学園
何も言うことない。それでは本編をどうぞ。
教室に入ると、各々会話していた。リリィは既に打ち解けているようだった。だが、よくよく考えると、俺は前世でも友人なんてものは居なかったため、作り方すら知らない。だから、一人でポツンと席へ座る。前世でいう大学に近い場所だな。扉がノックされ、教諭らしき人物が入ってくる。
「お前ら、静粛に。私はこのクラスを担当する、カルマ=ブレインという。カルマ教諭とでも呼んでくれ。今日は、魔術の基本体系や種類について解説する。」
授業が始まる。昨日は徹夜して本を読み漁ったため、大方この世界については理解した。殆ど全て頭に入れておいたからな。
「…という具合だ。後は種類だが…」
教諭の言葉は聞き流す。分かっているからな。全ての授業が終わり、寮へ行く。お風呂にも入り、夕飯を済ませる。ふとノックが聞こえた。扉へ向かい、開けると、リリィが居た。
「リリィ…?もう9時だから門限的に…いや話したいことでもあるのか?」
「うん。」
バレないようにリリィを招き入れる。
「紅茶でいいか?」
「うん、いいよ。ありがと。」
紅茶が入ったティーカップを二つ机に置き、向かい合って座る。
「で、どうしたんだ?」
「えっとね…、今日の授業、暇そうじゃなかった?」
「あぁ、昨日徹夜で本を読み漁ったからな。大体分かるんだよ。」
「すごいわね…。」
「まぁな。で、本題は?それだけじゃないんだろ?」
リリィは驚いたように目を見開き、紅茶を啜る。
「流石ね。ねぇ、あなた、術力が無いんじゃないの?」
術力とは空気中に存在するマナ、所謂魔術の元となるものを操る力のことを指す。
「…どうしてそう思う?」
勿論俺にはない。だが、リリィは何故気づいたのだろうか。
「あのさ、固有魔術って知ってる?」
「あぁ、確か才能ね恵まれた強者しか持つことのできない、属性外の概念の魔術のことだろう?まさか…。」
「そう、私も持ってるの、固有魔術。越俎之罪っていうんだけどね。」
「成程、意味通りに捉えるならば、他人に干渉する魔術か。」
「少し違うかな。この魔術は無生命物体にしか使えないの。」
「成程、それで?」
「あなたに一切のマナが反応しなかった。」
沈黙する。
「ふむ。マナは無生命物体だからな。」
お手上げと言ったように両手を挙げる。
「それ以上は勘弁してくれ。分かった、それは認めよう。」
もうリリィは信用できる。何故ならこの事実を知っても尚、誰にも言わなかったからだ。
「なら、あの実技試験での魔術は何なの?」
魔術は本来特定の属性のマナを操作して、発するものだ。マナが操れないならば、魔術は使えない。
「あれは実は魔術ではない。今まで隠していて悪かった。」
誠実に向き合う。これが大切だ。本来誰にも知られずに過ごすつもりだった。前世のような存在になるつもりはなかった。だが、これも天命だろう。
「ただ、このことを知りたいなら一つ約束して欲しい。誰にも口外しないでくれ。」
「…分かったわ。」
「俺は…そうだな。転生した身なんだよ。」
「え?」
「要は別世界から来たんだ。だから、魔術ではないものを使う。」
「あ、あの…それって本気で言ってる?」
「信じられないか?」
「まだ…う~ん…。」
「因みに実技で出したのは本気の1割にも満たない。」
驚いたように目を見開く。
「俺は元々召喚術師なんだよ。」
「つまり…モンスターとかを召喚するってこと?」
「ああ。まぁこの世界のモンスターよりかは数倍は強いが。ま、そういうことだ。理解できたか?」
「うん…。ごめんね、なんか無理押して聞いちゃって。」
「良いさ、どうせリリィには話すつもりでいた。」
これは嘘だが仕方ない。嘘も方便だ。
「よかった…。あの…これからも友人としてよろしくね。」
「あぁこちらこそ。」
リリィが帰っていく。俺は溜息を吐く。
「ふぅ、まあ仕方ないな。」
翌朝、学校に行き、いつも通りの席にただ一人で座った。相変わらずリリィは友人と話している。教諭が入ってきた。
「よし、今日は実技試験だ。来い。」
全員でぞろぞろと着いていく。
「この森を抜けて、逆側へ行け。私は別ルートで行き、待っている。モンスターも居るから精々がんばれ。それと、森に入るとき、必ず一人、あるいはペアを組め。それでは健闘を祈る。それと制限時間は今日の講義が終わるまで、つまり7時間だ。」
そう言って去っていく。俺は一人で森に行こうとするが、途中で呼び止められる。
「ねぇ。一緒に行こ?」
「あぁ、いいぞ。」
見ると、リリィだった。女子の友達も多いだろうに、何故そこまでして俺に近づくのは不明だが、一応幼馴染ということらしいし、拒否する理由もない。そのまま二人で森の中を進んでいく。突如そこにはモンスターが現れた。
「え、ナーガ⁉」
「ん?こいつ、そんなに強いのか?」
気になって聞いてみる。
「強いも何も一応モンスターではとても強いわ。」
「そうか。そうだな、今生でまだ召喚術を使っていなかったし、試してみるか。」
「え?」
「<召喚>プロトデーモン」
魔法陣が形成され、銀色の翼を持った悪魔が現れる。
「さて、プロトデーモンよ。やれ。」
その一言でその悪魔は飛び立ち、次の瞬間にはナーガの背後に居た。拳に魔法を込めて殴る。たかが物理攻撃、されど物理攻撃。それだけで、ナーガは彼方へと飛んで行った。
「ま、こんなものか。<戻れ>。」
魔力を込めて言う。プロトデーモンは地に潜り、消えていく。
「え、ええええ!!!!????」
「ど、どうした?」
叫ぶリリィを見て、こっちが驚く。
「え、えっと、え?ナーガを瞬殺できるの?レオンの召喚獣ってどんだけ強いの?」
「そうだな、プロトデーモンは強さでは中の上くらいだぞ。」
「強すぎじゃない?」
「そうか?どれも俺より弱いが。」
「…もう、言葉もでないわ。」
その後もモンスターを狩っていく。
「そろそろいいかな。もう召喚獣も結構試したし。アレより強い奴らはそうそう使わないだろうしな。」
「ん?なんかするの?」
「手、握って。」
「え?えっと…こう?」
握手するように手を握り合う。
「情報反転」
位置が変わり、そこは森の出口付近だった。
「え、え?」
「出口付近の虫と位置情報を入れ替えただけだ。それじゃ、行くよ。」
そして無事俺たちは僅か3時間でクリアしたのだった。
次回から、登場キャラが増えます。心してください。