妬み、羨み、そして恋慕
彼女が召喚したのは、魔法が使える異世界人。
それも、炎魔法。ファイアーボールとか言うのだろうか。
彼女はいつも大人しかった。学級委員になったのも、自分から立候補したからだ。何度か話したことがあるが、私が持った印象は『優しい』だった。ただ、先生受けは良い。
なのに、人はこうしてすぐに変わる。その目から放たれている憎悪は、私に向けられたものだ。
妬み、羨み、自信、失望、そして恋慕。
ディーのほうをかすかに見るのを私は見逃さない。
「あれ、高倉さんじゃん。そんなに焦って、どうしたの?」
彼女がどういう気持ちなのかは分かったが、一応とぼけておく。
「…私は、あんたのことがずっと嫌いだった!」
あ、はい。
次にどんな言葉が発せられるのだろうと、ゆっくり待つ。
…そんなことを言われて悲しいという気持ちも少しはあるかもしれないが。
「勉強もできて、運動も悪くなくて、性格も良くて、ここで見ると容姿も良い!あんたは何でも持ってるのに、私は同じステージに立つことさえできない…!そのうえ、イケメンで優しい悪魔まで召喚しやがって…!」
「ちょっと、私じゃ不満って言うの?」
口が悪いな。本性はこっちか。
異世界人が口をとがらせた。
「違います。ただ、私はこの人がとてつもなく嫌いってことです。」
「ふーん。そう。」
異世界人は興味なさげに答えた。
「……私は何でも持ってるわけじゃないよ。自分から必死に全力で努力して、努力して、その結果がこれ。貴方達にとって私は良いほうなのかもしれないけど、私の上にはたくさんの人がいる。それに、今の私じゃ誰も満足してくれない。…私は、『生きたい』という気持ちが壊されたんだよ。」
「…あー!嘘つかないでよ!」
高倉さんが叫ぶ。
「私はあんたより勉強では負けてる。でも、人間の心についてはあんたより知ってる!だから分かる、あんたは負ける。いつも弱々しく笑ってるあんたに、私は撃てない!」
高倉さんは自信満々にそう言った。
「…確かに、いつもの私だったらそうかもしれない。」
私はそう言った。
彼女はディーのほうを見て、はにかんだ。
「初めまして、私は高倉千夏です。ディオラルさん、こんな子よりも私と一緒にいるほうが絶対良いと思います!」
「…ああ、私もそう思うよ。こいつは面白い。隣にいる価値がある。」
異世界人まで彼女を褒めだす。
(ああ、この光景、既視感があるなぁ……)
ディーはどう答えるのだろうか。
私よりも彼女を選ぶか、それとも私と一緒にいるか。
私は隣を見上げた。
……ディーは、冷たい目をしていた。
何の温度も感じない、まるで相手が人間だと思っていないように。
それは睨むよりも効果的だった。高倉さんがたじろぐ。
「え…なんでそんな目をするんですか?ディオラルさん…」
「私の名前を軽々しく呼ぶな。」
ディーの冷たい声に思わず驚く。
「…隣にいる価値がある?価値があるってなんだ?誰の基準?私にとって伊澄は、何よりも大切だ。人の表面しか見ていないお前達に、私たちのことなど分からない。」
「あ………」
高倉さんは、初めてそんな態度を取られたからだろうか、唖然と立っていた。
ちなみに私はちょっとときめいた。嬉しいかもしれない。
ディーと目が合う。
私は軽く息をつき、口角を上げた。
「……確かに私は嘘つきかもしれないね。だって私は、貴方達のことを撃てるから。」
「……は?」
「いつもの私、武器を使って人を傷つけることを許していないあの世界では、躊躇うかもしれない。
……でも、ここでは許されてる!本当のことしか言っていないなんて、誰が言った?」
私は銃口を高倉さんに向ける。
「……気色悪いんだよ、軽々しくディーのこと好きになりやがって。」
引き金を引いた。
「……え?あ、痛い!痛いっ!なんでっ…!」
「何でって?私は一度でも、私に悪く当たった奴のことは許さないタイプなんだ。」
そう言って2発目。
「ぐぁっ!!……ヴァ―ル、あいつをやれ!早く!」
「…了解。」
異世界人はヴァ―ルという名前らしい。彼女はぶつぶつと何かを唱え始めた。
詠唱が長いパターンか。
「伊澄」
「え」
ディーに腕を引っ張られ、私はディーの胸に収まった。
ヴァ―ルが憎悪に満ちた表情で、私がいた場所に炎を出した。勢いがすごすぎて森の一部が焼けている。
「…ありがとう、ディー。」
「いいえ」
「がぁっ!どう、して…!」
高倉さんはまだ苦しんでいる。私は3発目を撃った。
「はぁっ!はぁ゛っ!い゛っっっ」
高倉さんの目に涙が浮かぶ。
「ヴァ―ル!ヴァ―ルっ、早く!」
(…たとえ私たちを殺しても、お前の痛みはなくならないけどな。)
「くっ……あんた、良い男だよ。やっぱり私と一緒に来ないかい?」
ヴァ―ルがディーを嬉々とした表情で見る。
(は?)
私ははっきりと不快だと感じた。
「お前にそう言われても嬉しくない」
「そうか…それは残念だが、気が変わったらいつでも歓迎する。」
「気が変わることは絶対にない。」
ディーの言葉に泣きそうになる。なら、私もお返ししないと。
私はヴァ―ルに向けて1発撃った。
「え…痛い!痛い!くそっ………お前、許さねぇ…!」
「…………」
「ははははっ!」
ディーが急に笑い出した。
「伊澄、最高だよ…!はははっ!」
「え?そんなに笑う要素あった?」
「いや…あいつが伊澄を意識していないときに無言で撃つから…ふっ」
「…ディーの言葉嬉しかったから。」
「そっか…じゃあもういっか、終わらせよう。」
ディーがヴァ―ルのほうを向いた。
ヴァ―ルは高倉さんとは違い、何とか立っている。
「私の目の前でイチャイチャすんな…!行け、ヴァ―ル!」
「ああ!」
「つまり、見てないところだったら良いってこと?」
「伊澄…ふ…ふふっ」
ヴァ―ルがまたぶつぶつと詠唱する。
しかし、ディーは笑っていた。
「あー、遅い。威力も弱い。こっちはいつでも攻撃できる。もう用もないし……じゃーね。」
そう言うと、ディーは指を一振りした。
その瞬間、視界が凍った。
「わぁ…綺麗!美しい…。」
「伊澄にそう言ってもらえて嬉しい。」
氷はギザギザとしていたが、高低差や透き通った色がもう芸術だった。いつまでも見ていられる。
「はぁっ!?その力は…!」
ヴァ―ルが氷に埋まっていた。身動きがとれなさそうだ。
ディーが銃を構えた。
1発。そして少し時間を空けて3発ほど。
ヴァ―ルは奇声を上げて消えた。
「う…え…?生命刻印……?なんでっ、ヴァ―ルは最強のはずなのに!」
高倉さんは絶望したような声を上げた。痛みで起き上がれず、さらにディーの氷に足が埋まっている。
銃を持つことなんてとっくにできなくなっていた。
「……あー、なんか飽きてきたかも。終わりにしよ。」
私は高倉さんに近付いた。
私の足が進むたび、目の前の氷が溶けていく。
「あ゛…!お前…!」
私はしゃがんだ。いつの間にか、後ろにディーもいる。
私たちは、笑っていた。
「じゃーね。」
私は引き金に力を入れる。
「ばん。」
高倉千夏が消えた。




