「そんなことになったら……世界中が影に沈みます!」


 俺は深く息を吐く。

「なら、扉が開く前に縫い止める。それが俺たちの役目だ」



 翌日、俺たちはセイルの導きで北の丘陵地帯へ向かった。

 そこに、影の都へ繋がる“隠された門”があるという。


 丘の上にそびえる遺跡。崩れかけた石柱と、苔むした石段。

 だが、その中心に奇妙な石版があった。

 記譜士が刻んだ譜面と同じ印が刻まれている。


「これが……扉か」

 俺は符を取り出し、周囲を探る。

 空気は冷たく、影が濃い。

 風の音が、まるで低い旋律のように響いていた。


 セイルが囁く。

「近いぞ。“合奏”はここで始まる」



 夕暮れ。

 石版が脈動し、譜面が赤黒く光り出した。

 複数の影が現れる。仮面の記譜士たち――一人ではない。五人。


 彼らは円陣を組み、杖を掲げる。

 同じ旋律を刻み、石版を共鳴させる。

 地鳴りが響き、石段の下から黒い霧が噴き上がった。


「これが……“合奏”!」

 リュミナが叫ぶ。


 影の都への扉が、ゆっくりと開き始めていた。


「止めるぞ!」

 俺は符を切り、叫んだ。

「皆の声を縫い合わせろ! ここで扉を閉じる!」


 カイルが符を広げ、リュミナが祈りを重ね、セイルが影の符を叩きつける。

 ノコが吠え、群れを守るように前に出る。


 光と影と声が交わり、石版を覆う旋律に挑む。


 だが――記譜士たちの合奏は圧倒的だった。

 五重の旋律が重なり、耳を裂き、心を揺さぶり、俺の糸を次々と断ち切っていく。


「くっ……!」

 血が口に滲む。

 膝が震え、視界が揺れる。


 その時、石版の向こうに、巨大な影が立ち上がった。

 柱ではない――だが、その“雛形”。


「合奏は序曲にすぎない」

 記譜士たちの声が響く。

「真なる調律の舞台は、影の都にあり」


 石版の裂け目から、闇の風が吹き出した。

 俺たちの戦いは、ついに都そのものへと踏み込もうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ