4:ダンジョンですわ!
「ということでダンジョン! 初突入ですわ! はいっちゃいましたわ~!」
おーほっほっ! この何とも言えない薄暗い感じ! ゲームの中で見たのとは大違いですわ~!
……ちょっと怖いですわね、ゲームではBGMとか鳴ってましたけど、無音ですし。
まぁでも、この胸の奥から湧き上がるワクワクには劣りますけど!
「感無量ですわね、ほんと!」
グレタに見送られながら屋敷の裏口から飛び出し、ダンジョンに一直線。
とうとう私はこの地に足を踏み入れました。あぁやっぱりすごい良いですわ! 前世小さいころからずっと『ゲームの中に入ってみたい』と思っていたんですもの! もう心臓が張り裂けんほどに興奮しております! あはは! ここから私の冒険が始まるのですね!
「とと、あまり興奮しすぎないようにしませんと。この身は私だけのものではないのですし、安全第一でいきましょう。」
幾ら初心者用のダンジョンと言えど、死の危険性はあるとのこと。
前世から結構動ける方でしたし、この体になっても剣振ったり槍振ってる方が好きな人間でしたのである程度戦えます。ゲームの知識もありますが……、実戦は初めて。気を付けて参らなければなりません。色々グレタに用意してもらいましたけど、私が死ねば確実にグレタの首も飛びますからね。物理的に。
あのモフモフが失われるのは世界の損失ですし、気を付けなければ。
「さぁて、気を付けながら進みましょうか。何にせよ“レベル”を上げなければ何も始まりませんもの。」
腰に収めた剣に手を置きながら、ダンジョンの石壁にそって歩きます。
まぁ魔物が出てくるまで少し時間がかかりそうですし、その間に小話でも一つしておきましょう。
この世界、『すいらび』に置いてダンジョンは無くてはならないものです。プレイヤーにとっても、現地に住む我々にとっても重要なものに成っています。
まずプレイヤーですが、学園内で巻き起こるイベントの中で主人公は何度も戦闘に巻き込まれます。無論戦闘せずとも切り抜ける術はあるのですが、そうなると最終戦のVS魔王で詰むような設計になっていました。そのため主人公を動かすプレイヤーたちはダンジョンでレベリングしてたんですよね。
そのレベリングを効率化するお金や武器の素材もダンジョンから取れますし、攻略対象の好感度を調整する様なアイテムもダンジョンで取れます。ま、今いるダンジョンは初心者用の所なのでそんな良いものは取れないんですけどね?
(そして、こちらに転生してからの知識になりますが……。)
この世界には魔物が存在するのですが、ダンジョンの中だけでなく外。地上にも結構出てきます。早い話、人間と魔物で生存圏を奪い合ってる感じですね。
ですが非力な人間だけでは強大な魔物には勝てませんし、貴族の扱う魔法が効かない相手もいます。なんである程度敵の強さが決まってるダンジョンで修行したり、ダンジョンで取れる魔物素材で武器や防具を作ったりするんですよねー。
「ま、ステータスのような便利なものは“基本”見えないので、なんとなく魔物倒せば強くなってる気がするって感じなのですが。」
なので自分が何に向いているのだとか、スキルビルドとかを自由に決められません。
ですが私は転生者、この世界がゲームであったことを理解している人間です。故に“やり方”の想定もついてますし、最適なビルドを考えるのに必要な知識もあります。これまで蝶よ花よと育てられてきた人間ですので、一度も魔物を倒したことがない経験値0な人間ですが、これさえあれば一気に巻き返すことが出来るでしょう。
……いや実は昔、ここが『すいらび』だと知った時から色々やってみようとしたんですがね? 我が家は領主ではなく軍や騎士を整えて力を維持する方針ということもあって、訓練はともかく実戦は一度もさせてくれなかったんですよ。途中から王妃教育が始まってそれどころじゃなかったってのもありますし。
(ま! 今はもう関係ない話ですけど! ……お、運がいいですわね、ちょうど1匹だけいましたわ。)
曲がり角の先。剣の鞘を一瞬だけ先に出して反応が無かったことから顔を出してみたのですが、より奥へと進もうとするコボルトの姿が見えました。小柄で気品の無い獣のような顔をしている魔物ですね。
こういう世界では有名なゴブリンより弱いという特性から集団行動をする魔物だったと記憶しているのですが……。たまたま一人でいるようで。
(んー、まずは弓で撃ち抜いてみましょうか。一応後方確認、ヨシ。んじゃ一射。)
比較的小型で背負えるタイプの弓に矢をつがえ、狙いを付けます。
距離は20m弱、相手は後ろを向いており無警戒。歩いてはいますが直進ですので避けられる可能性はないでしょう。頭か胴体を打ち抜けばそのまま倒せそうですが……。
「ㇱ!」
「ギャ!? ギャギャッ!」
「あらら、鍛錬不足ですわね。」
少しブレてしまい、そのまま敵の右を通り抜け地面に突き刺さる鏃。
まぁ回収して再利用できそうなのは良いですが、奇襲に失敗してしまったご様子。こちらに気が付いたコボルトが、小さなナイフ片手に奇声を上げながらトコトコとこちらに走り寄って来ます。
若干残念ではありますが、こちらとしましては弓よりも剣や槍を振り回したいのが本音。喜んでお受けいたしましょう。
(接敵まで距離がありますので……、槍にしましょうか!)
さっと背負っていた槍を引き抜き、構えます。
そして怯えずただギャーギャーと言いながら走り寄って来るコボルトの胸元に狙いを定め……。全力で押し出す。
「ギッ!?」
「よいしょぉ!」
そのまま振り回し、近くの石壁へ。少々重く手古摺りましたが、全力でその体を壁に叩きつけます。
胸を貫かれ、全身を壁に叩きつけられる彼。流石にそこまですれば生命力の高い魔物も死ぬようで、突き刺した槍の先には、ぐったりとした化け物が一体。うんうん、無事に倒せましたわね!
「…………あ、死体残る感じなのね。グロ。」
えぇっと、じゃあもう一度周囲を確認して新たな敵の姿がいないか確認した後……。槍を引き抜き、先端を振ることで血を払い背中に格納。代わりに剣を取り出して、コボルトの胸をより大きく開いてみます。
いやはや、ゲームでは倒した後にリザルト画面に移行していたので解らなかったですが、こういうのちゃんと残っちゃう感じの奴なのですね。でもこのダンジョンの通路に他の魔物の死体が無かったと言うことは、時間経過でダンジョンに飲み込まれるか、他の魔物のご飯になっているのでしょう。
(さて、魔石は……。あぁ、ありましたね。良かった良かった。)
この世界の魔物は、全てその胸に魔石を保有しています。
魔力を持つ石ころで、大体胸のあたりにあるやつです。売れば小金程度にはなるらしいですし、帰り際王都の探索者ギルドで売り払って帰ることにしましょう。
「っと! ではでは……。レベルアップの処理、していきましょうか!」
あのコボルトを絶命させた瞬間、私の中に確実な“手ごたえ”がありました。
相手を絶命させたことに対する手ごたえではなく、自分の階位が一つ上がる感覚。一回り大きく強くなる感覚です。そう、0から1へのレベルアップですわね!
本来、この世界の住人は自身のステータスどころかレベルすら把握することが出来ません。そりゃゲームじゃなく現実なので当たり前なのですが、私からすれば不便以外の何物でもありません。レベルを上げてその分だけ上がったステータスを眺め、どのスキルが最高効率なのか、ボスに有効なのかを眺めながら考える。その時間が最高に楽しいのです。
「それを取り上げられたら趣味を満喫なんか出来ませんわ! と言うことで……。『/status』、あ! 出ました出ました! これですよこれー!」
わざわざ『前世の言語』で唱えてみれば、やっぱりちゃんと出てきてくれた見慣れたステータス画面! もしかしたらと思ってましたが、想定通りで万々歳ですわ! 口頭でのゲームコマンド打ち込み! 成功ですわ!!! これでステータスもスキルも見放題! そしてその操作もし放題! 最適なビルドを組み立てることが出来ますわー!
はてさて! 『ヴァネッサ』はノンプレイアブルキャラ! その細かな強さは私も知りません! どんな感じなのかは今日が初めてです! さぁさぁ、ちょーっと覗かしてもらいましょうか!
[STATUS]
Name : ヴァネッサ・ド・ラモルヴィーヌ
Race : 人間 (転生)
Age : 15
Job : 貴族
Level : 1
EXP : 0 / 10
HP : 10 / 10
MP : 10 / 10
ATK : 2
DEF : 1
M.ATK : 4
M.DEF : 6
SPD : 5
LUK : 11
SP : 0
Skill Slots: 0 / 3
「……人間の横の転生。なんかバレてますわね。まぁ別にそれは良いのですけれど。」
私、物理クソ弱い。
防御力1って何ですか1って。いやまぁ値が小さくてもSP振り分ければ補完できますし、他にも伸ばし方あるので問題はないんですが。
にしても、想像通り魔法系が強いので後衛タイプですわねぇ。魔法型のビルドに持って行けばまぁいい感じにはなるのでしょうが、私が目指すのは物理型。強くなることは必須ですが、趣味でもあるのです。折角なら一番楽しめる道を進むのが道理というもの。
「ま、頑張っていきましょうか!」