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「ランキング1位をとれる話を考えて」「よろこんで」  作者: gramgram


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第8章:馬車怪談

「それでね、食器棚の中に、使いかけの茶葉が残ってたんですって。しかも、封が最近開けられたような跡があったって」


馬車の車輪が石畳を踏むたび、ガタン、と鈍い音が響き、余韻が揺れに乗って車内に染み込んでくる。

窓の外では、曇り空が低く垂れ込めていた。風が木々をざわめかせ、枝が軋む音が遠くから届く。

そのざわめきが、クラリスの語りに妙な現実味を与えていた。

「その家、住んでるのは一人のはずなの。家族は、もう何年も前に亡くなってる。なのに、洗濯物が増えてるとか、風呂場に髪が落ちてるとか……まるで昨日まで、誰かが生きていたみたいに」

その瞬間、馬車の外で枝の折れるような音がした。

「ひっ……!」

アルウェル王子が、窓から遠ざかるように身を引く。

 王族の威厳とは。

「モヤモヤするというか、キレの悪い話ね」

眉をひそめる私に、クラリスは肩をすくめてみせた。

「キレも何も、実話って触れ込みなのよ」

クラリス・ぺノン・エーデルは辺境伯の娘だ。

エーデルの北端は魔族領と地続きで、この手の話には不自由しないという。

休みの度に持ちかえる新ネタを、耐性のない人間に聞かせることが、何よりの楽しみらしい。


「根拠は?」

私が尋ねると、クラリスはすぐに答えた。

「地元の領館はその噂でもちきりよ。証言は兵士だけじゃない。貴族の身内からも出てるの」

貴族、と聞いた瞬間、王子の顔色がさらに悪くなる。どうやら“他人事”では済まないらしい。

手こそ握らないが、いつも以上にぴったりと、体を姉にくっつけている。

このへんが潮時だろう。

クラリスは良い友人だが、自分まで不敬罪にされてはたまらない。


「クラリス」

たしなめようとした私より先に、リアナが口を開く。

その声は静かだったが、空気が変わった。

「はい」

さすがにやり過ぎたかと思ったのか、クラリスは姿勢を正す。

「詳しく聞かせて」

前のめりになった姉の目は、興味の色に輝いていた。



家に帰ると、リアナはまっすぐ書斎へ向かった。

扉の向こうからは紙の擦れる音と、ペン先が走る気配だけが聞こえてくる。

夕食を運んだ時、棚の書物を引っ張り出しては、次々と書類に書き写していた。

何かを企んでいるのは明らかだったけれど、私にはその全貌が見えなかった。


数日後、生徒会が「研修旅行先の再検討を求める意見書」を校長に提出していた。

掲示板に張り出された文面は丁寧で、建前と形式に満ちていたけれど、間違いなく姉の筆だった。


校長や理事たちによるヒアリングには、生徒会長・副会長も並んで同席したが、

説明も質疑応答も、実質リアナの独り舞台だったらしい。

最近目立った事件がないとはいえ、魔族の領土と接するところに教院の生徒、しかも王族のいるクラスを行かせるなど、本来認められるはずがない。

だがリアナは、「これからの国を指導する立場の若者たちが、現地を視察し、住民から魔族との接し方を学ぶことも、将来の国益に繋がる」と、よくわからない理屈を堂々と言い張った。

その声には、妙な説得力があったという。


当然、辺境伯領側からは猛烈な反対が予想された。

万に一つがあろうとなかろうと、王族を迎えるなど、責任問題の塊だ。

これに対し姉は、各人に冒険者の護衛につけるという案を示した。

貴族子女の滞在費に加え、大量の冒険者の手配に伴う、物資供給、契約料、報告書の作成などの事務費用――

その利益の還流を、ギルドからのキックバックの形で提示された貴族たちは、反対を取り下げ、研修の受け入れに賛成票を投じた。


こうして、ほとんどの関係者がその本当の理由を知らないまま、研修先は辺境伯領に決定された。






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