暗闇
「あ、悪魔!?僕の光の矢は…!」
「え?消したけど何か?」
ディーは無表情で天使のルアを見下ろす。
「はぁー……お前ら、伊澄に手出そうとしたな?苦しんでから死ね」
「え……」
成宮さんがうるうるとした瞳でディーを見た。
「あの……!見逃していただけませんか!?」
「みっちゃん!?」
梅林寺くんが驚いた声を上げた。私も驚いている。だって、何の解決にもならないだろ。
「なんで?」
「い、痛いのは怖いので……」
「怖いからって理由で痛みを避けることができるとでも思うか?」
成宮さんがふらふらと立ち上がる。
「……それでも、私は諦めません!相手を傷つけなくても済む方法があるはずです!」
……分かってる。成宮さんは『ヒロイン』だ。
どうあがいても私は『悪役』で、瀧くんと梅林寺くんは『ヒーロー』、ディーも…まあヒーローかもしれない。
そう考えると、なんだか腹が立ってきた。なんで私がこんな目に遭わなればならない?
私はディーに抱き上げられたまま口を開いた。
「…相手を傷つけなくても済む方法って何?」
「え…それは…」
「即答できないでしょ?このデスゲームでは、絶対に誰かを傷つけなくちゃいけない。じゃあ成宮さんは今まで1回も相手を撃たなかった?」
「……撃ったけど!」
「あのね、物理的な痛みは苦しいかもしれない。でもそれよりも、精神的な痛みのほうが辛いんだよ。つまり、言葉ってこと。心無い言葉を何回も何回も浴びせられたら、人は壊れる直前を彷徨う。抽象的な解決策なんていくらでも浮かぶよ。今、私たちに必要なのは現実的な、それも今すぐに実行できそうな解決策でしょ?」
「……うぅ」
成宮さんは黙った。それとは反対に、瀧くんが声を上げる。
「成瀬、お前みっちゃんをいじめるな!お前こそ人を傷つける言葉を使ってるじゃないか。」
「黙れよ。」
私は冷めた視線を向ける。
「私が人を傷つける言葉を使ってるって?私は貴方達の人格を否定したわけじゃないし、偏見で決めつけたわけでもない。あっちの世界の私だったら、何も言わず黙ってただろうね。でも、貴方達はあっちでもここでも相変わらず私への先入観で決めつけてる。私、忘れられないから。陰で私のこと『馬鹿』とか『底辺』とか言ってたこと。」
「あ……卑怯だ!」
「ねえ、もういい?」
ディーが瀧くんの銃を蹴った。殺意のこもった目。
「お前らとはいくら話しても話が通じないんだけど。お前のほうが卑怯だよ、私はお前たちのことを心底苦しめたいと思っている。だから、もう始める。」
ディーは私から手を離すと、右手で銃を持ち、左手で私を抱き寄せた。
そして瀧くんに向かって引き金を引くと、次は成宮さんと梅林寺くんのほうに手首を素早くスライドさせた。それをもう1回。
「…っっっっっ!」
3人とも、声を出せないほど苦しんでいる。
私は夢を見ているようだった。本来なら私は先ほど、ルアの光の矢にやられていたはずなのだから。
「ルっ、ルアくん!」
「……あ、ごめんね。治癒」
「暗闇」
ルアが治癒しようとした瞬間、ディーが詠唱する。治癒の光が闇に飲み込まれた。
「なっ!何だよその力…!」
「対象のものを飲み込む。本当は詠唱無しでできるが、そしたらお前らが卑怯だとうるさくなりそうだと思った。」
「……うぅ、治癒!」
「暗闇」
ルアは絶望した顔をする。ディーが私を見た。
「ね、伊澄。俺、もっと頑張ってあいつらを苦しめるから…褒めて?」
「…うん。ディーすごい」
そう言って綺麗なブルーの髪を撫でる。サラサラで心地良い。
「………こうなったら!銀河の導き!」
周りが銀色と白色に染まる。光っているという方が正しいかもしれない。それは強烈な光を放った。
「影の導き」
しかし、影が速いスピードで光を包み込んだ。
「天使、お前は私に勝てない」
「そんなっ、そんなことないもん!ルアは天才だから!できる!」
「………。」
それからも二人はよく分からない詠唱で魔法を出し合った。やがてルアは力尽きたように膝から崩れ落ちた。
「……あれ、もう終わりー?」
ディーはにっこりと笑った。
「闇の大軌跡」
「ああああああああああああ!」
ディーのその詠唱が終わると、ルアは絶叫した。うずくまり、痛そうに喚いた後、消えた。
「ディー、強いね。」
「えへっ、でしょ?」
ディーが嬉しそうに笑った。私は残った3人に目を向ける。
3人のは、諦めたような、しかし自分は助かるとどこかで信じているような目をしていた。
「じゃあ、ばいばい。二度と会いたくないよ」
私は3発撃つと、3人が消えたのを確認した。絶叫はうるさかった。
「ディー、ありがとう。助けに来てくれて。すごく嬉しかった。」
「いや、伊澄がそう言ってくれて良かった」
ディーがふわりと笑う。その笑顔は心に響いてくるようで、美しかった。
「残りの人たちは二人で探そう。」
「うん。」
私たちは4階をあとにした。そして1階に向かって階段を降りた。
1階に下りた私たちは、男子の後ろ姿を見つける。パートナーも一緒のようだった。一応こちらには気付いていない。




