3:登録ですわ!
「お待たせいたしました。学園への通達及び、お嬢様の装備をお持ちしました。」
「早いわね!」
メイドのグレタに細々としたことをお願いした後。
ウキウキしながら前世の記憶を引っ張り出し、紙に今後の攻略方針や計画を書き込んでいたところ、もう彼女が帰ってきてくれました。さっすがグレタ、パパ上に私のこと任されるぐらいのベテランで超優秀ですわね! しかもとっても素敵な毛並み!
背の高い人だからしゃがんで貰わないと頭撫でられないけど、すっごいもふもふで幸せですわっ! わたくし、いぬ、すき! もふらせて!!!
「昔からお嬢様の我々犬の獣人に対する執着は本当に謎ですね。……んん、失礼しました。こちらご要望の品になります。」
そう言いながら彼女が取り出してくれたのは、かなり質の良さそうな皮の装備たち。
本音を言えばこういうのも全部自分で集めてしまいたいものなのですが、この身は公爵令嬢。流石に剣一本で危険なダンジョンに殴り込みをかけようとすれば絶対に止められてしまいます。抜け出して勝手に行ってしまってもいいのですが、流石に、ね?
怪我ならまだいいですが、ダンジョンで死んだりすれば大問題。最悪パパ上がキレて今住んでる屋敷のメイドさんや護衛さんを全員処刑しちゃうかもしれませんし、好き勝手するにもある程度筋を通さなければなりません。なのでグレタに相談したうえで、身を護る装備を用意してもらったわけですね。
ま、まぁそこまで考えているならそもそもダンジョン行くなとか言われそうですが……。つ、都合の悪いことは聞こえませんわっ! ほらグレタ! 説明して!
「……畏まりました。装備ですが、動きを阻害せぬよう軽量にして頑丈な竜皮で揃えさせて頂いております。ジャケット、グローブ、レギンス、ブーツ。装飾を抑え色を塗り直しているので、一見ただの皮装備に見えるようになっています。これで必要以上に目立つようなことはないかと。」
「ほえー。」
「また、これらに併せこちらも装備して頂きたく。」
そう言いながら彼女が取り出すのは、舞踏会で出てきそうな目元を隠す仮面と、全身を覆い隠すフード付きの外套。仮面の方はちょっと派手ですが、外套はどこにでもありそうなやつですね。
「仰る通り外套は店売りで男性用の大きなものをご用意しました。またこちらの仮面ですが、屋敷の職人に急いで『頭部保護』と『隠蔽』の効果を付与して頂いています。これによりもし『屋敷で休養中』のお嬢様が外でご学友と鉢合わせても『別人』のように見せることが可能です。」
「あら便利。後その無理させた職人には褒美を取らせておいて。私のお小遣いからですわ。」
なるほどなるほど、確かにそういう隠蔽工作は大事ですわよね。
この世界の住人にとってもダンジョンはとても良い場所です、命の危険はありますが魔物に勝てば経験値が手に入り強くなれますし、うまく行けば一獲千金。大金持ちです。財政面が厳しい貴族だったり、腕の覚えのある貴族が入ったりしているとゲーム内でも説明されてましたし、遭遇する可能性は十分にあります。
一応自身は未来の王妃さま。入学前に参加させられた舞踏会とかで顔が割れてますし、ばったり会ってしまえばお前学校休んでるのに何遊んでるの? って言われてしまうでしょう。さっすがグレタ! 気遣いのできるメイド!
それでそれで、武器は! 何用意してくれたの!?
「おそらく高品質なものをお求めではないと思い……、店売り品を一通りご用意しました。鉄製の剣と槍。また弓と矢一式になります。お嬢様のご希望に沿うよう、数打ちの品です。」
「ん~! グレイト! わかってるぅ!」
そうそう! 防具が高価な分、そっちでつり合いとらなきゃね! 確かに高価な武器防具で無双するのも楽しいけど、最初からそれをしちゃ楽しくゲームが出来なくなっちゃう! 製作者が作ったゲームデザインに沿うように遊ぶ。そこはしっかり守らなきゃ!
こう、コツコツお金貯めて良い武器買いに行くってのもが乙なんですよ……!
「しかしお嬢様、武器はこちらで本当によろしいのですか? もう少しお時間頂ければ魔法用の武器、杖などもご用意できますが。」
「んもう、知ってるでしょグレタ? 私はこっちの方が合ってるの!」
貴族のたしなみと言いますか、この世界の貴族はそのすべてが魔法を使用することが出来ます。貴族の権威でありながら、強さの象徴みたいな感じですね。故に公爵令嬢である私も魔法は使えるのですが……。もっとこう、体を動かしたいタイプなんですよ。
確かに殲滅力とか攻撃力を考えれば魔法の方が強いのでしょうが、物理に強い憧れがあるんですよね、私。
前世も運動部でしたから体動かすの好きですし、ゲームでも大体前衛職でした。転生してからの実家でも暇さえあれば剣とか槍とか振り回して遊んでましたし、もうそういう人間なのです。
「お願いですから、ケガだけはなさらぬよう。正直に言えば今すぐお考え直して頂きたいですが、お嬢様は一度決めたら絶対に引かれませんでしょう?」
「えぇ、そうね! 心配かけて申し訳ありませんわ!」
「では危ないことはなさらないでください、」
「やです!」
もうダンジョン潜るって決めたんですもの!
ゲームで描写されたこの王都のダンジョンだけでも大量にありますし、世界に目を向ければゲームに出てこなかったダンジョンもあるのです! もうやるって決めたからには引きませんわ! 媚びませんわ! 省みませんわ! 公爵令嬢に逃走はないんですのよ~!
「はぁ。仕方りません、最後になりますがこちらの2点をお納めください。」
「あら、何かしら。……カードとお守り?」
「はい、登録証と『帰還』の魔法が込められた物になります。」
あぁ、ゲームでもあった緊急用の奴ですね。使用すれば一気にダンジョンの外に逃げれる奴。道すがら買ってから行こうかと思っていましたが、用意してくれるなんてやっぱ気が利きますね! しかも結構な数を用意してくれましたので、当分補充の必要はないでしょう。
んでもう片方のちょっとカードの方を覗いてみれば、『ヴァル』という名が。
あら知らないお名前。頭は一緒ですが、私。ヴァネッサですわよ?
確かダンジョンを管理する探索者ギルドに登録していることを示すカードだと思うのですが……。もしかしてグレタ、パクってきました? これ男性の名前ですし。アレだったら公爵家の権力でもみ消します? 最悪この方がいた痕跡を消して、ギルドに献金すれば大事にはならないでしょうし……。
「人聞きの悪い。こちらは探索者ギルドの方から備品をお借りして作ったものに成ります。いわばお嬢さまの偽名でございますね。正体をお隠しになられるのでしたら、性別も変えた方が良いかと思いまして。」
あぁなるほど、顔は『隠蔽』付きの魔法で隠せますし、男性用の外套を着ていますから体の線も見えない。男であると思われれば、そもそも『ヴァネッサ』だと思われることもないってわけですね! あと急に呼ばれても反応しやすいよう、頭文字を同じにした感じですか!
「そういうことになります。ささ、装備に着替えてくださいませ。魔道具にて写し絵を撮影し、カードに貼り付けることで完成となります。」
「なるほどなるほど、では上手く撮ってくださいまし~。」