お姉さん
私はとりあえず成宮さんといつもその近くにいる男子のことをやりたい。特に男子のほう。
4階にいるかなぁ。私は悠々と歩く。
「大丈夫だって!まだまだ時間はあるし!」
「死んじゃったら嫌だよ!」
「でもあんまり人いないし……」
「うんうん!」
……声が聞こえた。
私は曲がり角を曲がる直前で足をピタッと止めた。
そのままスススーっと後ろに下がる。
いや、ここは直線だから良くないか。
顔を少しだけ覗かせて、様子を伺う。
「そろそろ移動する~?」
「えー、怖いなぁ……」
……キモッ。
何糖度高い会話してんだよ。さっさと行け。
思わず心の中でツッコミを入れてしまった。一応こちらを見ているわけではないから、素早く向こう側の曲がり角に移動した。
そこにいたのは、成宮さん、パートナーの天使のルア、そして取り巻きの男子の瀧祐司、梅林寺聖。梅林寺くんは刻印が出ていて、瀧くんのパートナーは見当たらない。もうキルされたのかもしれないな。
にしても、成宮さんたちが私を見つけたら速攻で撃ってきそうだ。
偏見だが、40分ごとに1発入れそう。成宮さんは口では止めても、微妙な目でこちらを見るだろう。
前提として、人数差がすごい。1:4だ。天使もいる。
まあ、良いよ私は。彼女たちを撃ちに行く。
私は口角を上げて飛び出した。死角を目指してスライディングをする。床と膝がこすれてちょっと痛い。
「えっ、誰!?……成瀬。」
「えっ、ちょうどいいじゃん!これで俺らの刻印の悩みも解決だよ。だって成瀬さん運動神経普通だし。運動部の俺らならいけるよ!」
「え…そうかなぁ?」
「ルアくんも手伝って!」
「もちろんだよ!」
そんな規則的な会話をしている途中、私はそっと銃口を梅林寺くんに向けた。そっちを選んだ理由は特にない。強いて言うなら近かったからだろうか。
バン!とワークスペースに銃声が鳴り響いた。
「ぁがっ!」
梅林寺くんが胸を押さえてうずくまった。
「嘘、梅林寺くん…!」
「成瀬……!お前…許さねぇ!」
私はその言葉を待たずに梅林寺くんにもう1発入れた。
瀧くんが舌打ちをする。天使のルアは無表情でこちらを見ていたが、私の視線に気付くとニコッと笑った。
ひゅん、と銃弾が私の耳の下スレスレを通った。危ない。ものすごく危ない。
間髪を開けずもう1度撃ってくる。
私は死角のほうに頭を下げた。だから当たらない。
「くそっ!おい成瀬!卑怯だぞ!正々堂々俺たちの前に出て戦え!」
このデスゲームに卑怯も何もあるか。
「やだ」
「は!?」
私がそう答えると、瀧くんは苛立ったように声を上げた。
「ちょっと、貴方の好きな成宮さんが怖がってるよ!」
「え?あぁ、みっちゃんごめん!……って好きじゃねえ!」
感情の浮き沈みが激しいな。これも愛されて育った証拠だろう。
「…え…私のこと、好きじゃないの?」
「あ、そういう意味じゃなくて!」
瀧くんがあたふたとする。そういうのは私がいないところでやれ。ルアもドン引きしているじゃないか。表情筋がピクピクと動いている。
まあ、『友達』の関係のままじゃ何も進展しないけどね?
「………。」
私は瀧くんに向けて撃った。
「わっ!?」
瀧くんは拍子抜けした様子で成宮さんのほうに倒れた。成宮さんはあわあわとしている。
私は立ち上がった。
「……そんなに私に前に出てほしいなら、出てきてあげるよ。」
さあ、私の勇姿を存分に目に焼き付けろ。
「痛い…痛い痛い痛い!許さねぇ!
ルアくん、殺せ!こんな奴は死んで当然だ!」
「分かった~」
なんてひどい。本心では私のことをそう思っていたということか。
「え~悲し~」
「黙れ!」
「お前が黙れよ」
「え」
瀧くんの暴言に耐えられず、思わず言い返してしまった。瀧くんは驚いたようだ。
「……お姉さん、僕ってすごいんだよ!」
突然ルアがこちらに話しかけてきた。
「……うん。」
仕方ないので応答する。
「えへへ、僕ね、光魔法が使えるんだ!治癒魔法と、あとは聖なる光の矢が特に上手く使えるよ!」
「……へえ、そうなんだ!すごいね!天才!さすが!」
笑顔を作ってとりあえず褒める。会話では否定しないことが大切だ。
「うん!僕は天才だよ!……でも、僕はお姉さんのパートナーの、悪魔のことはあんまり好きじゃない。それに、お姉さんも僕のこと大切じゃないでしょ…?だから、今は美咲ちゃんたちの言うこと聞く!」
「………」
自画自賛タイプか。
それに、ディーのことが好きじゃない?
どこが!ディーはどの観点から見ても魅力的だろうが。ものすごくかっこいい。おい、いつかお前がディーのことを欲しいと言っても渡さないからな。
さらに、私のことはなんでお姉さん呼びなのか。名前で呼ばれるよりはいいかもしれないが。
ルアが天井に向かって指をさした。
私は直感で何か来る、と思った。
……だから、話しかけた。
「あの、ルアさん。ルアさんが使えるのは光魔法だけですか?」
「もー、ルアかルアくんって呼んでよ!そうだよ。」
「無理」
反射的に答えてしまった。普通に嫌だ。
「……ディー、私のパートナーの悪魔は、闇魔法が使えます。それに、ほかにも複数の属性を使えるんですよ。特に親しくもない貴方のことを大切に思うはずがありません。私は悪魔のほうが好きです。」
「……ふぇ」
天使が潤んだ瞳で見つめてくる。後ろで動く気配がした。
私はかがむ。すると、さっきの私の胸の位置あたりに銃弾がとんできた。
「当たらないのかよ!」
「……。」
犯人は瀧くんのようだ。成宮さんはじっとして動かない。
でも、安心した。天使のルアが実は腹黒とかだったらかなり面倒くさい。これはただの馬鹿だ。
私は次々ととんでくる銃弾を避ける。
ルアが泣き出しそうな目でこちらを睨んだ。
「……お姉さんのことなんて、もう知らないんだから!治癒!」
ルアの天使の羽がバサバサと揺れる。そう、バサバサと。バサバサ。
「おぉ…!ルアくんありがとう。」
「マジで神。」
「えへへ…」
ルア、なんか現代に溶け込んでない?
にしても、瀧くんと梅林寺くんが回復したのは結構ダメージだ。
ルアが天井に指をさす。頭の輪っかがキラキラと光った。
「……悪なるものには聖なる救済を。聖なる光の矢」
ゾクッと鳥肌が立った。理由は2つ。
1つ目は、詠唱名。なんだかな…うん、なんだかな。お前からの救済なんて求めてないし、私は悪じゃない。
2つ目は、天井いっぱいに広がった光の矢。すべて私を向いている。
「あ……はは」
ごめんディー、ちょっと無理かも。
ぴょこぴょこ動いてみる。あー、ダメだ。これ、私を完全に敵だとみなしている。
私はせめて、と4人に向かって銃弾をぶっ放した。
痛がってる痛がってる。
「治癒!」
撃つ。撃つ。撃つ。
「治癒!」
……ダメだな。キリがない。ルアには全然当たらないし、3人は死ぬ前に必ず回復が間に合っている。
「行け!」
光の矢が高速で降ってきた。
私は諦めた。だって、どう考えても助かる方法なんてない。
なぜか銃を持つ手が震える。
私は笑顔で黒い笑みを浮かべた。
なら、最後の瞬間まで笑ってやる。あがいてやる。
私は銃を撃ちながら、光の矢が目の前にくる直前、ある人のことが浮かんだ。いや、人ではないかもしれない。
「…ディー」
都合よく助けに来てくれるなんてありえない。だから、最期に何か伝えたかったな。
私はぎゅっと目を閉じた。
………しかし、光の矢は私を突き刺さなかった。
「あー……もういい。伊澄、頑張ったね。あとは俺がやるから。」
「……ディー?」
気付けば私は、ディーの胸に体を預けていた。目元をディーの手で覆われている。
「うん。遅くなってごめん」
ディーに強く抱きしめられた。私も呆然としながらその首に手を回した。
……光の矢は、消えていた。




