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第12話 南街道の瘴芽と、初めての敗北

 砦を発って三日目、俺たちは南街道に辿り着いた。

 森を抜けると、かつて賑わっていた街道沿いの村が姿を現す。だが今は廃墟だ。屋根は崩れ、井戸は枯れ、畑には黒い斑点が広がっている。


「……ここに、瘴芽が」

 リュミナが呟き、杖を握りしめる。


 空気が重い。影が濃い。

 やがて、村の中心にそれは見えた。


 ――瘴芽。

 前回のものよりも遥かに大きい。既に半ば柱へ成長しかけ、赤黒い光を脈打たせていた。


「速すぎる……!」

 俺は息を呑んだ。

「普通なら数日はかかるはずだ」


 カイルが顔を強張らせる。

「調律師が、加速させているんじゃ……」


 答える間もなく、瘴芽から影喰いが溢れ出した。

 前よりも大きい。鎧を纏った兵士の影や、翼を持つ鳥の影までもが。


「戦うしかない!」

 リュミナが声を張る。



 俺は符を切り、声を放つ。

「《補環・連携加速》《補環・斥霧結界》!」


 光の糸が仲間を繋ぐ。

 ノコが先陣を切り、リュミナが祈りを重ね、カイルが術式を重ねる。

 戦いは苛烈だった。だが――


 瘴芽の力は想像以上だった。

 影喰いをいくら倒しても、すぐに次が湧き出す。

 結界が削られ、兵士たちの列が崩れる。


「アレン! 持たない!」

 カイルの悲鳴。


「踏ん張れ! 縫い合わせろ!」

 俺はさらに符を刻み、血を注ぐ。


「《補環・連環防壁》!」


 だが、その瞬間。

 瘴芽が強烈な脈動を放ち、俺の防壁を突き破った。


 黒い衝撃波が広がり、砦から来た兵士たちが一斉に吹き飛ばされる。

 リュミナが悲鳴を上げ、カイルが倒れ込む。ノコでさえ呻き声を上げ、地面に叩きつけられた。


「くっ……!」


 俺は必死に立ち上がろうとした。

 だが、足が震える。符はほとんど残っていない。血も流しすぎた。


(これ以上は……縫えない)


 瘴芽は勝ち誇るように光を放ち、さらに大きく脈打った。

 まるで「柱」になる瞬間を見せつけるように。


「アレン!」

 リュミナが駆け寄り、俺を支える。

「撤退を……!」


 俺は歯を食いしばる。

 撤退――それは敗北だ。

 だが今のままでは、本当に全滅する。


「……わかった」


 俺は苦渋の決断を下した。

 カイルと兵士を抱え、リュミナとノコと共に街道を離脱する。

 背後で、瘴芽が嘲るように光を放っていた。



 森を抜け、砦への帰路についたとき、誰も口を開かなかった。

 敗北の重みが全員の胸を押し潰していた。


(初めて……負けた)


 悔しさが胸を焦がす。

 補助師は縫い続ける者――そう誓ったのに。

 だが、今日だけは縫い目を残せなかった。


 リュミナが小さく囁く。

「アレン……次は、必ず」


 俺は頷いた。

 次こそは、必ず縫い止める。

 そのために、新しい糸を探さなければならない。


 敗北は終わりではない。

 ――次の舞台の始まりだ。

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