58粒目「交際を懸けた対局」
降谷社長が口を開けたまま私を見上げている。
隠している重大な秘密がある。だが私はそれが何なのかが分かる。
敵か味方かまでは分からないが、ここでハッキリさせておきたい。
私がタレントップに居座るかどうかが決まる。凪が感づいているかどうかは知らないが、どちらにしても追及しておく必要があると訴えかけてくる。嫌われたっていい。私の人生だ。
「降谷社長は凪のことを天羽社長に随時報告してますよね?」
「……いつから疑ってたんや?」
「天羽社長が私の元に訪問した後、気前良く天羽社長にアポを取った時からです。この前天羽社長と会って話した時、私を移籍させようとしたのは、私が凪とユニットを組むことを阻止するため。事前に知っているとしたら、関係者の誰かが教えたからです。天羽社長の連絡先と、私と凪がユニットを組むことを知っていたのは、私の知る限り、降谷社長だけです」
「なんもゆうてへんのに、ここまで俺のことを見抜かれたんは久しぶりや。確かに俺は凪ちゃんのことを天羽社長に随時報告してるけど、俺は凪ちゃんにユニットを組んでほしかったからこそ、璃子ちゃんを選んだんや。凪ちゃんが例の女子を探してることは、天羽社長にもバレてるわ」
そっぽを向きながらも、降谷社長はあっさり認め、回転椅子からのっそりと立ち上がる。
反応を見る限り、私と凪の味方であることはハッキリした。聞けるところまで聞こう。凪のためだけじゃない。私自身の悩みを解消するためでもある。これ以上深入りするなと言われたら諦めよう。
本来であれば、私は微塵も関係ない。だが凪と関わってしまった以上、他人事とも思えない。
「どうしてそこまでして、例の女子の件を揉み消したいんですか?」
「むしろ逆や。ここだけの話やけどな、俺は天羽社長から例の女子を探すよう頼まれてんねん」
「! ……頼まれたって、凪からは拒否されたと聞きました」
「まあ驚くのも無理ないわな。例の女子は凪の身代わりになったんや」
「身代わり?」
本来は凪が被害者になる予定だった。間違われる原因があるとすれば、犯人側の認識不足だ。
見つかってないということは、どこかに閉じ込められているか、県外に出て細々と暮らしているか、既に死亡しているかだ。凪としては生きて再会したいことだろう。
彼女にとっては恋人だ。自分を犠牲にしてでも助けたかった。なのに私は内心ホッとしている。凪が誘拐されなくて良かったと。でも私にしてやれることなどあるだろうか。
「ああ。元々誘拐犯は凪ちゃんを攫うつもりで、天羽社長の元に脅迫状も送られてる。最初は天羽社長も悪戯やと思ってたみたいやけど、ある日の下校時刻、例の女子が何者かに攫われてもうてな、恐らく犯人は例の女子を凪ちゃんと間違えて誘拐してもうたみたいで、凪ちゃんも責任感じとったわ」
「例の女子は売れっ子です。凪より目立っていたが故に間違われたかと」
「凪ちゃんも同じことをゆうとったな。サイバーモール社長令嬢の身代わりに、売れっ子アイドルが誘拐されたなんてことが世間に知れたら経営に支障が出る。天羽社長としては、このことを秘密裏に解決したいんや。もう聞いてるとは思うけど、この件はエンジェル・ウィングの最優先依頼でもあるんや」
「天羽社長に協力しているのは、凪の監視役として間接的に連絡を取る代わりに、タレントップの活動をサポートしてもらってますよね。調べたところ、タレントップはヘルスケアスリーツと丁度4年前から業務提携しています。ヘルスケアスリーツはサイバーモール傘下企業ですから」
「そこまでお見通しとはな。流石は凪ちゃんが見込んだ子や」
降谷社長がにっこりと歯を見せると、机の上に置かれているチョコレートを1つ口に頬張った。
ブリリアントカットが施された輝くチョコレートが置かれている。いくつか残っているが、形が整っていて、光沢まで発しているあたり、凄腕のショコラティエが作ったことが見て取れる。私にとっては理想的なフォルムだ。こんな時でも気づいてしまう自分が憎らしい。
続いて隣に置かれているチョコクッキーを口に含む。簡単に噛めるほど柔らかいが、音が聞こえないのは崩れやすいからだ。冷えているわけでもなく、温かいわけでもない。
「何や、食べたいんか?」
「いえ、自分の分があるので」
「マジで? 参考までに、1個だけくれへんか?」
「構いませんけど」
バッグの中からチョコレートを1つ取り出す。
今朝私が作ったのはチョコレートクランチである。
溶かしたチョコレートに、アーモンドスライス、コーンフレークを砕いたものを混ぜ、丸いスプーンでドーム状の形を作ってから冷蔵庫で冷やせば完成だ。カラーチョコレートを使うことで、様々な色のチョコレートクランチを作ることができる。見た目も粒々で、冷やし固めていれば、お菓子の中でも群を抜いた味わいになる。一口サイズで食べやすいのも高評価だ。
降谷社長は1つ手に取ると、鼻に近づけて香りを楽しんでから口に頬張った。
「――これ……めっちゃ美味いわ!」
「ありがとうございます。誰でも簡単に作れますよ」
「実は前にもな、璃子ちゃんのチョコを食べたことがあんねん」
「いつ頃ですか?」
「璃子ちゃんがライブハウスデビューした時や。緊張してたかどうか知らんけど、あの時帰りにチョコレートを置き忘れてたんやで」
面白おかしくからかうように降谷社長が言った。
チョコレートを忘れていたあの日を思い出す――。
ライブハウスデビューが決まり、ライブが終わってから、他の人が歌っている最中に食べるつもりだったが、私を最後にライブが終わってしまった。テーブルの上にチョコレートを置きっぱなしにしていた時、凪に夕食に誘われ、違和感を持ちながらも凪と交流するが、後で思い出して戻ってみれば、チョコレートがなくなってしまっていた。てっきり廃棄されたものとばかり思っていた。
降谷社長が拾って届けてくれていたとは思わなかった。
「忘れ物やと思って家まで届けようとしたんやけど、行ってみたら璃子ちゃんの親が出てきて、あの子ならたくさん作ってるはずだからあげるゆうて、俺にくれたんや。試しに食ってみたら、俺が思っとった以上に美味かった。あのボンボンショコラが決め手になって、料理番組への出演が決まったんやで」
「それは知らなかったです」
思わず赤面してしまった。怪我の功名とはまさにこのことだろうか。
いつの間にか、チョコレートは私の運命を大きく変えてしまっていた。
ふと、降谷社長が葡萄畑の絵を眺めた。一度は行った場所だろう。ワインの産地で、社長室にもいくつかボトルが冷凍保存されているくらいにハマっている趣味である。飲み過ぎない程度に嗜み、ワインに関しては造詣が深い。時々成人しているタレントに振る舞うこともある。
「偶然かもしれへんけど、璃子ちゃんのチョコレートはな、俺がパリにおった頃、土産物を買おうと思って立ち寄った店の味によう似てんねん。そこにおるショコラティエは世界大会でも結果を残してる。もしかしたら、璃子ちゃんも立派なショコラティエになれるかもしれへんな」
ニコッと口角を上げながら降谷社長が言った。
私もチョコレートクランチを一口頬張った。
サクサクとしたコーンフレークにパリパリのアーモンドスライスが織り成す絶妙なハーモニー。チョコレートの甘さとしっかりとした歯応えが襲ってくる。惚れないわけがない。
毎日多種多様なチョコレートに囲まれ、ゆったりとした生活さえできればそれでいい。稼いでいるかどうかは問題じゃない。幸せを感じられるかどうかが問題だ。ダークチョコレートを平気で食べられることをよく驚かれるが、私にとってはダークチョコレートよりも、世の中の方がずっと苦すぎるのだ。
凪と降谷社長の関係はよく分かったが、まだ全てが分かったわけではない。
帰宅すると、いつものようにアリバイ作りをしようと葉月商店街を通った。
実家に帰ってないとすぐ噂になるのだ。お兄ちゃんは引きこもりということで通っているが、私は商店街全体を手伝うことで、売れ残った食材を貰っているため、実家に帰らなければならないが、お兄ちゃんの近況報告も兼ねている。売り上げには触れないが、外国人観光客が多く来てくれた時は言わなくてもすぐに分かる。葉月珈琲を訪れる前後に葉月商店街にまで訪れるようになるのだ。
お兄ちゃんの影響なのか、6月からしばらくの間は通訳不足に困ってしまうほどで、ヤナセスイーツにいた私が通訳として駆り出されたくらいだ。親戚から習っていたこともあり、日常会話くらいなら問題なくこなせるし、ネイティブ発音になれていたのも大きい。他の店舗からはお金を出すからと引っ張り出されたこともあり、お兄ちゃんの世界大会優勝による影響は思った以上に大きかったことを痛感させられた。英語で国内に隠れ家カフェの存在を宣伝しないよう看板に書いていなければ、とっくにバレているところだ。しかし、この頃から再び売り上げが下がり始めた。
資金繰りに困っているところに、更なる追い打ちが私を襲う。
11月を迎えると、浅尾君を通して天野さんから呼び出しを受けた。
休日に将棋教室へと赴き、将棋盤を挟んで天野さんと対峙するように腰を下ろす。
やや閉じようとしている細目を私に見せ、和子さんが私の右側に、浅尾君が私の左側に、これまた将棋盤を挟むように腰かけ、国際会議のような緊張が走る。
「璃子ちゃん、単刀直入に聞くけど、女流棋士を目指す気はないの?」
「……はい。色々ありましたけど、私はショコラティエになると決めました」
「君が特別講師として来ないようになってから、天野将棋教室に不穏な噂が立つようになってね。蓮君とつき合っているのは本当か?」
「厳密に言えば仮交際です。正式な交際ではありません」
本当は他の男子に言い寄られるのが嫌で交際していることにしておきたかったけど、噂が立っているならば仕方がない。やはり無茶な策だった。こんなことで凌げるほど世間は甘くない。
――ここは元の友達関係に――あれっ、胸がズキンと痛む。
簡単に関係を切るなと心が訴えかけてくる。どうしてこんな……。
「葉月さん、人生の先輩として1つ忠告しておくが、どっちつかずなら早期に決着をつけた方がいい。自分の時間を無駄にするだけじゃなく、周囲の人にも迷惑をかけることになる」
「言いたいことがおありでしたら、ハッキリ言っていただいた方がありがたいのですが……」
「ではハッキリ言おう。女流棋士になる気がないなら、特別講師を辞めてもらおう」
「おじさん! 何もそこまでしなくても――」
「噂が立っているせいで、うちを辞めて他の将棋教室に移籍する生徒が後を絶たない。それに蓮との関係が曖昧なままなのも好かん。つき合うのかつき合わないのかをハッキリさせなさい。一応調べさせてもらったが、君がいる芸能事務所は恋愛禁止のはずだ」
和子さんが口を開けて反論しようとするが、私が手を上げて制止する。
ここまで問題を放置したせいか、膿が大きくなってしまっている。周囲を見渡してみれば、以前よりも生徒が減っている。荒井君の一件に加え、虎沢君の一件も大きく影響している。
私と一緒にいるだけで問題に巻き込まれると、多くの生徒が私を敬遠するかのように移籍した。これでは商売上がったりだ。しかも浅尾君との交際が祖父である天野さんに紹介されたからという憶測まで呼んでいたのだ。噂は真実を凌駕する。
「いいんです。全て私の責任ですから。1つ提案があります。私と天野さんが対局して、勝った方の言うことを聞くというのはどうでしょうか?」
「では私が勝った場合、君にはここを辞めてもらった上で、蓮君との仮交際も解消してもらう。女流棋士にならないというなら、これ以上居座らせる理由がない。君が勝ったらどうするんだね?」
「私が勝った時は……浅尾君との交際を認めてください」
「「「!」」」
浅尾君たちが目を大きく見開き、私は脊髄反射で口を覆い隠した。
しまった! 私ってば何てことを……どうしよう……もう取り消せない!
仮交際と言うつもりだったのに――極限の緊張状態が……私に失言、いや、ワードミスをさせた。
思わぬ弱点が発覚してしまった。私は緊張する場面に弱い。ライブハウスデビューを飾った時も私は緊張のあまり、チョコレートを置き忘れてしまった。あの時は怪我の功名で済んだが、今回ばかりはそうはいかない。交際と仮交際は天と地ほど意味が違う。似て非なる言葉だ。
浅尾君をチラ見すると、顔を赤らめながらキョロキョロと首を振り、反応に困っている。
「蓮君は葉月さんとつき合いたいのか?」
――お願いっ! つき合いたくないと言って! お願いだからっ!
藁にも縋る思いで祈ったが、これは本物ではない。同時に振られる恐怖に駆られた。
「まあ、俺は別に構わねえけど」
「「「!」」」
またしても戦慄が走る。断りの返事がなかったことに戸惑いと嬉しさが同時に襲ってくる。
なっ、ななっ、何考えてんの……もし私が勝ったら交際なのに、浅尾君は嫌じゃないのかな。
「あの……女流棋士にならないなら辞めろと仰るなら、勝っても特別講師は辞めます」
「いいだろう。では始めようか。テレビ将棋トーナメントと同じルールでどうかな」
「構いません」
振り駒の結果、私が先手、天野さんが後手となった。
和子さんが記録係を務め、浅尾君にも観戦してもらうことに。
テレビ将棋トーナメントと同じルールだが、これは某日本の放送協会が開催している将棋大会において採用されている早指し将棋のルールであり、持ち時間10分、使い切ると1手30秒未満。 秒読みに入ってから1分単位で合計10回の考慮時間が認められている。
天野将棋教室で行われている大会でも採用されており、最初こそ私も参加していたが、5連覇したところで事実上の殿堂入り扱いとなり、エキシビションマッチ扱いで優勝者と対戦していたが、それでも勝ってしまうため、遂に大会出禁となってしまった。
あの日以降、天野さんとは対局していないが、今でもタイトル戦に出場する腕前だ。
決して油断はできないと覚悟を決めると、和子さんがストップウォッチのスイッチを押し、浅尾君との交際を懸けた対局が始まった。私が七六歩を打った後、天野さんは八二歩を打つ。以降、お互いの動向を窺うように膠着状態が続く。天野さん優勢となり、玉を追いかけられ、押され始めた。周囲の駒を犠牲にしながら玉を逃がし続け、隙を突いて天野さんの角を貰うが、これは仕掛けられた罠だった。
またしても玉を間駒で守り続け、防戦一方となった。
しかし、中盤を過ぎたところで、天野さんの持ち時間が切れた。以降は和子さんが20秒毎にカウントダウンを始め、天野さんが渋々と駒を動かす。致命的なミスこそなかったが、遂に天野さんが痺れを切らすと、溜め込んだ持ち駒で私の玉を追い詰めようと画策する。
私はここぞとばかりに起死回生の手に打って出た。飛車角を差し出しながらも、玉を相手の陣から引き摺り出し、入玉させたのだ。虎視眈々と仕掛けていた罠に見事嵌ってくれたのだ。上下から取った桂馬で取り囲み、逃げ道を封鎖すると、持ち駒として置いていた金を奪い取り、銀を桂馬の正面に置いて桂馬を取る。金打ちで玉を移動させて追い詰める。
夕刻、ここまで2時間にわたって続いていた決戦の終わりが近づく。
私も持ち時間を使い切り、和子さんの秒読みが忙しくなる。だが和子さんも浅尾君も至って冷静だ。途中からここに来た春香も秋葉も帰ろうとはせず、私の事情を知ると、一言も喋ることなく静かに見守ってくれている。将棋盤以外は全く見えない。好きではあるが、究める気はないのだ。
斜めに桂馬を2つ置いたところで睨みを利かせ、扇子で口を隠すことさえ忘れ、苦虫を噛み潰したように歯軋りを始めた。言い方は悪いが、追い詰められた罪人のような顔だ。
結局、上にも下にも桂馬が利いていることを確認すると、天野さんが持ち駒の上に手を置いた。
「負けました」
天野さんが頭を下げると、直後に私も頭を下げた。
礼に始まり、礼に終わる。だからこそ、私は日本の国技が好きなのだ。
ムスッとしていた顔も、今は晴れやかな表情だ。負けて悔いなしとまではいかずとも、天野さんは天井に向かって大きく息を吐き、迷走をするかの如く、落ち着いた様子で目を閉じた。
結果は129手で天野さんの投了となったが、私の玉も間一髪のところであり、戦場であれば満身創痍になっているところだ。辛勝ではあったが、心残りはない。最初こそ私を尋問するような攻めを見せていたが、途中からはどっちつかずな私の背中を押すように持ち駒を消費してきた。
対局中、私はお兄ちゃんの言葉を思い出していた――。
『璃子、1つ忠告しておく……躊躇うな。いざって時には、迷わず行動しろ』
お兄ちゃんの忠告がなければ、私はきっと負けていた。
人を用いて活用することにおいては私が勝る。だが決断においてはお兄ちゃんが勝る。
やはり私は参謀向きなのかもしれない。表立って活躍するのは今だけでいい。
浅尾君の顔を見ると、対局前の状況を思い出す。急に顔が真っ赤になり、私は再び冷静ではいられなくなった。心臓の鼓動がいつもより早い。ここから逃げてしまいたいくらいだ。
私は特例として免許皆伝扱いの卒業となった。
特別講師の仕事は、私に僅かばかりの潤いと進歩をもたらしてくれた記念の思い出だ。
「君は前代未聞の女流棋士になれたと思ったが、やはり別の道に行くんだな」
「はい。私は人の運命さえ変えてしまうチョコレートに心底惚れているので、今後はアイドルの仕事をこなしながらショコラティエを目指す予定です。天野さん、和子さん、今日までお世話になりました」
深々とお辞儀をすると、天野さんと和子さんも一緒に頭を下げた。
外に出ると、浅尾君が追ってくる。後ろに春香と秋葉が続く。もうここにはいられないし、彼女たちに教えることもなくなったが、今後も中津川珈琲で交流を重ねていく。状況が変わり続けてもなお変わらないもの、人はそれを絆と呼ぶ。私たちが気づかないだけで、日常は少しずつ変化している。
「璃子、時々はあたしたちで一緒にショッピングしようよ。イマセベーカリーにも来てよね」
「私もショコラティエを目指すことになったんだから、たまには教えてね」
「もちろん」
「浅尾君、璃子のこと大事にするんだよ」
「お、おう」
遠慮気味に返事をする浅尾君。
話すので精一杯のようだが、確認はした方がいい。
その場の思いつきで返事してしまった感が否めないが、天野さんも和子さんも私たちの交際を事実上認める格好となった。力で勝ち取った勝利と交際だが、果たしてどうなることやら。
人の口に戸は立てられない。交際が決定的になったが、表情を見る限り、浅尾君にとっては仮交際と同じノリのままだ。温度差を埋められないままでは綻びが生じる。
自分のためと言うよりは、浅尾君のために本気を出した。
収入源の1つを失ったが、今の私には関係ない。
11月半ばに天野将棋教室を正式に卒業すると、噂が嘘のように消え去った。
浅尾君とは話し合いの末、仮交際継続となった。邪魔者がいない状況で仮交際を続ける理由を探すのは難しいが、天野さんと和子さんにとっては交際という形で認識されることとなった。私自身がほとんど無名人ということもあってか、気にする人はほとんどいなかった。
最初はボディーガードのつもりだったのに、胸を突く想いは膨らむ一方だ。
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