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第13話 砦への帰還と、新たな策

 南街道の瘴芽に敗れた帰路は、重苦しかった。

 兵士たちは肩を落とし、カイルは悔しげに唇を噛みしめて歩く。

 リュミナだけが前を見据え、倒れかける者を支え、励ましの言葉を投げていた。

 ノコは静かに群れを導くように先頭を歩き、時折振り返って俺を見た。


 砦の門が見えたとき、兵士たちの足が速まった。

 だが、胸を張る者は誰一人いなかった。


「戻ったか」

 門の上から砦長が声をかける。

 俺は小さく頷いた。

「……瘴芽を潰せなかった。柱になるのは時間の問題だ」


 砦の広場に戻ると、人々の顔に落胆が広がった。

 だが、俺は深呼吸して声を張った。


「敗けた。だが、終わりじゃない」

 兵士や村人の視線が集まる。

「瘴芽は成長している。だが、あれは“縫える”はずだ。次は勝つ。そのために策を立てる」



 夜、砦の作戦室。

 卓の上に南街道の地図を広げ、リュミナ、カイル、砦長が集まった。

 蝋燭の火がゆらめき、皆の影を壁に揺らす。


「普通の結界や祈りでは、瘴芽の成長を止められません」

 リュミナの声は冷静だった。

「強すぎます。根源から断たなければ」


「根源……つまり、地脈か」

 俺は地図の線を指でなぞった。

 南街道の下には古い水脈が流れている。王都で“水路転調”を使ったときと同じだ。

「瘴芽は大地の力を吸っている。ならば、その流れを変えればいい」


 カイルが顔を上げた。

「僕の術式で符を束ねれば……地脈を操作する補助の持続時間を伸ばせます!」


「だが、瘴芽の防御は厚い」

 砦長が唸る。

「兵だけでは持ちこたえられまい」


「なら――人々を巻き込む」

 俺ははっきりと言った。

「村人も、兵も、皆の“声”を縫う。祈りでも、叫びでもいい。音を合わせれば、瘴芽の旋律を乱せる」


 沈黙が落ちた。

 だがリュミナが頷いた。

「可能です。人の声は、魔に抗う力になる」


 カイルが勢い込む。

「僕、符に“共鳴式”を組み込みます! みんなの声を拾って、増幅して――!」


「よし」

 俺は拳を握った。

「次の戦いは総力戦だ。砦全員で瘴芽を縫い潰す」



 翌日。

 砦の広場に人々が集まった。兵士も村人も、子どもまでが不安げに見守る。

 俺は壇に立ち、声を張った。


「昨日、俺たちは敗けた。瘴芽は強く、仲間が傷ついた」

 ざわめきが広がる。

「だが――今日、俺たちはひとつになる。補助の糸はみんなの声を縫う。祈りでも、叫びでも、歌でもいい。お前たちが出す声すべてが武器になる」


 沈黙の後、誰かが小さく「やれるさ」と呟いた。

 やがて別の者が「守ろう」と声を上げる。

 その波は広がり、広場にざわめきが満ちていった。


(これでいい。人の声が揃えば、瘴芽の旋律は乱れる)


 俺は符束を掲げ、宣言した。

「南街道へ向かう。――次は必ず、縫い潰す!」


 ノコが吠え、砦の人々が声を合わせた。

 敗北の夜は過ぎ去った。

 今度こそ、勝利を縫い取る。

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