表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

冬童話2025

和を以て貴しと為す

作者: 壊れた靴

 ある町の近くには、迷宮がありました。

 奥には沢山の財宝が眠ると噂されるその迷宮には、二つの種族が長い間挑んでいます。

 一つはネコ族という、とても素早い種族です。財宝の中でも、特に小判には目がありません。

 一つはブタ族という、とても力強い種族です。財宝の中でも、特に真珠には目がありません。

 二つの種族は仲が悪く、協力するなどとても思い付きません。

 ある日のことです。ネコ族たちはブタ族たちの見る前で、道をふさぐ深い穴を飛び越えて進みました。ブタ族に真似できることではありません。ブタ族は悔しがって、別の道を探しに行きます。

 けれど、深い穴の先には重い石があり、ネコ族に持ち上げることはできません。ネコ族は悔しがって、別の道を探しに行きます。

 ある日のことです。ブタ族たちはネコ族たちの見る前で、道をふさぐ重い石を持ち上げて進みました。ネコ族に真似できることではありません。ネコ族は悔しがって、別の道を探しに行きます。

 けれど、重い石の先には深い穴があり、ブタ族に飛び越えることはできません。ブタ族は悔しがって、別の道を探しに行きます。

 そんな風に、意地の悪い迷宮は、ネコ族でもブタ族でも、簡単には進んでいけません。

 それでも、二つの種族は仲が悪く、協力するなどとても思い付きません。

 

 さて、町にはある仲の良い家族が暮らしていました。

 年を取ったイヌ族の夫婦と、若いネコ族とブタ族の兄弟での家族です。兄弟は、赤ん坊だった頃にイヌ族の夫婦に拾われ、実の子のように大切に育てられました。夫婦を実の親のように思い、それぞれを実の兄弟のように思っています。

 イヌ族はとても賢い種族なのですが、迷宮に挑むことがないため、ネコ族からもブタ族からも臆病者と笑われています。兄弟も、臆病者に育てられた臆病な兄弟と笑われています。兄弟は、自分たちが笑われるのは我慢できましたが、夫婦が笑われるのは我慢できません。

 とうとう、兄弟は夫婦に言いました。

「父さん、母さん、僕たちは、あの迷宮に挑戦しようと思います」

「それはいけないよ。どんな危ないことがあるかも分からないのだから」

 夫婦は兄弟を心配し、強く首を振ります。

「どうか、行かせてください」

 夫婦は兄弟の真剣な目に、黙り込んでしまいました。やがて、兄弟が心変わりしないことが分かった夫婦は、仕方なく頷きました。

「少しでも危ないようなら、すぐに戻ってくるんだよ」

 心配する夫婦に見送られ、兄弟は迷宮に向かいました。

 迷宮の入口に着いた兄弟は頷き合うと、中に入っていきました。

 兄弟は見事に息を合わせて進んでいきます。

 ネコ族が深い穴を飛び越えれば、協力して橋を渡して、ブタ族が通れるようにしました。

 ブタ族が重い石を持ち上げれば、協力して支えを作り、ネコ族が通れるようにしました。

 そんな風に、意地の悪い迷宮を、ネコ族とブタ族とで、簡単に進んでいきます。

 兄弟はあっという間に、迷宮の奥に到着しました。沢山の財宝が、山のように積み重なっています。

 山のような財宝の中から、ネコ族は小判を一枚だけ、ブタ族は真珠を一粒だけもらいました。それと、イヌ族の夫婦のために古めかしい本を一冊だけもらって、家に帰りました。

 兄弟の元気な姿を見た夫婦は心の底から安心して笑いました。

「すぐに戻ってきてくれたんだね。お前たちが無事ならそれが一番だよ」

 兄弟は顔を見合わせて笑いました。

「迷宮の奥に行くことができました。これは、そのお土産です」

 兄弟は驚いている夫婦に本を渡して、小判と真珠を掲げました。

「もっともっと沢山の財宝がありましたけど、これで充分です」

 夫婦は顔を見合わせて笑いました。

「後生畏るべしだね。それに、過ぎたるは猶及ばざるが如しだ。本当に、これで充分だよ」

 家族はみんなで笑いました。

 その後も、仲の良い家族はずっと幸せに暮らしました。

 

 さて、迷宮の奥に着いたという兄弟の話を聞いた、他のネコ族とブタ族もようやく協力を始めました。

 協力するとは言っても、本当にはお互いのことを考えていないため、手抜きをしてしまいます。深い穴の橋も、重い石の支えも、途中で崩れてしまい、後回しにされた沢山の若いネコ族とブタ族がいなくなりました。

 ネコ族とブタ族は長い時間をかけて、迷宮の奥に到着しました。残ったネコ族もブタ族もすっかり少なくなっています。

 山のような財宝に目のくらんだネコ族とブタ族が、それぞれの目当てに駆け寄ります。

 今度はネコ族同士が、一枚でも多くの小判を自分のものにしようと、奪い合いを始めました。

 今度はブタ族同士が、一粒でも多くの真珠を自分のものにしようと、奪い合いを始めました。

 最後には、ネコ族もブタ族も全然残りませんでした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
いろいろと考えさせられる教訓を残してお話が綴じていますね。2つの種族がもう少し仲良くなれたら全然違ったお話になっていたのでしょうね……。
2025/01/17 19:30 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ