50粒目「見えた道」
今回で璃子が世の中を知るきっかけとなったローカルアイドル編が終了となります。
次章からは地元復興編が始まりますのでお楽しみに。
国道沿いの道を踏みしめながら、私は凪の言葉に注目する。
隠れ家としてカモフラージュしているとはいえ、人が気づかないところに気づいてしまうくらいに聡明な凪であれば、葉月珈琲の存在に気づいても不思議ではない。
葉月珈琲がバレてはいけない相手は親戚だけじゃない。私かお兄ちゃんの知り合い以上の相手も基本的には全てNGだし、バレたら口止めをしないといけないし、良心的な人であっても、お喋りな人が話してしまうことはある。人の口に戸は立てられない。
ここは何があっても知らないふりをするしかない。
「璃子ってさー、葉月商店街に住んでるんだよね?」
「うん。葉月商店街の名前の由来は、初代会長であるうちのおじいちゃんが設立したからなの。貧しい暮らしをしている人たちが集まって、商店街の中に住む身内だけでお金を回して、何度も不景気を乗り越えてきた。だからうちの周辺はみんな面割れてる」
「璃子のお兄ちゃんはずっと家に引きこもってるんだよね?」
「そうだけど、それがどうかした?」
「一度会ってみたいと思って」
「……駄目。お兄ちゃんは対人恐怖症だから、今はそっとしておいてほしいの」
「ふーん、分かった。じゃあ中津川珈琲まで行こっか」
まるで刑事の取り調べのように聞かれていたが、凪はこれ以上深入りはしてこなかった。
中津川珈琲は葉月珈琲から少し離れた場所にある。そう遠くないため、後をつけられてないかを確認しながら帰宅しているが、今のところは問題ない。葉月珈琲から徐々に離れていき、中津川珈琲の看板が見える。オープンと英語で書かれた木造の看板が扉の前に引っ掛けられている。
うちもあんなオシャレな看板を掲げてみたいものだが、今はそんな目立つ行為はできない。
葉月珈琲は外国人観光客限定と日本語で書かれており、日本人を遠ざけるが如く、英語の説明文ばかり書かれているため、この場所を通ることはあれど、誰も入ろうとまでは思わないし、普段はカーテンで店内を隠しているため、ほとんど認識されることがない。
だが皮肉なことに、迷彩戦略によって、葉月珈琲は外国人観光客以外の人には実質見えない存在となっている。店の売り上げが芳しくない1番の要因でもあるが、お兄ちゃんはいつになったら日本人恐怖症を克服してくれるのだろうかと心配になる。
お兄ちゃんがヴェネツィアに行ってから3日経つが、未だに連絡はなし。
呑気に観光しているんじゃないかと勘繰ってしまう。
扉を開けると、カランコロンとドアベルが店内に鳴り響く。
静乃が真っ先に気づき、私たちの方を見る。
「いらっしゃいませー。あっ、璃子じゃん。あれっ、もしかして天羽凪さんですか?」
「ええ、そうですけど。璃子の行きつけのお店に行きたかったので」
「最初にカラオケ大会で会った時は、緊張して話せませんでしたけど、凪さんのファンなんです。凪さんの曲に何度も元気を貰いました。璃子凄いじゃん、凪さんと同じ事務所なんでしょ?」
「まあね。今日もライブハウスで一緒だったの」
「ふーん、同い年なんだ」
凪がメニューをチラッと見ながら言った。
ちょっとした会話だけで……やはり只者じゃない。
彼女は人を見ただけで過去が分かる。私もよく観察すればできるようにはなるだろうが、彼女の早さには到底追いつく気がしない。私が目指すべき1つのロールモデルかもしれない。
「はい。中津川静乃です。璃子とは同じ学校なんです。もっとも、今は私も璃子も不登校ですけど」
「あたしも同い年みたいだし、タメ口でいいよ」
「えっ、でもそんな……」
「あたしだってオフの時はただの一般人だし、遠慮はいらないよ。あたしって年上の人からもよく敬語で話されるから、妙に距離置かれてる感じがするっていうか。まあ、無理にとは言わないけど」
「――分かった。じゃあ静乃でいいよ。璃子はいつものでいいよね。凪は注文どうする?」
「じゃあこのジェズヴェコーヒーをお願い」
「はーい、ちょっと待っててねー」
燥ぐようにしながらジェズヴェを器用に使い、独自のフレーバーを持つトルココーヒーを淹れた。
凪の目の前に置くと、私の鼻にまで香しいアロマが漂ってくる。以前と変わらない味わいだ。
「お待たせー。当店の名物、ジェズヴェコーヒーだよ」
「ふーん、アロマも凄いし、味も美味しい」
「砂糖と牛乳なしで飲めるんだねー。なんか璃子みたい」
「璃子が不本意に思ったら申し訳ないけど、あたしたちって、結構似てる気がするの。普通の人とは違う感覚を持っていたりとか、世の中が単純に見えたりとか、引きこもりのお兄ちゃんがいたりとかね」
「!」
――引きこもりって、じゃあ凪にも兄がいるということかな?
無論、うちのお兄ちゃんに関して言えば、引きこもりというのは半分嘘だが。
「へぇ~、凪ってお兄ちゃんいるんだー」
「ええ……今はどうしようもない引きこもりだけど」
「家で仕事とかしてないの?」
「それがさー、何に対しても無気力で、生きる気力さえ失いかけてる」
「無理には聞かないけど、何かあったの?」
禁断の質問と知りながら、迂闊にも尋ねてしまった。
しかし、凪は人と違う人生を送っている。つまり普通の人という視点においては立派なタブーかもしれないが、自分から話しているならば、むしろ聞いてほしいと言っているように感じた。
妹とは称号であり、ある種の業でもある。
「あたしには6つ上のお兄ちゃんがいるの。でも中学の時、いじめで不登校になって、うちはお父さんもお母さんも教育熱心だから、ずっと板挟みの状態が続いて、遂に高校にも進学せず、引きこもりになっちゃったの。お兄ちゃんも重圧だったと思うし、気持ちは分かるけど、あたしとしては、社会復帰してほしいと思ってる。璃子もお兄ちゃんが引きこもりだから、分かるかなと思って」
「凪も大変だね」
「うちは一人っ子だから、兄弟がいる人のことはあんまりよく分からないけど、兄弟に引きこもりがいるのって、精神的に応えるものなのかな?」
「「当たり前じゃん!」」
私と凪は同時に、そして自信満々に言い放った。
しかも声がハモってしまい、静乃がクスッと笑った。
「笑い事じゃないんだけどなー」
「ごめんごめん。ハモると思ってなかったからつい。でもなんか声の波長が合ってたね」
「そんなことより、璃子はどうやったらさ、お兄ちゃんが社会復帰できると思う?」
「性格による。凪のお兄ちゃんの特徴を一通り教えて」
「分かった。あたしも璃子の考察楽しみだし」
静乃が他の客に呼ばれて離れていくと、凪は家庭事情を一通り説明してくれた。
サイバーモール御曹司でありながら、人前に姿を現さないばかりか、満足に働くこともできない状況と見た。症状は相当深刻のようだ。根本的に重圧に弱い性格、低い自己肯定感、周囲と違う家庭環境による世間との認識のズレ、どれも引きこもりの特徴あるあるだが、お兄ちゃんと同じどころか、むしろ真逆の性質と言える。好奇心の抜け殻とも言える状態だ。
家が裕福なら、引きこもりでも問題はない。だが天羽家としては、血筋の通った者を後継ぎにしなければならず、財産は後継ぎが全て相続するというルールがある。凪の兄が相続拒否した場合、親の財産は全て凪に譲渡される格好となり、凪がサイバーモールを継がなければならないのだ。
凪の兄は経営には興味がないとのこと。凪はまだ夢を探す途中の段階で、アイドルの仕事はあくまでも教育熱心な親と距離を置くためであるとのこと。私の考察はおおよそ当たっていたようだ。
凪の兄が後を継がなければ、天羽社長の親戚が仕事を継ぎ、財産はサイバーモール役員にして後継ぎ候補となる親戚に全て譲渡されることになる。役員は全て身内の親族経営とのことだが、独占欲の強い親戚に財産が渡れば、引きこもりとなった兄の面倒を見るどころではない。
何としてでも兄を社会復帰させ、自分を自由の身にしつつ、財産の流出を阻止したいと見た。
彼女が言いたいのはこれだ。今探しているのは将来の夢ではなく、かつて凪の兄が持っていた好奇心や情熱を取り戻す方法かもしれない。親が会社持ちであれば、コネ採用して即解決だと思うが、それをしないのは凪の兄が入社を断ったからだ。兄の行く末が心配になる気持ちはよく分かる。私とて決して他人事ではない。お兄ちゃんの事業が失敗すれば引きこもり一直線だ。
「事情はよく分かったけど、まずは本人に会って確かめるのが1番早いかな」
「お兄ちゃんのためにできることは一通り試したけど、全く効果がなくて、今も家でゲームをしながら穀潰しをしてると思うと、やっぱやるせない気持ちになる」
「後を継いで、経営は他の人に任せる方法じゃ駄目なの?」
「それは無理。そもそもサイバーモールは親戚一同が挙って財産を出し合って始めたグループだから、他の誰よりも利益を出すという条件で、一族の財産を独占しているの。代表取締役は常にプレッシャーのかかる立場だから絶対に手は抜けないし、それなりの実力が必要なの」
「結構厳しいんだね。うちは気楽なカフェで良かったかも……」
肝を冷やしながら静乃が言った。グループ企業ともなれば、大勢の人生が懸かっている。
下手な経営をすれば、大量失業も起こりかねない重大な仕事だ。
莉央さんのように大手グループ企業を恨む人もいるけど、やはり必要悪かもしれない。
私はサイバーモールに誘われている。うまく入り込めれば、何か知ることができるかもしれないと最初は考えていたが、仕事内容は今まで以上に厳しく辛いものになると確信した。経営方針は末端にまで諸に表れる。ここを離れたくはないし、ようやく決心がついた。
「凪、私決めた」
「決めたって、何を?」
「実はね、サイバーモール傘下の芸能事務所に誘われていたの。しかも天羽社長直々に」
「! ――お父さんが自分から出向くなんて、璃子相当気に入られてるじゃん」
「行くなとは言わないんだ」
「自分で言うのもアレだけど、サイバーモールは色んな事業に手を出してるお陰で利益が伸びてるの。特に優秀な従業員は20代で家が買えて、30代で墓が立つって言われてる。璃子がショコラティエを目指してるというなら、まずはうちで十分にお金を稼いでからショコラティエを目指した方が、結果的に近道だと思うよ。家が火の車だったら尚更だし、何ならあたしの口から、サイバーモール傘下の洋菓子店に就職できるように頼んであげよっか?」
凪が私のそばに顔を近づけながら尋ねた。
彼女の言葉にちょっとした違和感を持ちながらも、コーヒーを口に含む。
ダークチョコレートのフレーバーが鼻の中を吹き抜けていく。エチオピアモカコーヒーの香りだ。
葉月珈琲でずっとお兄ちゃんの作業につき合っている内に、アロマでコーヒーの種類が分かるようになった。最初にカカオのような苦さが伝わってくるが、そっと私の背中を押してくれている気がする。
「気持ちは嬉しいけど、今はタレントップで過ごすことにする。何だかんだ言っても、ここが1番居心地良いから。それに……お兄ちゃんがよく言ってたの」
「何て言ってたの?」
「明日やろうは馬鹿野郎って」
「ふふっ、何それ面白い」
後からショコラティエを目指しても、その頃には諦めているかもしれない。
あの時やっておけばよかったという話は少なくない。私の親戚はみんなそうだ。
子供の頃は大層な夢を語っていたが、現実主義に押され、気がついた頃には中年になり、夢を実現するだけの体力もない。女性であれば結婚して子供がいるかもしれないし、夢は後回しにすればするほど叶わなくなる。最後まで諦めなければ、きっと叶うことを信じたいと思う自分がいる。
やっぱり私は……お兄ちゃんの妹なんだ。
「物思いに耽ってるところ悪いけど、それなら今からでも、サイバーモール傘下の洋菓子店で修業できるように伝えることもできるよ。設備も十分な方が、将来的に有利じゃない?」
「その洋菓子店はどこにあるの?」
「ここから最寄りの場所だと、名古屋になるかな。洋菓子店は飲食店の中でも特に利益を上げるのが難しいから、地方都市に出店するのは敬遠されがちなの」
「地元だったら考えたけど……うーん……やっぱり無理かも。ごめんね、気を使わせちゃって」
「いいのいいの、あたしこそごめんね。璃子が戦力になってくれたら心強いと思ったから」
思っていた以上に理解を示してくれた。
凪は選択権があることの重要性を知っている。
だからこそ私により早く稼ぐ方法を示してくれた。洋菓子店で修業したい気持ちは山々だが、洋菓子店はパティシエがメインで、ショコラティエとしての仕事は二の次であることも少なくない。それに一度名古屋から離れてしまえば、もう戻ってこれない気がする。
何度か遊びに行ったことがあるが、住みついたら便利さを当たり前に思い、わざわざ地方都市で住もうとは思わなくなる。大都市は人の欲求を叶えてくれるが、代わりに生き方の自由を失う。物価が高い分買い物も厳しくなるし、どちらかと言えば出稼ぎに向いている場所だ。
そんなことを考えていると、携帯がブルブルと訴えるように響く――。
「あっ、お兄ちゃんからメール来た」
「何か用事でもあるの?」
「別にないけど……何これ」
「どうしたの?」
凪が隣から私の携帯を覗き込む。だがメールの内容は一言添えられているだけだった。
『来た、見た、勝った』
――まさかとは思うけど……いや、流石にないか。心配させまいと見栄を張っているかもしれない。
「これって、カエサルが言ってた言葉だね。ローマ史にハマってるとか?」
「うん、そんなところ。何か良いことがあると、こうやってメールを送ってくるの」
「ふーん、ますます会いたくなっちゃったなー」
「お兄ちゃんは対人恐怖症で、身内以外の人に会おうとしないから、会うとしたら、人嫌いを克服してからになるかな。いつになるか分からないけど」
「そりゃ残念。静乃ちゃん、お会計お願い。2人分ね」
「はーい」
静乃が嬉しそうな顔で飛んでくる。
「凪、自分の分くらい払えるよ」
「遠慮しないの。一応先輩なんだし、芸能界ってそういうもんだよ」
「……ありがとう」
会計を済ませると、静乃が扉の外にまで見送りに来てくれた。
「ご馳走様、ランチセットのハヤシライス、美味しかったよ」
「ありがとう。これからも来てくれると嬉しいな」
「ふふっ、このお店凄く気に入ったから、これからも行きつけにしちゃおっかな。主に璃子とガールズトークするためだけど。今度は静乃のことも教えてね」
「うん、もちろんだよ」
健気なウインクを見せる静乃。女の私から見ても可愛い。
私は漠然とした違和感を持ち続けながら帰宅したのであった――。
その後、凪は中津川珈琲の常連となった。同じく常連となっていた夏芽たちともすぐに仲良くなり、私たちのまとめ役になっていった。類は友を呼ぶとは言うが、私の友達は良心的で大人しい人ばかり。一方で陽気な性格の人も多い。本来の私は陽気なんだろうか。
翌日、ヴェネツィアまで遠征していたお兄ちゃんが帰国を果たした。
羽振りは良くないが気分上々のようで、ラテアートの世界大会で優勝したとのこと。
私は酷く驚いた。コーヒーに夢中なお兄ちゃんを放置していただけだが、ここまでの成果を上げるとは思ってもみなかった。バリスタの世界大会としてはマイナー競技会に分類されるため、宣伝効果はあまり期待できないと感じたが、予想に反して客足が増えたのだ。
仮にも世界大会という名目の大会で優勝した実績は大きい。
葉月珈琲に客足が戻れば、可処分所得を別の道に使う選択肢が生まれる。
「まっ、そういうわけだからさ、これからたくさん人が来るかもな」
「てっきり事件でも起こしたのかと思ったけど、優勝して本当に良かった」
「信用がないなー。ヴェネツィアの人は本当に優しかった。僕のことを重箱の隅をつつくように迫害してきたこの国の連中とは大違いだ。向こうは色んな国が陸続きだから、1人1人の違いをいちいちとやかく言ってたら切りがない。だから寛容なんだろうな」
全てを知ったかのように豪語するお兄ちゃん。
世界を知った気になるのは早いと思うが、こうして1つ1つの現象に仮説を立てられるのは、知性がある証拠とも言える。外国で自分が初めて見る存在や光景に対し、自国ではありえないじゃなく、自国とこういう違いがあるから成り立っていると考えられる人が、本当の意味で知性のある人だと、お兄ちゃんを見る度に思い知らされる。私にも推論くらいはできるが、実際に見て確かめる術がない。
その後、葉月珈琲は売り上げを盛り返した。
主にイタリア人観光客が訪れるようになり、お兄ちゃんは向こうで友人ができたらしい。
コーヒーを通してカフェのスタッフとここまで仲良くなれるとは意外だ。社会性が壊滅的なお兄ちゃんにも得意なタイプがいる。それは同業者だ。
一流は一流を知るという言葉がある。
究めた者は同様に同じ道を究めた者が分かる。
世界には多くのラテアーティストがいる。お兄ちゃんは瞬く間に名前を轟かせた。お兄ちゃんが持ち帰ったイタリアの新聞によれば、バリスタの世界大会でアジア人が優勝したのは初めてとのこと。
知名度が低く、ヨーロッパ人ばかりが参加するこの手の競技会においては大きな一歩だった。
お兄ちゃんがもたらしたこの幸運は、まさに棚から牡丹餅と呼べる出来事だった。
6月末を迎え、店が繁盛してきた頃、久しぶりの休日を迎えた。
降谷社長がアポを取ってくれたこともあり、私は再び天羽社長と会うことができた。名古屋のオフィスビルまで赴くと、コンシェルジュに案内され、サイバーモール社長室を訪れた。
摩天楼を背景に豪華な回転いすに腰掛ける天羽社長を前に、私は息を殺しながら入室する。
私にとっては今後の人生を左右する重大なターニングポイントだ。
「決心はついたか?」
「はい。サイバーモールには転職しません」
「……どういうことかな?」
「考えに考え抜いた結論です。もちろんありがたいと思っています。でも私はここで輝きたいんです。いつか私の手で、地元を復興しようと考えています」
「だったら尚更うちに来た方が出世も早い。トップアイドルになれば、稼いだ金で地元の宣伝にも貢献できる。俺は君を買っているんだ。事務所にも君を優先的に起用するよう言っておく」
「私の夢はトップアイドルではなく……ショコラティエです。タレントップの降谷社長は、私の夢を知りながら尊重してくれました。それにアイドルなら、他の人の方が才能あると感じました」
私がそう言うと、天羽社長は血相が変わり、頭に血が上るように目つきが鋭くなる。
私の覚悟は伝えた。凪は私の覚悟を試したくて色々と聞いたのだと確信した。
しばらくの沈黙の末、天羽社長は口を開いた。
「もういい、帰れ」
「……失礼します」
たった一言だけ残し、私は岐阜にまで戻った。
私は葉月珈琲に将来性を見た。ならばと思い、今後は葉月珈琲の参謀として、お兄ちゃんを支えながら自分の夢を叶えようと考えた。私の行方を阻んでいた向かい風は、いつしか背中を押す追い風となっていた。私にも一筋の道が見えた。先は分からないが、悲観する必要がないことはよく分かった。
後悔はなかった。他でもない、自分で決めたことだから。
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