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社会不適合者が凄腕のショコラティエになっていた件  作者: エスティ
第4章 地方復興編
70/70

70粒目「先細る未来の復興を懸けて」

今回で地方復興編終了となります。

次回からは第5章修業編の開始となります。

しばらくは新作のためお休みします。

 11月を迎え、ようやく気分が落ち着いてくる。


 ここにきて初めて世間に対する見解がお兄ちゃんと一致する。


 世間とは幼児性を伴うモンスターだ。物事の表面しか見ようとせず、熟考もすることなく断定するくせに力だけは強いのだから、なかなかに厄介である。


 葉月珈琲を手伝うようになってから、凪と度々メールのやり取りをしながら様子を窺い、今なら復帰しても大丈夫と念を押され、久々にタレントップへと赴いた。このままでは駄目だと自分の勘が叫んでいる状態に耐えられなかった。私にとっては一大決意だ。


 アウティング動画は運営によって削除されたが、凪のファンが激減した事実に変わりはなかった。


「おっ、やっと復帰か?」

「は、はい……あの、怒らないんですか?」

「あんだけ好き放題やられてんのに、何で怒る必要があるんや?」

「体調不良とはいえ、長期間休んだ件です」

「あー、そのことやったら、凪ちゃんから聞いてるから、心配せんでええよ」

「そうですか……」


 つい笑いながら会釈をしてしまった。私の悪い癖だ。


 機嫌を窺うだけで生きていけるのは学校まで。分かっているのに変えられない。


 社長室を出ると、1階からエンジェル・ウィングへと入った。凪は至って変わらない様子で報告書の作成作業に追われている。私には目もくれず、ひたすらパソコンをカタカタと鳴らしている。


「立ってないで座ったら?」


 言われるがまま、私は近くのソファーに腰かけた。


「凪、今後の活動のことだけど――」

「辞めるなんて許さないから」

「まだ何も言ってないけど」

「もしあたしに配慮しているつもりなら、辞めるなんて言わないで」


 やっと凪が目を合わせてくれた。


「葉月珈琲の売り上げがまた下がってきてるの。しかもお兄ちゃんがパナマゲイシャを大量に買ってしまったみたいで、やりくりする必要が出てきたの」


 パナマ遠征から帰ってきたお兄ちゃんからの一報は私を驚愕させた。


 世界最高峰のコーヒーを大量に買い込み、その全てを大会用のコーヒーとして使うため、店に出す気はないらしい。商品として売りに出すのはあくまでも最終手段だ。


 3回に分けて購入したようだが、その後のプランは特に考えておらず、店の売り上げさえどうにかできれば何とかなるという至って雑な計画だ。売り上げが見込めない場合はお兄ちゃんが借金を背負うことになるわけだが、どうやって補填するのやら。


「……分かった。じゃあ週1だけの活動にしたら?」

「そんなことできるの?」

「できるよ。タレントップには色んなタレントがいるでしょ。子供ながら特別な事情があって働かないといけない人、上京を目指して下積みをしたいけど機会に恵まれない人、学校に行きたくない人なんかを集めて、独立できるだけのスキルを身につけさせることを目的にしてるんだから」


 ウインクをしながら凪が言った。私の顔色を見て残ると確信したらしい。


「じゃあ、週1なら――」

「えっ! やってくれるのっ!? やったー!」


 急に回転椅子から飛び上がり、私に抱きついてくる凪。


「どっ、どうしたの?」

「だってぇ……てっきり辞めるって言うと思ってたからぁ~」


 幼女が泣くような声と表情を見せる。ファンにはまず見せない顔だ。


「最初はそのつもりだったよ。長期間活動を休んでるわけだし、これ以上迷惑かけるのは無理だと思ったから、週1で活動できるなんて、考えてもみなかった」

「他の芸能事務所なら、とっくにクビになっていてもおかしくないけど、タレントップはそういうところでも柔軟に対応するタチだから」

「――感謝してる。ファンクラブはどうなってるの?」

「平たく言えば、壊滅的ってとこかな。一部の人はあたしに味方してくれたけど、これで本当にあたしを好きでいてくれるファンだけが残ったんだし、あたしは運が良かったと思ってるよ。別に悪いことして生きてるわけじゃないんだから、そんなにしょげないの。この前性的少数者の支援団体が抗議をしてくれたお陰で、問題の動画が削除されたの。ファンの人からも、今まで通り応援するって言ってもらえたし、敵ばかりじゃないよ。璃子だってあたしの味方でしょ?」

「――もちろん」


 自信を持ちながら答えた。変人ではあるけど、悪人ではない。


「お店、ピンチなんでしょ? 行ってあげたら? 社長にはあたしから言っておくから」

「ありがとう」


 外に出て鍵をかけると、迷わず駆け足で葉月珈琲へと戻る。


 凪の元を訪れた理由は様子を見るためだけではない。私の鞄に仕掛けられた盗聴器を提出し、出所を見極めてもらうためである。私ならともかく、凪まで巻き込むのは許せない。


 犯人はショコラブリーの活動を良く思っていない人物。


 明らかに私たちのことを目の敵にしている。捜査の対象になっていることも恐らくバレている。


 場所までは突き止められなかったようだが、エンジェル・ウィングの存在がバレてしまったのは非常にまずい。なのに凪は至って冷静だ。何度もこんな経験をしているのだろうか。


 ここで焦ったのが大きな間違いだった。


 私は何日もかけて新しいチョコレートのアイデアを考え、試行錯誤を重ねるが、どれもなかなかうまくいかない。お兄ちゃんはバリスタ競技会用のコーヒーを作り続け、何らかの事情でゲイシャが届かなかった場合のことまで考えていくつかのシグネチャードリンクを作製している。


「あの、チョコレートはいかがですか?」


 珍しく自分から声をかけた。しかし、外国人観光客は舌が肥えているのか、興味を持ってくれない。


「うーん、うまそうだけど、なんかどこにでもあるような感じがするんだよな」

「そうですか……」


 バッサリ言われた。どのチョコレート商品も日本人にはウケる。


 うちの懐事情を知っている酒処藤倉には温情でチョコレート商品を納めさせてもらっている。


 お兄ちゃんが消費した莫大な経費には遠く及ばない。


 やはり独学だけでは限界がある……か。


 週に一度のアイドル活動は私の心を潤した。もはやメインの活動ではない。毎週土曜日にだけ出てくるレアキャラとしてのポジションを確立しつつあるが、暇になってしまった分、考えることが増えた。


 何もできないまま12月を迎えた。


 この頃になると、遂に優子さんにも葉月珈琲の存在がバレてしまい、ほとぼりが冷めるまではみんなに内緒にしてもらった。優子さんはお兄ちゃんと結ばれたいのか、酒の勢いのまま家に連れ込もうとしたようだが、そんなんじゃお兄ちゃんの心は動かない。


 クリスマスイブを迎えると、凪たちを誘い、中津川珈琲でクリスマスパーティーを行った。


 いつかは凪たちと――葉月珈琲でパーティーがしたいな。


 そんなことを考えながら、サンタクロースのコスプレを着こなしている静乃を見守った。友恵さんが手掛けたものらしく、季節に合わないと思うくらいには軽装だ。


 このまま新年を迎えてもいいのだろうかと疑問に感じた。来年は中学卒業。直接通うのが無理なら、通信制高校に行くか、高卒認定試験を受けるかで迷っていた。


 今の心境を吐露すると、お兄ちゃんは優子さんが私を雇いたがっていると言った。ぎこちない様子から秒で嘘と分かったが、何だか背中を押されたようで、私はすぐにヤナセスイーツへと赴いた。


 私にはもう後がない。ショコラティエを目指すなら、きっとこれがラストチャンス。


 幸いにもまだ開いていた。駄目元で足を踏み入れると、優子さんが私に気づく。


「あっ、璃子ちゃん。いらっしゃい。もうすぐ閉店だし、メニューも少ないけど」

「いえ、今回は別の目的で来たんです」

「別の目的?」


 優子さんが首を傾げた。無理もない。この時間帯に購入以外の目的で人が来ることはないのだから。


 私が安心してショコラティエ修行を行えるとしたら、もうここしかないのだ。探せば他にも修業先になる場所はあるかもしれない。でも名店はまだ15歳の私を雇おうとは思わないし、ヤナセスイーツを除けば、世界に通用するパティシエがいる店舗は近くにない。


 一応色んな洋菓子店を回ったが、どこの店も高校くらいは出ていた方がいいと断られた。うまくいかなかった場合の責任を取りたくないのだ。ショコラトリーに勤務したいが、やはり家から遠い場所にある以上は行けない。お兄ちゃんを1人にすれば、何が起こるか分からない。


 もし無理なら、大人になるまでショコラティエは諦めよう。


 賽は……投げられた。


「えっ、ショコラティエ修行?」

「はい。無理なのは承知の上で頼みたいんです。私にはもう……後がないんです」

「そうは言ってもねー、確かに璃子ちゃんを雇いたいって思ったことならあるけど、あくまでも余裕があればの話だし、それが分からない璃子ちゃんじゃないでしょ」


 やっぱり嘘じゃん。お兄ちゃんに駆け引きは向いていない。


 いつだって直球勝負だ。愚直と言ってもいい。でも感謝してる。


 私の背中を押してくれたんだ。この機会を逃せば、私は一生悔いを残して生きていくだろう。大人になるまで諦めようと思ったが、大人になった頃には忘れているかもしれない。


「――余裕があれば、修業させてくれるんですか?」

「まあ、修業にお金がかからないんだったらいいけど」

「分かりました。修業に必要な費用なら、授業料として全部私が出します。普段の営業も手伝います。閉店後の時間だけでもいいので、私にショコラティエの極意を叩き込んでほしいんです」


 今までの私には覚悟がなかった。好きなことに全てをベットするだけの……。


 仕事が好きかどうか自体は顧客にとって何の関係もない。仕事自体は好きじゃなく、生活の手段と割り切っている人もいるだろう。だが1番になれる人は、いずれも仕事が好きでたまらない人だ。


 好きでなければ続かないし、その時点で普通の人ではない。


 何かを成すために生まれた人だ――。


「璃子ちゃんが本気で学ぶ気があるなら、あたしは別に構わないよ」

「本当ですかっ!?」

「ふふっ、そこまで食いつくほど、学ぶことに飢えてたんだね」

「――あっ、すみません」


 気がつけば優子さんに顔を近づけてしまっていた。


 これじゃお兄ちゃんみたいじゃん……恥ずかしい。


 顔が赤くなり、優子さんから目を逸らす。学びたいことに限って誰も教えてくれない環境に苛立ちさえ覚えていることをあっさり見抜かれている。


 お兄ちゃんの言葉を借りるなら、世の中のレベルが思った以上に低いのだ。


 多くの人が短絡的で無節操なのは、高等な知性に至る教育が足りていないからだ。最低限のラインをクリアできればそれでいいと思っている。故に狭く深く学べる土壌がないのだ。それなら専門学校や大学といった手があるものの、年齢を重ねないと学べない環境がたまらなくストレスだ。


 ある程度大人になってからだと、興味を失っている可能性すらあるのに。


 私にはチョコレートしかない。味なら自信があるし、一度でも食べてもらえればとは思うが、多くの人は見た目だけで買うかどうかを判断する。私が男子からよく声をかけられるのは、この幼女のような見た目だけで人を引き寄せていたからであって、中身でモテていたわけではない。どうせなら中身で評価されたいし、中身で勝負ができる人間でありたい。


 だからこそ、私は早い内から選択肢を捨て、好きなチョコレートに没頭したいのだ。


「ふふっ、璃子ちゃんって可愛い」

「ショコラティエ修業するとは言っても、来年は受験じゃなかったっけ?」


 ショーケースに手を伸ばし、ケーキを取り出している優香さんが疑問を持つ。


「悪いことは言わん。高校に行ってから決めても――」

「それじゃ遅いんです」

「「「……」」」


 藤次郎さんの言葉を遮るように言葉を返す。


 いつもの私じゃない。いや、いつもの私を封印していた弱い自分がいなくなっただけだ。


 本当はいつも心の底で思っていた。普通なんてクソくらえだ。でも普通にならなければ、平穏な日常を過ごすことさえできないから、従うしかないのだと。


 目に溢れんばかりの想いを溜めながら、私はゆっくりと口を開いた。


「高校に行って、大学に行って、それなりの会社に就職すれば、私は普通の人になると思います。でも私が知っている普通の人は、周りに馴染んで充実しているように見えて、実は自分を押し殺して、ひたすら現実の苦しみに耐えているだけの人でした。中年くらいになって、自分の人生これで良かったのかなと愚痴り始めて、晩年にはあの時こうしていれば良かったと言いながら死んでいく。周りの……普通の人と呼ばれて生きてきた人たちの多くが、この末路を辿っていました。こんなつまらない末路を……私にも辿れと仰りたいのでしたら、断ってもらって構いません」


 今まで色んなタイプの人間を見てきた。


 貧困の中でやりくりする人、裕福だが満たされない人、自由気ままに生きる人、他人を陥れる人。


 人の心が手に取るように分かる私だからこそ導き出せた答えがこれなら、普通の生き方を突っぱねるだけの十分な根拠になるはず。細かいことは分からないが、自分の感覚を信じたいことだけは分かる。


「中卒で手に職つけたところで、満足に食べていける人は限られてるんだぞ」

「就職レールを外れたら、普通の生活さえできなくなって、最悪詰むかもしれません。でも……それでも私は……好きなことを仕事にして、生きていきたいんです」

「「「!」」」


 優子さん、優香さん、藤次郎さんの目の色が変わった。


 誰もが好きなことを仕事にできるわけじゃない。でも一生仕事を続けなければならないのであれば、生活のためだけにやるような仕事なんて、私に言わせればただの苦役でしかない。


 稼げるかどうかじゃない。幸せになれたかどうかだ。


「世界一のショコラティエを目指します。そのためなら何だってやります」

「――お父さん、ここまで啖呵切ってるんだから、ちょっとは考えてあげたら?」


 藤次郎さんが後ろを向き、階段を上がろうとする。


 かと思えば、1段目に右足を乗せたところでピタリと動きを止めた。


「うちは厳しいぞ」

「はい。覚悟はできています」


 振り返ることもなく、藤次郎さんが2階へと上がっていく。


 結局、うちが修業費を負担することを条件に、私は晴れてヤナセスイーツでショコラティエを目指すべく修業をさせてもらえることに。ただのお手伝いではない。事実上の弟子入りだ。問題はお兄ちゃんが修業費を出してくれるかどうかだが、背中を押してくれたお兄ちゃんが出してくれないはずもなく、経費が嵩んでいく中、トータルで見れば、赤字のまま年明けだ。


「あれっ、璃子ちゃん。ここにいたんだ」

「吉樹、どうしたの?」

「実は今日買う予定だったクリスマスケーキを買い忘れちゃってさー、どうしてもここで買いたかったんだよね。お姉ちゃんもヤナセスイーツって決めてるし」

「あー、また忘れて柚子ちゃんに怒られたんでしょー」

「えへへ、当たりー」


 吉樹が頭の後ろに手を当てながらニヤニヤと笑ってみせる。


 お惚け天然キャラの吉樹は愛嬌が売りであり、集団に何なく馴染める性格だ。


 お兄ちゃんと生年月日が同じ人間とはとても思えない。


 吉樹は幼少期からお兄ちゃんと仲が良く、学業や仕事の要領こそあまり良くないが、周囲の人にカバーしてもらいながらどうにかやり過ごしている。計算ずくではないだろうが、常に味方がいる吉樹は対人関係において無敵と言っていい。所謂草食系男子であり、感情的で大人しい上にすぐ物怖じする。


 姉である柚子とは対照的で、これまた同じ家の兄弟とは思えない。


「吉樹君、璃子が来年からうちでショコラティエ修業することになったから、買いに来てあげてね」

「えっ、璃子ちゃん修行するのっ!?」

「うん。世界一のショコラティエを目指すから」

「分かった。みんなにも伝えておくね」


 購入を済ませると、颯爽と立ち去っていく吉樹。


 クリスマス前の洋菓子店にはクリスマスケーキが特売されているのが常識だ。


 どこのスーパーやコンビニも同じことを考えている以上、イベントであっても格安で売らざるを得ないのが現状だ。私としては、高くてもみんなが買ってくれる商品を作りたい。


 誰かに対してここまで自己主張したのは初めてだ。


 藤次郎さんは渋々受け入れた様子だったし、あまり嬉しそうではなかった。


「お父さんってね、元々は大手のホテルマンだったの。あの虎沢グループのね」

「スイーツを気に入ってパティシエになったんですよね?」

「それもあるけど、虎沢グループって超ブラックな業界で、体を壊しかけていた時に、見るに見かねたお母さんが転職を勧めたのが始まりってわけ。最初はすっごく悩んだし、就職レールを外れてからは収入が不安定な生活に怯える毎日で、あたしやお母さんに苦労かけたことに負い目があるの」

「だから最後まで反対したんですね」

「お父さんは優子を大学に行かせるために、無理してバイトの掛け持ちまでしてたから」

「お母さん、それは言わない約束でしょ」

「ごめんごめん。でも璃子ちゃんには言っておきたかったの」


 優香さんの笑顔の奥に複雑な表情が見える。


 パティシエの道を勧めたことを悔いてはいないように思う。


 そうでないなら、藤次郎さんと一緒に反対していたはず。


 主に優子さんが教えてくれることで合意してから帰宅すると、お兄ちゃんも修業費の支払いを快諾してくれた。自分が夢を叶えたというのに、妹の夢を踏み躙ることはできないとお兄ちゃんは言った。


 プライドもあるだろう。お兄ちゃんとて余裕があるわけではない。葉月珈琲に何かあっても、私だけは生き延びられるように配慮してくれたとも受け取れる。


 友恵さんが手掛けてくれたショコラティエの衣装を着用し、鏡越しに自分自身と目が合った。


 優子さん、ビックリするかな。でもお兄ちゃんをあっさり受け入れたくらいの器だし、大丈夫だとは思うけど、一度確認だけしておこうと思い、メールを送った。すぐに返信が来ると、ショコラティエの衣装で営業に参加してもいいと許可を貰った。どんな専門学校よりも学べることが多いはず。


 最終的には引きこもりを目指すわけだが、ショコラティエは接客業だ。


 私には葉月珈琲で培った接客スキルがある。英語の通訳もできるし、外国人観光客に慣れていた事情も多いに味方している。数多くの挫折はお兄ちゃんばかりか、私をも強くしていた。優子さんは初めて葉月珈琲を訪れた際、私の童貞を殺す服を大層気に入り、この服装でヤナセスイーツの前でビラ配りしてくれたらどんなに助かるかと言ったが、それじゃただのマスコットだ。


「お兄ちゃん」

「どうした?」

「来年が正念場だよ」

「分かってるって。生きるか死ぬかだ」

「もっと安全な道があったと思うけど、お兄ちゃんにとってはつまらないから避けたんだよね?」

「何だ、分かってるじゃん。璃子もようやく葉月梓検定を受ける資格を得たな」

「世界一受けたくない検定だね」


 皮肉を言いながらも私とお兄ちゃんは談笑する。


 これからもお兄ちゃんには散々振り回されるだろう。でもそのお陰で、岐阜の町は復興の兆しを掴むことができたし、観光資源を築き上げることが大きな鍵であると知った。


 ここをバリスタの激戦区にさえできれば、きっと栄えることだろう。


 無論、私はここをショコラティエの激戦区にもしていくつもりだけどね。

読んでいただきありがとうございます。

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