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社会不適合者が凄腕のショコラティエになっていた件  作者: エスティ
第2章 模索編
31/70

31粒目「戦略的撤退」

長らくお待たせしました。

ここから模索編開始となります。

不登校になった璃子の次なる戦略をお楽しみください。

 7月を迎え、私とお兄ちゃんが不登校になって1ヵ月が経過する――。


 中学校から事実上の撤退を果たし、お兄ちゃんは心に大きな傷を負った。


 近所の人を見ただけで体が震え、一方的に遠ざけようとする。


 身内は平気のようだが、他人が相手だと、途端にコミュニケーション能力が壊滅的となり、対話拒否する始末だ。どうやら日本人を見るのが怖いらしい。


 名前がないと不便なため、お兄ちゃんの症状を『日本人恐怖症』と名づけることに。


 しばらくして症状は寛解したが、予断を許さない状況に変わりはない。


 元を辿れば、お兄ちゃんが受けた熾烈ないじめが原因だ。明らかな過剰適応である。学校ではみんな仲良くしなさいと言われるが、お兄ちゃんはみんなと仲良くするのが苦手だ。周りに合わせられない人間が同質性の強い環境に放り込まれれば、最終的に排除される道を辿ることが目に見えている。大人たちは子供がレールから外れることを恐れるあまり、目の前の苦痛をひたすら我慢させる。


 当然だが、耐えられる者と耐えられない者が出てくる。


 ただ集団から排除されるだけなら軽傷だが、包囲網を敷かれたら終わりである。今度お兄ちゃんが登校させられるようなことがあれば、きっと殺人事件が起こるだろう。世間の目を恐れるあまり、私はしばらくの間は家に引きこもり、一度も外に出なかった。


 当たり前のように外に出ていた日々を懐かしみながらも、気を紛らわせるように運動を始めた。


 毎日の体操が日課になると、体が自然に引き締まっていく。


 意外なことに、お兄ちゃんの進路が早くも決まった。


 うちの親は性懲りもなく、お兄ちゃんを高校に行かせようとしていたが、言い合いの末、お兄ちゃんは起業することに決めた。理由は他でもない。うちの親が、お兄ちゃんの高校進学に備えた学費300万円を親戚一同から借りてしまっていたためである。


 そこに目をつけたお兄ちゃんは、学費を起業資金として使おうと言い出した。


 最終的にお兄ちゃんが責任を取る形でごり押したが、一体どうなることやら。


 ――でも、面白いかもしれない。


 久しぶりに……心が躍った気がする。


「お兄ちゃん」

「どうかした?」

「本当に起業するの?」

「あったりめーだろ。来年の4月まで待ってられるかっての」

「カフェのマスターが修業させてくれないからって、そんなに急ぐことないと思うけど」

「義務教育を卒業していないと、修業させてくれないんだから仕方ねえだろ。でも璃子が起業を思いついてくれたお陰で、どうにかなりそうだ」


 喜ぶように歯を見せながらお兄ちゃんが言った。どうやら本気らしい。


 私はお母さんを通して、高校の学費を親戚から借りていたことを知った。


 そこで私は、使うことのない学費を起業資金にすることを思いついた。お兄ちゃんに話し、家族会議でさりげなく高校の話を聞き出し、自己責任を盾に、借金のまた借りをしようと考えた。修業をさせてもらえないなら起業すればいい。仮に失敗しても、その頃には義務教育も卒業しているし、どうにか誤魔化しながら、カフェのマスターとやらの世話になればいい。


 事業が成功する確率は奇跡に等しいが、駄目そうならすぐ撤退すればいい。


「店の方針はどうするの?」

「やっぱカフェだな。僕にはコーヒーしかない。将来はバリスタしか考えてない」

「バリスタの他に候補とかないの?」

「ない。もしコーヒーがなかったら、僕は堂々とニートしてたと思う」

「はぁ~、分かった。もう言わない」


 他に目指す夢がないようだ。でも他に何もないのは、迷いがない証でもある。


 色んな夢を考えたが、やはり現実的に考えると絞られていく。OLを目指しているが、本当はショコラティエになりたいと思う自分がいる。だがそんなことも言っていられなくなった。


 道連れ不登校により、私の計画が狂い始めた。


 内申は最悪と言っていいだろう。高校受験までに家で自習をする必要があるものの、私は早くも中3までの勉強を終えてしまったのだ。内容があまりにも簡単すぎる。余程の意地悪をされない限り、高校受験に受かる自信はあるが、学費はまず用意できないだろう。


 ――ん? だったらお兄ちゃんに学費を稼いでもらえばいいじゃん。


 合理的ではある。だがそう考えたのが甘かった。


 夏休みを迎え、店の方針を決めようとした時だった。お兄ちゃんが1杯1000円以上もするブルーマウンテンを注文した時は、開いた口が塞がらなかった。


 ただでさえ限られた予算なのに、しかも起業資金として考えると、300万円じゃ足りない。お父さんがお手頃な物件を見つけてくれなかったらどうなっていたか……。


 このままだと、年末までに予算が尽きる。そうなる前に何とかしないと。


 お兄ちゃんは浪費家というより、妥協をしないというだけで、本当に良い物を惜しみなく買う。割引なんて考えたこともない。いつだって自分に正直で、曲がったことが大嫌いなお兄ちゃんに惹かれる人も少なくない。それはお兄ちゃんの同級生たちを見ていれば分かる。


 不登校の日常にもようやく馴染んでくる。


 最初こそ、みんなに置いて行かれているような気がして、虚しい気持ちすらあったが、慣れれば案外容易いもので、まだレールから外れたわけじゃない。


 できることなら専門学校に行きたいけど、私も行けるのかな?


 葉月商店街は夏祭りの時期であり、普段は見られない賑わいを見せる。老若男女、身分に関係なく商店街の関係者が総出で駆り出され、私もお兄ちゃんも当たり前のように動員されていた。


 お兄ちゃんは家から出られなかったが、私は来月に向けたヤナセスイーツの花火大会キャンペーンに従事し、柳瀬家の手伝いをしていた。ケーキの試食もさせてもらえるし、余れば家に持って帰ることもできる。お腹が空いた時は、こうして近所の人に何度も助けられ、近所の人が困っている時は、葉月家の人が惜しみなく助けていた。今でも醤油の貸し借りができる数少ない場所だ。


 すると、ヤナセスイーツ意外な人物が私の前に現れた。


「あっ、和子さん、久しぶりー」


 優子さんが手の平を見せながら声をかけた。常連に対する呼びかけだ。


「葉月さん、ここにいたんだ……無事で良かった」


 黒いスーツ姿の長森先生が自動扉から入ってくる。


 心配そうにしながらも、私に寄り添うように歩み寄って来る。


「璃子ちゃん、和子さんと知り合いなの?」

「はい。私が小6の時の担任だったんです」

「あー、なるほどねー」

「葉月さんが不登校になったと聞いて、心配して来たの」

「……それ、誰から聞いたんですか?」

「夏芽ちゃんだけど」

「そうでしたか」

「ねえ、もう先生と生徒の関係じゃないし、お互い普通の呼び方にしようよ。和子でいいから」

「は、はい……」

「璃子ちゃん、あれから一体どうしてるの?」


 和子さんに最も聞かれたくない質問をされてしまった。


 起業している最中なんて言った日には、鼻で笑われるに違いない。


 もっともらしい理由で誤魔化すしかない。


 外には多くの人がいるし、近所の噂になるのも厄介だ。私への配慮からか、家にまで訪問することはなかったが、下手に心配させてしまっては、本当に訪問されてしまいかねない。


「高校受験に備えて勉強しています」

「その様子だと、もう終わったんでしょ?」


 ニヤリと笑みを浮かべながら言う和子さん。


「……はい、一応」

「えっ、まだ中学に入ったばかりじゃないの?」

「あれっ、璃子ちゃん、優子ちゃんに話してないの?」

「……」


 気まずい。きっと将棋教室のことと直感する。


「璃子ちゃん、どうかしたの?」

「いえ、和子さんと一緒に、将棋教室に行ったことがあるんです」


 素直に将棋教室のことを話した。


 もっとも、優子さんは私の迷彩戦略に気づいていたほどだ。


 特に驚くこともなく、私と和子さんの話を最後まで聞いてくれた。特に和子さんや天野さんとの対局内容を話してみれば、何だそんなことかと言わんばかりの反応だ。


「へぇ~、あの天野九段に勝っちゃうなんて、結構やるじゃん」

「女流棋士の道に誘ったのに、璃子ちゃんは自信がないのか、女流棋士を考えようともしないの」


 褒めはするが、特にプロ棋士の道を勧めてくるわけもなく、まるで本当の目標を知っているかのようだが、知りながらも踏み込んでこないところが優子さんらしい。


 今までの学校での立ち回りも全て話した。


 テストの点数を平均点に調整したり、常に窓際最後尾の席を確保し続けたり、自分からは絶対に話しかけないようにし、徹底した受けに回っていたことを話した。色々問題があったとはいえ、学生時代に直接的ないじめを一度も受けなかったのは誇りである。


 和子さんは他の小学校に飛ばされたか、あるいは不祥事をでっちあげられたかと思いきや、諸悪の根源だった荒井君が卒業したため、問題なく従事し続けている。辞めさせようと思えばできただろうが、ただの脅しだったようだ。私がいた小学校は今でも体質は変わらず、異端者を炙り出すような雰囲気が漂っているようで、私の迷彩戦略に同情を示すほどだ。


 あれから卒業生にアルバムを渡したが、私だけ受け取りに来ないことを不審に思い、花火大会のついでに会いに来たようで、ヤナセスイーツで土産用のスイーツを買ってから私の家に向かう予定であったとのこと。自由研究の発表を見ていたこともあり、私のチョコ好きも知っていた。


「なるほど、そういうことだったんだ。璃子ちゃんも大変だねー」

「でもそこまで人に気を使うことないと思うよ。私だって教師やってるけど、周りに合わせてばかりいる生徒に関しては、模範的とは思いつつも、ちょっと将来が心配かな」

「どうして心配なんですか?」

「学校では周りに合わせなさいって教えられるけど、社会に出たら、むしろ嫌われるくらいに自分を持っていないと、うまくやっていけないの。周りに会わせてばかりいると、自分を見失っちゃう」

「!」


 和子さんの言葉は忠告のように思えた。


 ――私はあの6年間で……自分を見失いつつあったことに気づかされた。


 大学まで行って就職して、一人前のOLになって、家にお金を淹れられるようになれば、世間は私を一般的な常識人と評価するはず。だが和子さんに言わせれば、それは自分を見失った社会人でしかないのだろう。いつの間にか、世間の評価が、私の行動の基準になっちゃってるし……。


 好きで就く仕事ではない。生活のための仕事だ。


 夢を追うのは、一人前の社会人になってからでも遅くはない……はず。


「まっ、そんなことを生徒たちの前で言ったら、主任から厳重注意を食らうでしょうね」

「それは言わない約束。そう言う優子ちゃんはどうなの?」

「あたしはパティシエとしてお店の仕事を継ぐって決めてますよ。大学受験も考えましたけど、やっぱり好きなことを仕事にする方が、あたしには合ってるみたいですから」

「!」


 嬉しそうに両手を頭の後ろで結びながら優子さんが言った。


 大学受験はあくまでも家計を支えるためだったはず。でも藤次郎さんが倒れて、やむを得ず大学を諦めたというのに、優子さんは悔いのない顔だ。


 ――まさか藤次郎さんが倒れたことを夢の口実にしてる?


 じゃあどうして、私にはOLの道を勧めてきたのだろうか。


「そういえば、この頃ずっとあず君と会わないんだけど、一体どうしちゃったの?」

「同級生と大喧嘩しちゃって、それ以来ずっと不登校なんです。今のお兄ちゃんを1人にしておくと、何をやらかすか分からないので、私も不登校につき合ってるんです」

「ふーん、お兄ちゃん想いなんだ」

「お兄ちゃんが何かやらかすと、私の評判に関わりますから」

「どうして璃子ちゃんのお兄ちゃんがやらかしたら、璃子ちゃんの評判まで落ちるの?」

「この国は個人と集団の区別がつかない人が多いので、誰かがやらかすと、関係者まで白い目で見られるんです。親とか上司なら、監督責任まで問われますから」


 私が不登校を決定した理由がこれだ。


 自分とは関係のない理由で、評判が下がり機会を失うことはしたくない。


 身内に問題児がいるというだけで、自分まで不当な評価を受ける可能性がある以上、もうあの教室には赴ける気がしない。クラスメイトに罪はないが、これから罪を犯す可能性が高いなら、回避する以外の選択肢はない。いじめは事後ケアに目を向けられがちで、未然ケアは軽視されている。あくまでも事なかれ主義を貫くならば、せめて未然ケアくらい徹底してもらいたい。


 事後ケアができるほどの自浄作用がない以上、不登校児が増えても文句は言えない。


 だが耐えることができなければ、就職レールから外れることになる。


 行くも地獄、戻るも地獄。勉強ができればいいものではない。高校進学を果たしたとて、結局は小中学生に毛が生えたくらいの人たちを相手にしなければならないのだ。


 結局、この国が欲しいのは、貧乏器用で忖度ができる人なのだ。


「つまり、クラスから注目されたってこと?」

「……はい。迷彩戦略はばれた時点で終了ですから」

「それくらいで不登校になるなんて、璃子ちゃんって、案外脆いんだね」

「脆いですよ……本当の私は」


 見透かされたように言われると、私は一筋の不安を覚え、冷や汗をかいた。


 高校でも同じことが起きるのではないかと思うだけで、拳が強張ってしまう。


 和子さんから将棋教室に誘われた。今はそれどころではないと思ったが、定期的に通うことを示唆していたし、ここは時々通おうと考えた。他の生徒がいない時のみという条件である。和子さんはホッと笑みを浮かべ、スフレチーズケーキを購入して帰宅する。私の家に家庭訪問をした際に柳瀬スイーツを発見し、定期的に購入するようになったという。


 私のことをばらされる心配はなさそうだ。


 家に戻ってみれば、相も変わらずお兄ちゃんがコーヒーを嗜んでいる。誰のせいで私まで不登校になったのかと思わないこともないが、同時に感謝している自分もいる。クラス替えが行われたところで、今度は1年中来なかった生徒として注目を集める恐れもある。


 人間関係は固定化されているだろうし、高校は少しでもレベルの高い学校を選ぼう。


 私立だとお金がかかるし、特待生制度を利用すれば、最悪お兄ちゃんの事業が失敗してもリカバリーができると考えたが、そのためには内申点が重要となる。つまり不登校になった時点で、この手は使えなくなった。最低でも大卒でなければ、今時の大手には入れないとお父さんは言った。


 少しでも遠い場所を選ぼうかと考えた。


 だが同時に思う。そんなことでいいのかと。


 勉強自体は好きだが、必要に迫られてやる勉強はあまり好きじゃない。内容も簡単すぎるし、高校受験に出る問題は一通り暗記した。後は高校受験を待つのみ。参考書は優子さんに借りた。家で勉強するのが不登校の条件だ。プライドが高いわけじゃない。ただ面倒事が嫌いなだけ。


 皮肉にも中学にいた時よりも早いペースで勉強ができた。どうやら私は通学するよりも、家で自習する方が合っていたことに気づいた。不登校は誰にも邪魔されず、1人きりでマイペースに学習できる環境である。きっと私だけではない。他にもホームスクーリングが合っている子供は大勢いるはず。


 もっとも、無理に不登校児の道に誰かを誘う気はないが、通学しなくても定期テストを受けられる仕組みが欲しかった。不登校が駄目なんじゃなく、不登校くらいで詰むような仕組みが良くない。この国は全ての人間がまともで普通の常識人という前提で回っている。故に普通の枠に当てはまらない人が割を食うのだ。私はきっと普通の人間ではない。普通の人は迷彩戦略など使わない。


「お兄ちゃん、いつ引っ越すの?」

「9月だけど」

「つまり9月以降は実家に居ないことになるけど、親戚にはどう言い訳するの?」

「引きこもりになったって伝えておけばいい」

「みんなを騙して起業すればいいとは言ったけど、ちょっと不安になってきた」

「璃子も共犯だぞ。覚悟を決めろ。どの道僕が高校に行くことはないし、今度また集団生活の場に放り込まれたら、大量殺人事件を起こしてやる」

「やめて……」


 笑いながらお兄ちゃんが言った。でも冗談に聞こえないから困る。


 起業してからの計画は既に決めている。来年までに準備を整え、年明けと共にカフェを開く。隠れ家物件のような店を探していたが、建築物に詳しいお父さんを頼った甲斐があった。


 お母さんにはカフェに必要な物資を極力無料で集めるように言った。


 カウンターテーブルはあったが、肝心の椅子がない。万が一人気になれば、うちの親戚が店を訪れる可能性もある。お兄ちゃんが日本人恐怖症なのはある意味幸いだった。外国を相手に宣伝し、日本人客は寄せつけないよう、メニューや看板は全て英語にしよう。


 当然だが、優子さんたちにもばれるわけにはいかない。予防線を張るように、高校受験までは引きこもる旨を伝えておいた。商店街から少し離れた場所だ。移動の際は商店街の近くを通らないよう配慮する必要がある。引っ越しをばらすような人間に見つかれば終わりだ。


 お兄ちゃんはカフェを開くこと以外はロクに考えていなかった。私は何度も助言を送り、大まかな方針こそ決まったが、高級なコーヒー豆を使ったカフェにするという拘りだけは押し通されてしまった。なるべく安いコーヒー豆を採用してほしかったが、璃子はチョコレートを売る時、どこでも仕入れられるような安い商品を売るつもりかと言われ、私の中にあった、チョコレートに対する誇りを刺激されてしまっては、とてもそうだとは言えなかった。お兄ちゃんとは妙に波長が合う。


「良しっ、できたぞ」


 お兄ちゃんがコーヒーカップを私の前に置いた。


「ありがとう……」


 コーヒーの苦みはチョコレートの苦みに通じるものがある。


 元々苦味には慣れていたこともあり、一口飲んでみるが、今までのコーヒーとは異なる品質を持つことがすぐに分かった。これはきっと高級品だ。


 結論、お兄ちゃんの決意は揺るぎないほど固い。


「お兄ちゃん、これって……」

「気づいたか。来年店で出すコーヒーだ」

「……本気なんだね」

「あったりめーだろ。僕が輝ける唯一の仕事だ」


 ニカッと笑いながらお兄ちゃんが言った。


 自分用のコーヒーカップに口をつけると、お兄ちゃんはうっとりした顔を見せる。まるで恋する男子のような目で、コーヒーのアロマを楽しみ、ゆっくりと味わっていく。


 好きなことにここまで夢中になれるなんて……。


 正直、羨ましい。お兄ちゃんにとって、コーヒーは最愛の恋人だ。


 私にとってのチョコレートは――どんな存在なんだろうか。


 好きではある。だが仕事にしたいと思えるほどではない。お兄ちゃんを見ていると、お前の好きな気持ちはこの程度なのかと言われているような気がする。


 だからこそ、お兄ちゃんは人から嫉妬を買うのだ。

読んでいただきありがとうございます。

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