部屋①
赤いカーペットが敷かれた廊下を、ディオラルと並んで歩く。
(っ……!びっくりした…)
角を曲がると、首から上が黒い人が待っていた。
「ごゆっくりどうぞ」
そう言うと、私にルームキーを渡してくる。その声は、男とも女ともいえるような中性的なものだった。
「309…309……ありました」
『309』と書かれた部屋の鍵穴に、ルームキーを差し込む。
『認証完了。これからは自動でロックが解除されます』
機械音声。そして部屋に一歩入ると同時にルームキーは消えた。造りは分からないが興味深い。
与えられた部屋は広かった。
白い壁、白い床。ベッドは2つあるし、ちらりと見えた浴室は、体を十分に伸ばすことができそうだった。
ただ気になるのは、窓が1つしかないことだ。
外は黒い。ただそう見えるだけかもしれないが。風を少し感じる程度。
(でもまあ、別にいいか)
特に気にしない。
私はディオラルのほうにくるりと回った。
「申し訳ございません、自己紹介が遅れました。私は成瀬伊澄と申します。ご迷惑をおかけすることがあると思いますが、この度はどうぞよろしくお願いいたします。」
できるだけ丁寧に、敬語を使って、控えめに微笑む。目尻を下げて、口角を上げて。45度ぴったりお辞儀をする。第1印象は大切にしたい。
「ありがとうございます。もう聞いているとは思いますが、私はディオラル。ディーと呼んでください」
「分かりました。ディー、様…?」
「ディー」
「…ディー」
ディーは花が咲くように笑った。なんだか私も嬉しくなる。
「私も伊澄と呼んでも良いでしょうか?」
「もちろんです。私には砕けた口調で構いません。」
「そう?じゃあ早速。伊澄もタメで話して」
「いえ、私は……うん、じゃあそうする」
向けられた笑顔が何だか怖かったが、敬語は疲れるので従う。
そこで私は部屋の隅にある机の上の紙に気付いた。
「これ、読んでって言われたやつ…?」
私は紙を広げた。
『【部屋に関する注意事項と説明】
①部屋の設備はご自由にお使いください。足りないものがある場合は備え付けてあるタブレットから連
絡すること。
②ほかの人の部屋に行ってはいけません。
③一度部屋に入ったら、これからは鍵が自動にロックになります。部屋を出ると
きも鍵のことは気にし
なくてかまいません。
【明日について】
部屋はいかかでしたか?皆さんの記憶を覗き、必要だと思うものを揃えました!
さて、明日は朝7時までに大聖堂へ集まってください。朝食を提供します。場所は
本日と同じです。
皆さんと明日会えるのを楽しみにしています! 』
(何て個性的な……)
ディーもちょうど読み終わったようだ。
「えっと、私、先にシャワー浴びてきても良い?」
「いいよ。部屋見て回るね。」
「ありがとう」
私は浴室へと向かった。後ろ手でドアを閉める。
大きいお風呂というものには夢がある。脱衣所も広い。
前方にバスタオルとタオルが並べてある。そして私の隣には、先ほどは死角になっていて見えなかったが、着替えが用意してある。
女性用、男性用と書かれた大きい引き出しが2つずつ。
私は女性用のほうを開けた。
左に下着類、右に部屋着。
部屋着を取ってみた。
黒のパーカーに、太ももまでの白いスウェット。
(かわいい……)
でもきっと私には似合わない。
下の段を開けてみた。
そこにあったのは1枚の紙で、『洗濯したい衣類はここにおいてください』とあった。
制服を脱ぎ、畳んでそこに入れた。
お風呂に近づく。横の台に部屋着とバスタオルを置いた。
『風呂に湯を入れたい場合はこのボタンを押してください。続けて入る場合は湯を張り直してください。』
私は迷わずそのボタンを押す。その瞬間、水音が聞こえた。
「わぁっ……!」
銀色と白しかない景色。軽くシャワーを浴びてから湯船に浸かった。
ゆっくりと体を伸ばす。
(この瞬間はすごく幸せ……)
□
やがて脱衣所に戻った私は、用意されていたものを着た。
(このパーカー、オーバーサイズだ…)
パーカーが思っていたよりも大きく、スウェットが隠れてしまう。
私は気にせずにドアを開けた。
「……ディー?」
「あっ、伊澄………」
ディーが私を見てフリーズし、手で口を覆った。
「めっちゃ可愛い…」
「え?ありがとう…」
そんなお世辞言わなくていいのに。
「…じゃあ俺も入ってくるね」
ディーはドアを閉める寸前まで私を見ていた。
(……私も部屋を見て回るか)
私は方向を変えた。




