金色の魔法陣
(……苦しい)
そう感じ始めたのは、いつからだろうか。
良い子を演じても、悪者にされ続ける。
過程なんて意味がない、だってみんな結果しか見ないから。
傷つくことにも、もう慣れたのに。分かっているのに。
今のままじゃ私の心が完全に壊れる。
この世界が、大嫌い。でもそれ以上に、自分が嫌い。
みんな、ハッピーエンドに慣れすぎている。
いつか自分は報われる、自分の思い通りになる。
そう思って疑っていないんだ。
□
20XX年7月
(……あぁ。)
返却されたテストを持つ手が震えた。
返ってきたのは5教科。
一応すべて90点以上だが、90点ギリギリのものもあれば100点まであと一歩というものも。
個人的にはこの結果に満足している。分からない問題はなかったし、時間もだいぶ余った。見直しだって何回もした。
きっとクラスメイトが聞いたら羨ましがる。
でも。
…母は、どうだろうか。
1年生の時は60点以上あればいい、と笑っていた母。90点を取るのが普通になってきて、80点、90点とハードルが上がってきた。そして、今度は100点しか許さない、と。
すごーい!という声が聞こえて、ふと顔を上げる。
一番前の席、成宮美咲の周りに数人男子が集まっている。
「数学89点!?俺なんか60点台だったよ」
「平均点めっちゃ低かったよね?学年で1番なんじゃない?」
「えぇ、そんなことないよ!」
「さすが生徒会~!」
そのうち一人がこちらを向いた。
私は光の速さで顔を戻す。
「成瀬さんより、絶対みっちゃんのほうが上だよ。あんなんだから今年は生徒会は入れなったんだと思う」
私は心の中でため息をつく。
(残念、私の数学の点数は97点。あんたたちが崇拝する成宮さんより上。それに今年はただ単に生徒会立候補しなかっただけだし)
逆ハーレム、というより、人望があるというほうが正しいかもしれない。
私は解答をテストにしまいながら、息を吐いた。
……帰りたくない。
でも、帰らなければならない。
気怠げに外を見た。
………その時だった。
足元に、金色の魔法陣が現れた。
教室全体を覆うほどの大きさだ。
「え!?何これ!?」
「どうしたらいいの!?」
「誰か助けて!」
クラスメイトが叫ぶ。
私は無言で立ち、教室から急いで逃げようとした。
でも、私はふと思った。
(…このまま巻き込まれたら、死ねるかもしれない。…苦しい思いをしなくて済むかもしれない)
一歩出した足をもとの位置に戻した。その魔法陣は、私の人生の救いに見えた。
光が強くなる。クラスメイト達の声も聞こえなくなった。
…………
何だか浮いているような感覚。
…すごく眠い。
そのまま意識を失おうとしたが、頭に声が響いてきて、眠気が吹っ飛んだ。
「今から、貴方の人生で辛かったランキングトップ3を発表しまーす!!!」
え???
え??????
記憶の一部を切り取ったようなワンシーンが次々と流れていく。走馬灯だろうか。
浮遊感はいつの間にかなくなっていた。
「第3位!理不尽に責められたとき!」
映像が切り替わる。
担任や生徒指導の先生。そして母の、私を睨む姿。
相手の目を真っ直ぐに見るが、手の震えは隠せていない私が映し出される。
『お前、生徒会だろ?何でできないんだよ!』
『自分のことだけ考えるな』
『このっ、化け物!』
「やめて…やめてよ…」
呼吸が浅くなる。体に力が入る。
「第2位!報われなかったとき!」
中学受験、英語暗唱大会、生徒会副会長選挙と、映像が素早く切り替わる。
「ふふふっ」
その笑い声が空間に反響する。
心臓がドクンと音を立てる。
それでも、私は前をまっすぐ見た。
(………あれ)
まるで、誰かに優しく抱きしめられているような。
先ほどまではなかった安心感。
「第1位!」
声は鳴り響くのをやめない。
「誰にも愛されていないと知ったとき!」
「あ……」
フラッシュバックと同時に、吐き出す息が小刻みになる。
でも、髪を撫でるような、手の感触が。
(……誰かに、頭を撫でてもらったことなんて、初めてかもしれない)
何も感じないはずなのに、あたたかかった。
やがて映像は止まり、消えた。
そして、光がだんだん強くなっていった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
ブックマークや☆、リアクションしていただけるととても嬉しいです。




