68粒目「謀攻非戦」
私は虎沢君から伝言を告げられたが、結局伝えることはなかった。
恐怖を煽るだけで意味がないばかりか、店の営業に支障をきたす可能性さえある。戦いを挑まれてしまった以上、相手側の土俵で戦ってはならない。
顔についた傷には同情するが、相手側から売った喧嘩だ。うちを潰す気なら手加減はしない。
虎沢グループからの……事実上の宣戦布告だった。
――はぁ~、独立さえできれば、平和に過ごせると思ったのにぃ~。
珍しく心の中で愚痴を呟いた。
7月を迎えると、思いもよらない出来事が起こる。
アトランタを始めとしたアメリカ人たちが葉月珈琲を訪れ、店はあっという間に超満員となり、普段は殺風景極まりない外にまで机と椅子を仮設した上で私まで駆り出され、営業時間ギリギリまで忙殺されるほどであった。静乃と浅尾君にも連絡し、ボランティアという名目で2人の手を借りた。
静乃もここまで繁盛した例は見たことがないと驚いていたが、同時にやり甲斐も感じているようで、忙しさには慣れているようだ。人通りが少ない分、親戚にバレるリスクは低いが、これだけ多く訪れるとなると、噂や行列を聞きつけてやってくるかもしれない危険性と隣り合わせだ。
しかもうちではテイクアウトが導入されていなかったのだが、この大軍勢を前に、導入せざるを得なくなった。紙コップには淹れたくないと言っていたお兄ちゃんだったが、テイクアウトにしなければお客さんを満足に捌けず、仕方なく導入してみれば、あっさりと店に馴染んだ。
文字通り、猫の手も借りたい状況である。
「やっと終わったぁ~」
静乃と浅尾君が帰った後、私はカウンター席に突っ伏した。
「お疲れさん。あの2人にも礼を言っておいてくれ」
コーヒーカップを片手に、余暇を過ごすお兄ちゃん。
「あれだけ働いたのに疲れないの?」
「疲れるわけないじゃん。世界中から僕と同じ趣味を持つ連中が大挙して押し寄せてきてんだ。璃子だってチョコ作りをしていても疲れねえだろ。それと一緒だ。こんな日は久しぶりだな。アトランタでの優勝が効いたみたいだけど、これで当分は持つ」
「優勝しただけなのに、あんなに来るとは思わなかった」
「アトランタはヴェネツィアよりも人口が多いし、国際空港の心臓部でもある。一度噂を始めればすぐ全米に広がる。向こうは日本よりもインターネットの普及も進んでる。しばらくはアメリカからの観光客が葉月珈琲目当てに押し寄せてくるかもな」
にっこりとドヤ顔を決めるお兄ちゃん。
観光客を確保できたはいいが、便乗するように向かい側も潤っている。
うちに入れなかった外国人観光客の一部がトラサワホテル@カフェに赴き、しかも1晩泊まっている始末である。もしうちがもっと広い店で、多くのスタッフを雇っている店であれば、1人も逃がすことなく迎え入れることができたかもしれない。真向かいに配置したのは、うちが売れた場合のお零れに与るためでもあったならば、敵側もかなりの切れ者だ。
数週間後、書き入れ時がようやく落ち着いてくる。
贅沢をしなければ、今年をやり過ごせるくらいには稼げた。
凪に呼ばれ、エンジェル・ウィングへと赴く。しばらくは多忙のために活動を休み、凪の口から降谷社長にうまく伝えてもらった。2階の大広間にある床下点検口から入ろうと考えたが、他の人がいて入れそうにないため、メールを送り、事務所の前に立ち尽くした。
すると、1階の裏口から凪がひょっこりと現れ、指を曲げて私を誘う。
周囲を見渡しながら裏口へと回り、扉へと入った。
「はいこれ。1階の鍵。これからはここから入って。人に見られないようにね」
「うん、ありがとう」
「しばらく来なかったけど、相当繁盛してるみたいね」
「凪には何でもお見通しか」
「当たり前でしょ。この前葉月商店街に行ったんだけど、外国人観光客が大勢いたの。去年の7月頃の現象とピッタリ重なるし、もしかしたらあず君効果が表れたのかなって」
「嬉しい誤算だけどね」
あず君効果、要するに大会優勝による経済効果のことである。
葉月珈琲は去年もお兄ちゃん自身の優勝によって救われた。
――お兄ちゃんにこれほどの力があるなんて、思ってもみなかった。
私たちは……世間は……お兄ちゃんのことを過小評価していたのかもしれない。
いや、それだけじゃない。多くの人が持つ可能性を、実績がないからと、前例がないからと、無名だからと、誰もが一方的に否定し、無意識の内に抑圧してきたのではなかろうか。
お兄ちゃんがコーヒーの道にアクティブに突き進むようになったのは不登校になってから。通学していた時とは異なり、良くも悪くもお兄ちゃんは放っておかれた。箍の外れたお兄ちゃんはコーヒーの研究に余念がなく、常にシグネチャードリンクなどの研究に没頭していた。故に覚醒したと考えれば説明がつく。あくまでも仮説だが、あれこれ手をかけて学習させるよりも、放っておかれた子供の方が伸びるのではなかろうかと私は考えた。もしこの仮説が立証できれば、世の中を変えられるかもしれない。
「まさか優勝という名の力業で観光客を呼んでくるとはねー」
「お兄ちゃんらしい……と言えばそれまでだけど、私、お兄ちゃんのこと信じてみる」
「今までは信じてなかったってこと?」
「そうじゃないけど、いつも行き当たりばったりで計画性がないというか、負ければ終わりの一発勝負ばっかりしているところがギャンブラーみたいで、見てられないの。優勝してなかったら、葉月珈琲はとっくの昔に潰れていたと思うし、迂闊にリスクを晒しすぎだっての」
「あたしがあず君ならこう言い返すかな。動かない方がずっとリスクだって」
「確かに言いそう」
クスッと笑ってしまった。凪にはお兄ちゃんの行動はお見通しだが、優勝までは見抜けなかった。
奇想天外な発想は、時に天才をも上回る努力を見せる。いや、努力の天才かもしれない。
凪が珍しく人に興味を持った。安心して好きなことに没頭できる環境こそが人を育てることを凪も学んだようで、サイバーモールもまた、学校と同じような社員教育を施し、社員の意欲を奪っていることに気づいた。凪がこんな活動をしているのは、一般庶民の生活を知るためかもしれない。
お兄ちゃんが持つ可能性を信じつつ、今後は見守ることに専念しようと決意する。
お兄ちゃんは月末、再び東京へと赴くことが決定した。バリスタの世界大会の中でもメジャー競技会と呼ばれる有名な大会が東京で行われ、美羽さんと一緒に見に行くらしい。穂岐山社長はお兄ちゃんを心底気に入っているようで、メジャー競技会への出場機会を与える代わりに引っこ抜こうとしている。
1つ大きな問題が発生した。
もしお兄ちゃんが穂岐山珈琲に転職すれば、必然的に私も一緒に上京を果たし、結果的に岐阜を離れることになる。そうなるとショコラブリーは解散となり、事務所も辞めることになるだろう。
しかし、これは本来の目的からかけ離れている。
葉月珈琲の目的は店の宣伝だけじゃなく、多くの外国人観光客を呼び込むことで、地元復興を図ることである。お兄ちゃんの大会優勝は、地域社会に良い影響を与えていた。外国人観光客が岐阜の魅力に気づいたのだ。白川郷くらいにしか来ないイメージがあったが、それは有力は宣伝広告塔がなかっただけの話であり、お兄ちゃんが日本発の世界初となるトップバリスタに君臨すれば、地元復興も夢ではないと私は考えた。葉月珈琲を大きくできれば、ショコラトリーの開業資金も確保できる。
ならば私自身の夢よりも、お兄ちゃんを支援する方が、結果的に私の夢が叶いやすくなる。
「じゃあ、もしあず君が東京に行くと言ったら、璃子も一緒に引っ越さないといけないってこと?」
「うん。葉月珈琲が潰れた場合も、穂岐山珈琲に入社することになってる。お父さんとお母さんから独立の条件を突きつけられて、2008年が終わるまでに店が潰れたら、穂岐山珈琲に就職する。逆に生き延びた場合は独立を認めるっていう約束をしたの」
「だとすると、あず君自身は乗り気じゃないとか?」
「よく分かるね」
「最初っからその気なら、潰れた場合に入社する約束なんてする必要がない。でも日本人恐怖症を克服しないまま日本人ばかりの職場に入ったら、過剰適応を起こして、最悪燃え尽き症候群になるかも」
「……私も同じことを考えてた」
「虎沢グループは葉月珈琲を潰したい。璃子の両親はあず君を穂岐山珈琲に就職させたい。なるほど、そういうことだったんだ」
「何が言いたいの?」
頭に刺さるように嫌な予感がした。仮にもお兄ちゃんを不登校に追いやった相手だ。
しかしながら、子供の安定のためなら同窓会にだって出るくらいだし、可能性がゼロとは言い切れないのが残念なところだ。妙に図星を突くところが凪らしい。
少しばかりムスッとしながらも、手に力が入ってしまった。
「あず君が不登校になった後、両親が学校に行ったりしなかった?」
「確か不登校になった週明けにお父さんが学校に抗議しに行ったけど――!」
「その時虎沢君に会って、家庭を壊されたくなかったらいう通りにしろと言われていたとしたら?」
「こっちの情報が全部漏洩していても、不思議じゃないかもね」
「両親とはどれくらいの頻度で会うの?」
「基本的に週1回だけど、起こったことを話すくらい――!」
凪がニヤリと唇を細めた。さっきまでの質問は、全て私自身に気づかせるため。
一度確かめる必要がある。もし本当なら、どこかにサインを出している可能性がある。
身内だからと安心しきっていたが、ある意味では最大の盲点であることに気づかされた。これからは両親であろうと注意深く見張るようにしよう。
私が帰宅しようと、裏口の扉に手をかけた時だった。
「璃子、誕生日おめでとう」
「……凪も誕生日おめでとう」
音を立てないよう、自然に扉を開け、人気がないことを確認しながら足を踏み出した。
無難な1年になってほしい。
もっとも、それを願っても無理なのは分かっているが、祈らざるを得ないくらいの立場だ。
私は15歳の誕生日を迎え、葉月商店街の人たちが大いに祝ってくれた。
メールで優子さんに誘われ、スフレチーズケーキを作ってもらい、カラフルな蝋燭を立ててもらい、誕生日の歌が終わったところで、唾を飛ばさないように気をつけながら息を吹きかけ、蝋燭の日を全て綺麗に消し、居合わせたお客さんからも耳に響くくらいの拍手を貰った。
祝ってもらえる内が花である。凪も誘えばよかったと思ったが、忙しそうで声をかけられなかった。
彼女はもう大人だ。祝ってもらわなくても平気なのが証拠である。
莉央さんは私のことを聞いてショコラティエに興味を持ったようで、私がショコラティエとしてキャリアを積む手助けをしたいと言ってくれた。これが1番個人的に嬉しかったかな。
数週間後――。
8月を迎え、お兄ちゃんが東京から帰宅する。
美羽さんとの間にいざこざを起こしたようで、すぐに美羽さんが折れて仲直りしたようだが、先行きが心配だ。トラブルメーカーとしてのお兄ちゃんは、一見嫌われ者のようにも見えるが、自分の中にある強い拘りを譲れないだけで、それ以外の物には一切興味がないのだ。
多くの人はお兄ちゃんの拘りを捻じ曲げようとするか取り上げようとする。
故に反発を買い、たとえ大きく損をしようとも、お兄ちゃんはプライドを優先する。
私はというと、お兄ちゃんに追いつく形で食品衛生責任者の資格を取り、お兄ちゃんがいない時でも店番ができるようになった。お兄ちゃんほどコーヒーをうまく淹れられないが、何とかなるはず。
イマセベーカリーで『チョコレートコルネ』を作っていた。
コロネは日本で開発された菓子パンの一種である。パン生地を円錐形のコルネ型の巻き貝状に巻きつけて焼き上げ、内部にクリームを詰めたもの。焼き上がったパンにチョコレートクリームを入れると、チョコレートコロネとなる。フランス語で角を意味するコルネ、もしくは英語コルネットという金管楽器にちなんでつけられたと考えられている。明治時代からあったと言われているが、考案者は明らかになっていない。パンの中に空洞を作り、具を詰めるのは日本的な調理法だ。
出来上がったチョコレートコルネを口に頬張った。
優しく噛んだだけで、中からチョコレートが押し出されるように飛び出してくる。
私が考案したものはチョコレートクリームが満遍なく詰まっているため、パンを使ったシュークリームのようにも思える。味は申し分ないが、食べ方が汚れ具合に直結する菓子パンでもあり、育ちの良し悪しが諸に反映される。もちろん思慮の浅い人は反対側からこぼしてしまう。
あくまでも1つの目安だが、先を想像できる人を見分けられるのではなかろうか。
葉月商店街に私が駆り出されている噂を聞き、時給を出すという条件で、度々イマセベーカリーへと赴いていたのだが、最初こそ余った食材を貰う条件で葉月商店街店舗のお手伝いをしていたが、イマセベーカリーが参戦したことで、葉月商店街の店舗も時給を出す条件下で働かせてくれたのだ。
法律違反ギリギリではあるが、当時は手渡しで現金を渡すのが当たり前で、長らく電子マネーが普及した後も現金が罷り通っていたのは、偉い人たちが裏金を受け取るためであることに気づくのは、小1の算数よりも遥かに簡単であった。生活のためとはいえ、私とて人のことは言えない。
夏の暑さはお兄ちゃんの体に悲鳴を上げさせ、学生時代であれば熱を出して寝込んでいたが、この時のお兄ちゃんは違った。アメリカからの観光客が徐々に減っていく中で売り上げを出し、実家からピアノを披露して人気を集めていた。私もバイオリンの演奏を勧められ、時々人前で弾いていた。
顔を赤らめながらではあったが、特に失敗することもなく弾けた。
アイドル活動の経験がHSPの弱点である過度な羞恥心を和らげてくれていたようだ。
しかし、人前での活動が著しく体力を奪うことに変わりはなく、次第にアイドル活動を控えるようになってしまったのだ。ユニフェスはタレントップ内の多くのタレントたちから指示されたが、私は辞退すると、凪もあっさり辞退する。ショコラブリーとしての活動は続けているが、時々シングル曲を発売するのがやっとで、テレビ出演がなくなってからはライブハウスでのイベントが主な活動となった。
「璃子、最近家にいることが多いけどさ、アイドル活動はいいのか?」
テーブルの上を丁寧に拭きながらお兄ちゃんが私に尋ねた。
「いいの。お兄ちゃんが東京に移住したら、私も一緒に移住するんだし」
あえてきっぱりと全てを諦めたかように言ってみせた。
「璃子1人で葉月珈琲の経営をしてもいいんだぜ」
「お兄ちゃんだから経営が成り立ってるの。それに今は向かい側のカフェをどうにかしないと」
「観光客が段々あの店に吸われてるな」
「相手は大手グループ企業だよ。長期間競争し続けたら、体力的にこっちが先に潰れることくらい目に見えてると思うけど。それとも戦うつもり?」
「あったりめえだろ。葉月珈琲が大きくなったら、色んな企業と競争することになるんだ。こんなところでビビってる奴が、状況を打開できると思うな」
百戦錬磨の窮地を乗り越えてきた武将のような威厳を放ちながら言った。
私としては正面からまともに戦わず、持久戦に持ち込んで相手が弱るのを待つ方法を考えていた。
あえて名前をつけるなら謀攻非戦、私が最も得意とする戦略だ。
お兄ちゃんの言うことも分からなくはないが、戦ってばかりでは資源を消耗し、やがてジリ貧となることが目に見えている。相手が大手グループ企業ならば量産した上で値下げを行い、客足を擦ってくるのが定石だ。経済的には停滞期の日本を生き延びるのはやはり大手だろう。
巨悪とも呼べる相手に、1人の個人事業主にすぎないお兄ちゃんが挑むのは無謀である。
私は岐阜に残りたい。今や葉月珈琲はお兄ちゃん1人の店じゃない。
しくじり都市を復興するのに欠かせない最後の砦だ。
「お兄ちゃん、言いたいことは分かるけど、葉月珈琲が潰れたら元も子もないんだよ。穂岐山珈琲に就職したいと思ってるなら話は別だけど」
「正直迷ってる。店が潰れたら穂岐山珈琲に就職するって約束になってるけどさ、それも悪くないと思ってる。金華珈琲で修業したいと思ってたけど、最後に行った時、コーヒーが以前のものより質が下がった上に安くなってた。経費削減を断行した証拠だ。常連はともかく、始めて来る客がリピーターになってくれる機会をみすみす逃しているようじゃ、先が知れてるってもんだ」
いつものお兄ちゃんらしくもない弱気な言葉に、私は苛立ちを隠せなかった。
無難に走ってくれるお兄ちゃんを思い描いていたが、いざそんな言葉を聞くと腹が立つ。
戦って勝てないなら、戦わずに勝てばいいのだ。お兄ちゃんが諦めるなんて信じられない。牙を抜かれた哀れな狼のようなお兄ちゃんなんて……見たくないっ!
「……意気地なし」
「何だよいきなり」
「さっきの言葉、そのまま返すよ。こんなところでビビってるのはお兄ちゃんの方だよ。私が知ってるお兄ちゃんは、融通が利かなくて、どこまでも行き当たりばったり、対人関係は壊滅的で、馬鹿の1つ覚えみたいにコーヒーのことしか考えてない」
「随分な言われようだな」
声は冷静だが、表情は不機嫌だ。
自分を隠せないのは正直さの裏返し、それでこそお兄ちゃんだ。
何でこんな社会不適合者を心底気に入ってしまったんだろうか。大会にさえ出れば結果を出せるのは立派な武器だ。またしても優勝を決めた知らせを聞いた時、もう少しだけお兄ちゃんの行く末を見てみたくなった。お兄ちゃんがそうであるように、きっと私も試されている。自分の信念を。
「――でも……どんな相手でも分け隔てなく接するし、諦めることを知らなくて、誰にも思いつかない奇想天外な打開策を思いつけるし、何より夢中になったことを究めさせたら、お兄ちゃんの右に出る人は誰もいないんだよ。もっと自信持っていいと思うけど」
「何が言いたいんだ?」
「お兄ちゃんはバリスタ競技会に専念して。経営戦略は私に任せてほしいの」
「璃子……」
巨悪に勝てる方法があるとすれば、奇跡が起こるくらいしかない。
だが私には、放っておくだけで奇跡を連発してくれるお兄ちゃんがいる。
計算ではない。どちらかと言えば直感だが、いかにお兄ちゃんをコーヒーに夢中にさせるか、それが今後の行く末に大きく影響する気がした。店は潰させない。生きてさえいれば希望がある。
お兄ちゃんが正面から戦って勝つのが流儀なら、私は徹底して戦わずに勝つ。
「――分かった。どうすればいい?」
「お兄ちゃんはコーヒーの研究を続けて。売り上げで足りないなら私が稼ぐから」
「どうやって?」
「体を売って稼ぐ」
「はぁ!?」
大きく口を開けるお兄ちゃん。だが他に方法はないのだ。
虎沢グループはうちの売り上げを下げる方法で潰そうとしている。なら売り上げとは別の方法で稼げばいいのだ。竿竹屋は文字通りの仕事とは別に、メインの仕事で稼いでいることを凪から聞いた。
ならば葉月珈琲の方をサブにし、他の稼ぎ方をメインにすればいい。
売り上げを下げられても、最終的に店が残れば勝ちだ。
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