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TRUE DAWN  作者: 三九
18/18

エピローグ

 ナナエは窓の外に浮かぶ月を見上げた。

 あの赤い月が消えてからしばらくの後、新しい月が昇るようになったのだ。

 新たな月の精霊が、誕生したということだろう。


 あの戦いの後、ナナエとヴォルフは救援に駆け付けたダルたちに助けられた。

 ほとんど無傷だったナナエだが、月の精霊に生気を食われたことにより、救助されてから一週間程はねたきりの状態が続いた。


 ヴォルフの方は怪我が酷く、すぐに施療院に運び込まれた。

 だが、どこの施療院も怪我人で溢れており、獣人のヴォルフは中々治療してもらえなかったらしい。

 そこでナナエ共々ガレットが引き取り、水の国に連れて帰ってきたのだ。


 各国とも、酷い有様だったという。

 特に聖王国は壊滅状態で、世界の人口も激減してしまった。


 それでも生き残った者たちは、こうして家を建て、街を造り、国を建て直している。

 数年が経った今、ようやく国家として機能し始めたのだ。


 ナナエは一度、本当の家族の許へ戻ったのだが、王位継承権を放棄して世界中を旅している。

 ナナエが今抱いている新しい家族は、人間と共に、まして王族と共に暮らすことは難しいからだ。

 それでも時々は人間の街に立ち寄り、彼らの存在を受け入れてもらえるように努力している。

 今日泊まった宿の主人も、最初は驚いていたが理解を示してくれた。


 少しずつだが、世界は……否、ヒトは良い方向へと歩きだしている。

 いずれは彼らだけでなく、精霊たちとも理解し合えるだろう。

 精霊に愛されし者だけでなく、普通の人々でも精霊の声が聞こえるようになったという話を、ここ最近になってよく耳にする。


 不意に部屋の扉が開き、ヴォルフが入ってきた。

 杖で身体を支え、ゆっくりとナナエに近寄ってくる。


 無理に半獣化した副作用か、切られた腱が壊死してしまっていたのだ。

 少しずつ回復してはいるが、治りが遅く、未だに杖がないと歩けない。

 それでもヴォルフは、ナナエと共に旅をする道を選んだ。

 ようやくナナエの横に並んだヴォルフは、ナナエに倣って夜空を見上げる。


「ははっ、レイオン、今日も頑張ってる」


 金色に光る月を見て、ヴォルフが笑った。


「騒ぐなよ。起きちまうだろ」


 咎めるようにナナエが言うが、少し遅かったらしい。

 ナナエの腕の中で、小さな子供が身動ぎする。

 眠そうな目をこすり、ナナエを見上げた。


「うぅ〜……」


「ああほら、起きちゃったじゃんか」


「う、ごめん」


 ナナエが抱いていた子供の、大きく尖った耳がぴくりと動く。

 褐色の肌に月の光を受けて、その子供は眠気を払うように首を振った。

 白銀の髪が、それに併せて大きく揺れる。


「もう朝?」


 金色の瞳を瞬きさせて、子供はナナエの顔を覗き込む。


「まだ夜。明日は父さんの墓参りに行くんだから、早く寝な」


「……寝てたのに」


 その子供はぷうっと頬を膨らませて不機嫌そうに呟くが、ナナエに抱かれたまま軽く揺すられるうちに、再び眠りについた。

 父親に良く似た面影の子供を抱き締め、ナナエは月を見上げる。

 月は相変わらず、美しく輝いていた。


 明日もきっと、精霊に祝福されたような良い天気になるだろう。

 何しろ精霊の王は、晴れ渡った空を舞うのが好きだから。


 遠くて近い場所にいる子供の父に思いを馳せながら、ナナエは静かに目を閉じた。




END

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