表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/31

第11話 辺境に広がる噂と、旅路の選択

 瘴芽を砕いた翌朝、砦は活気を取り戻していた。

 昨夜まで怯えていた兵たちが、今日は笑い合いながら城壁を修繕している。市井から集まった村人たちも手伝いに来て、木材を運び、石を積み、子どもたちまでもが泥だらけになりながら手を貸していた。


「アレン殿、昨夜の戦いは一生忘れません!」

 顔に包帯を巻いた若い兵士が、俺に深々と頭を下げた。

「補助師の力、まさかここまでとは……」


「俺一人の力じゃない。みんなの声を繋いだだけだ」

 そう返すと、兵士は一層感動したように目を輝かせた。


 リュミナが肩をすくめる。

「そういうところが、逆に人を惹きつけるのよね」


 カイルは新しく書いた術式を兵士に見せていた。

「ほら、この符を三枚繋げれば結界の持続が倍になるんだ! 昨日の戦いで学んだんだよ」

 兵士たちは驚き、感嘆の声を上げる。


 ノコはといえば、兵士から干し肉をもらって満足げに尻尾を振っていた。



 だが、平穏は長くは続かない。

 昼過ぎ、辺境の村から急報が届いた。


「南の街道沿いで、再び瘴芽が……!」


 砦全体に緊張が走った。

 人々は顔を見合わせ、恐怖の影が再び忍び寄る。


「まだ立ちはだかるのか」

 俺は小さく呟く。


 そのとき、砦の長が俺の前に進み出た。

「アレン殿、あなたにお願いしたい。辺境全域を巡り、瘴芽を断ってほしい。王都の援軍は、しばらく望めぬ」


 リュミナが顔を上げる。

「放っておけば、辺境がまず食い尽くされるわ」


 カイルも拳を握った。

「僕も行きます! 術式はまだ未熟ですけど、必ず役に立ちます!」


 ノコが吠え、同意を示す。


 俺は深く息を吸い、決断した。

「わかった。砦を拠点に辺境を巡ろう。瘴芽は必ず潰す。――調律師の曲が完成する前にな」



 その夜、砦の広場で小さな宴が開かれた。

 人々が歌い、踊り、粗末な酒を分け合う。

 疲労と不安はまだ残っている。だが、それでも彼らは笑っていた。


「ねえ、アレン」

 リュミナが焚き火の明かりの中で囁く。

「もし本当に“十二柱”が立ったら……どうする?」


「縫うさ」

 俺は焚き火を見つめながら答える。

「どんなに大きな布でも、縫えないものはない。俺たちが糸を繋げば、必ず形になる」


 その言葉に、リュミナは微笑み、カイルは拳を強く握った。


 森の奥では、まだどこかで瘴気が蠢いている。

 だが、辺境の人々の歌声がそれを押し返していた。


(のんびり暮らす道は、まだ遠い。だが――)

 俺は空を見上げ、月明かりの下で誓う。

 この旅は必ず、次の舞台へ繋がる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ