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社会不適合者が凄腕のショコラティエになっていた件  作者: エスティ
第1章 学生編
27/70

27粒目「越えられない壁にぶつかって」

 時は流れ、1月を迎えた。11月からの2ヵ月間は至って平穏であった。


「へぇ~、そんなことがあったんだぁ~。夏芽ちゃんも大変だねー」


 退屈そうに座っている友恵さんがしみじみと言った。


 2ヵ月前の11月、ほとんど人が来ないブティックサヤマは至って静かだ。


 失うものがなくなった夏芽は、荒井君から声をかけられることがなくなった。だがその代償として、狭山社長の会社は業績が下がっていった。かつてアパレル業界において、日本国内で一二を争っていた岐阜の凋落を象徴しているようで胸が痛い。


 心配になった私は、ブティックサヤマに立ち寄り、友恵さんと談笑しながら、今までの経緯を話していた。友恵さんは毎日違う服を着ているが、そのどれもが洗練されている。


「はい。何だか私がとどめを刺す格好になってしまって」

「それは璃子ちゃんが気にすることじゃないと思うけど」

「でも、もし会社が傾いたら、この店も危ないんじゃないかと思いまして」

「あたしはいつでも独立できるから大丈夫。それに狭山社長からは、業績が悪化したら、店舗ごと引き取ってほしいって言われてるの。つまりお店と一緒に独立できるってこと。でも狭山社長、荒井君に嫁がせることは諦めたみたいだけど、虎沢グループの御曹司に嫁がせることは、諦めてないみたいだよ」

「その御曹司なんですが、まるで暴君のような立ち振る舞いで、うちの兄と顔を合わせる度に、殴り合いに罵り合いをするばかりで、あんな人に友達が嫁いでいくのかと思うと、不安で不安で」

「ふふっ、まるで自分が嫁がされるような言い方だね」


 唐突な指摘に、私は喉まで出かかっているため息をやめた。


 幸福も不幸も、伝染するものであることを私は知っている。


 友達が悪い人とつき合うと、必然的に私も悪い人とつき合う確率が高くなる。それを断ち切るには、夏芽と縁を切る必要がある。だが私に貢献してくれた友達と縁切りなんてしたくないし、何より望まない相手とつき合わされる辛さはよく分かる。ここまで私と波長が合う相手も少ない。


 前々から思っていたけど、誰かが痛い目に遭うと、まるで自分が痛い目に遭わされたかのような気持ちになってしまうのが辛い。身内や友達だけじゃない。赤の他人の痛みでさえ、自分の痛みとして受け取ってしまう感性が厄介なのだ。優しさとかそんな気持ちじゃない。共感したくないのに、頭が勝手に必要以上の共感を示してしまう。たとえ自分が……損な目に遭っていなかったとしても。


 私は他人の経験を自分に起きた出来事として再経験してしまう。


 外に出れば、何かしらの出来事を誰かが体験する。しかもそれが苦痛を伴うものであるほど共感し、私まで気分が悪くなってしまう。酷い時は頭痛や腹痛といった症状として表れ、この場にいるのも辛くなる。教室に至っては逃げ場すらなく、いじめを受けている最中に逃げ出せば、目立ってしまうため動けない。皮肉にも目立たないようにするための最善手が、私を苦しめていた。


 いっそ引きこもりたい。誰かの悪意に敏感な人の最適な生き方を知りたい。


「信じてもらえないかもしれませんけど、私は人の痛みが手に取るように分かるんです」


 今まで感じたことを特に誇張することもなく、ありのままを話した。


 友恵さんはすぐ理解を示してくれたばかりか、最後まで話を聞いてくれた。お父さんとお母さんとお兄ちゃんにも話したけど、理解してくれたのはお兄ちゃんだけだ。小さい時から苦労している人ほど、他者への理解と寛容を示す人が多いのかな。もしそうなら、私は苦労知らずにはなりたくない。


 友恵さんも自分のことをドロップアウトガールと、笑いながら自己紹介したくらいだ。


 自虐ネタを言うのは寛容の合図だ。種類は違えど、欠点や問題を抱えているのはお互い様であるという感覚が持てる人とだけ仲良くしていきたい。私が知っている普通の人はみんな不寛容だ。普通と呼ばれている生き方、有り触れている常識、誰でも知ってるような情報しか知らないのだから当然だ。


 私は内に秘めた矛盾に気づいてしまった。


 普通に生きたいと思う自分と、普通の人にはなりたくないと思う自分に。


 私は今、手堅く現実を取るか、思い切って夢を追うかの分岐点にいる。


「たまーにいるんだよねー。そうやって他人の課題のことまで深刻に考えちゃう人。多分病気とかじゃなくて、璃子ちゃん自身が持っている特性なんだと思う」

「特性……ですか?」

「うん。世の中って、みんな普通の人ばっかりだと思いがちだけど、実はそうでもないの。みんな人知れず、本当の自分を抑えて生きているの。みんなの前で本性を出したら、変な人だと思われちゃうし、それで仲間外れにされたら悲しいから、我慢してるってだけ。あたしは我慢できずに、自分で選んだ格好で登校して、顰蹙買っちゃったけど。てへっ!」


 片目を閉じながら舌を出す友恵さん。


 眩しいくらいの明るい笑みを浮かべながら過去を語る友恵さん。だが彼女の軽口から語られる過去は思った以上に壮絶で暗いものだった。私が想像した以上に。


 友恵さんは小さい頃から洋服が好きで、将来はパリコレのモデルを目指していたが、当時としては奇抜なファッションセンスは周囲の反感を買った。集中砲火を受けるのは大人でさえ辛い。批判に耐えかねてか、人前に出るのが怖くなり、モデルの道は諦めた。だが1人のファッションデザイナーの目に留まり、初めて個性を認めてもらえた彼女は洋服作りに没頭し、ファッションデザイナーを志した。


 外に師匠と呼べる存在がいたことは大きい。それが友恵さんの人生を逆転させる要因となった。


 身近に尊敬できる人がいたことで、その後の人生が変わった人は多くいる。


 成功する人は、実力以上に運が良いのだ。


 師匠の話をしている時の友恵さんは、子供のように目を輝かせ、年齢差を感じさせない。手を胸に当てながら知識をベラベラとひけらかし、勢いが止まらない彼女が何故集団生活に馴染めないのかがよく分かった。わざわざ過去を語ってくれなくても、ブレーキが壊れたような言動が全てを物語っている。


 少なくとも、日本人から好かれるような性格ではない。


「それでねー! 師匠はあたしのために部屋を貸してくれてー! 服を取り揃えてくれてー! 好きなようにコーディネートさせてくれたのー! それでねー、師匠があたしに、ファッションデザイナーになったらどうかって言ってくれてねー! そんな時に葬式で偶然夏芽ちゃんに出会ってー! ……ファッションデザイナーを募集してるからー、うちで働かないかって言われたの……」


 さっきまでハイテンションだったが、きびきびと動いていた腕の力が抜けた。


 友恵さんの急な落ち込み方を、私は見過ごさなかった。


「もしかして、その葬式って――」

「うん。あたしの師匠にして、おばあちゃんの妹、つまり大叔母の葬式で、大叔母の孫娘が夏芽ちゃんなの。今でも夏芽ちゃんを見る度に、師匠のことを思い出すの。初めて夏芽ちゃんを見た時、師匠の面影が見えたの。ファッションデザイナーになろうと決意した日に、師匠が病気で亡くなって、葬式で出会った直後に意気投合して、ブティックの店長に誘われた時は……運命だと思った」


 思わず細長い手の指先で頬に触れ、うっとりする友恵さん。


 友恵さんが私に伝えたいことが分かった。彼女は自分の課題にのみ集中している。度重なる困難に虐げられてはいるが、それでも自分がやるべきことを見失わずにいることが大事なんだ。


 私は自分の課題と他人の課題をごっちゃにしていた。こんなの私らしくない。友達を半ば見捨てることになるのは心苦しいが、助けることすらできないまま、心配だけするのは無責任とも言える。


「友恵さん、私はもう……他人の心配なんてしません。しっかりと自分の課題に向き合います」

「その意気その意気。璃子ちゃんは、夏芽ちゃんの()()()()なんだから」

「?」


 思わず首を傾げた。友恵さんは余裕の笑みを浮かべている。


 帰り際、友恵さんが言い残した言葉が気になった。


 大事な人って何だろうか。そりゃ私は夏芽にとって大事な友達なんだろうけど。


 12月を迎え、11月の月末テストが返却された。


 廊下の掲示板にはクラスメイト全員の点数と順位が張り出され、私の順位を確認する。この年最後の月末テストに、私はホッと胸を撫で下ろした。私の点数は69点、小4以降では最も高い点数だ。上から数えても下から数えても真ん中の順位。どこにもいじめられる要素はない。


 荒井君は運動会で負け、暴君としての威厳が弱まり、最上位グループのリーダーから遂に陥落した。


 夏芽1人の力で逆転したわけではないことに、ようやく気づいたようだが、彼が私に辿り着くことはない。表面上は夏芽と浅尾君の2人で企んだ奇策ということになっているし、序盤は予定通り押していた事実からも、内部の者が寝返っていたとは考えない。全ては力の均衡を取り戻すためだ。


「はぁ~、全然良い点取れないなー」

「この問題とか難しいよねー」

「えー、応用問題なんて楽勝だよー」

「いいなー、才能があって」


 点数の低い生徒には共感を示し、点数の高い生徒には羨望を向けて承認欲求を満たす。


 初歩的な手段だが、敵を作らないことにおいては最も適したポジションだ。平均点の人が最も目立たないことは、長森先生も知っているようで、私が手を抜いていることを知りながら見過ごしてくれた。


 私は長森先生に弱みを握られている。何とかして同等の立場に持ち込まなければ、いつ暴露されてもおかしくはない。弱みを盾に将棋のプロになることを迫ってこないあたり、根は良心的らしい。将棋教室に誘われてはいるものの、あんな敷居の高い古風な家に立ち入ろうとは思わない。


 夏芽の課題には一切干渉しないようにしているが、それでも心底では彼女についての不安が常につきまとっている。自分の課題だけでも手一杯なのに、人のことまで考えてしまう自分が情けない。自分の課題に向き合えば自己中心的と評価され、他人の課題に首を突っ込めば、同調圧力の強いろくでなしになる。きっと、他人の課題に首を突っ込むことが標準化している国民なのだ。


「璃子、中学はどこに行くの?」


 昼休み、本を読んでいる私に夏芽が話しかけてくる。


「近くにある公立の中学になると思うけど」

「じゃああたしも行く。私立に行けって言われたけど、璃子と同じ学校にする」

「私も同じ中学だよ。家からちょっと遠いのが玉に瑕だけど」


 冬美が残念そうに言いながら、両手の肘を机に乗せてため息を吐く。


 友達という盾を失えば、また中学で盾を調達し、溶け込むことを余儀なくされる。


 商店街の店が次々と閉まっていく中、私はOLになることを目指す気持ちが強くなった。一方で密かに願っていた。誰かが私のレールを壊してくれることを。だがそうもいかない。私の家庭の中から1人でも正規雇用による就職を果たさなければ、未来永劫貧困が続くことは間違いない。


「ねえ、そういえば璃子って、OLになるとは言っても、どんな職種を目指すの?」

「えっ……それは……」


 静乃が素朴な疑問をぶつけた。私はすぐに答えることができなかった。


 夏芽はファッションデザイナー、冬美は酒処藤倉を継ぐことが決まっている。静乃はバリスタを目指しているわけだが、どこかに受からずとも、親の店を継ぐという救済処置が用意されている。食いっぱぐれにならない人の方が、案外先のことを決めやすいのかもしれない。


 この中で進路が漠然としているのは、私だけであることに気づかされた。


 OLになるとは言っても、具体的なビジョンが全く見えてこない。学校行事の一環で、何度か社会科見学に行ったが、どこにもOLらしい仕事がない。探して回ったが、どれも具体的な仕事ばかり。将来をふんわりと考えていた私は壁にぶつかった。


 他のクラスメイトたちは将来の夢を語り合うが、特にこれといった具体案はなく、仲間内で成功したら美味しいものが食べたいとか、豪華な家に住みたいとか、やるべきことをすっ飛ばして願望を述べるだけの会話をしながら、グループリーダーの机を囲んでいる。


 静乃は返事ができない私を気遣い、夏芽と冬美と談笑し始めた。


 私は静乃からの問いに、漠然とした解答すらできないことに焦りを感じた。


 ふと、窓越しに外を眺めながら物思いに耽った。


 外の木に止まっている小鳥は枝や餌を嘴に咥え、空を右往左往しながら巣作りと食い扶持の確保に忙しい。動物は将来の夢を問われることがない。生きること自体が目的だ。人間も生きる以外の行動をしなくても許されればいいのに。人間にとっての餌はお金で、何かしらの手段でお金を稼ぐ必要がある。稼げなければ淘汰される競争社会だ。資本主義の食物連鎖を生き延びる発想など、私にはない。


 私は一体……何がしたいんだろうか。


 駄目だ。また将来のことを考えてしまう。


 段々と、確実に、黙って上の言葉に従うだけで、特に何も考えない労働者としてのマインドを無自覚に植えつけられていた。もちろん、そんな自覚などなかった。何がしたいかなんて、もっと昔の私であればちゃんと言えたはずだが、いつの間にか従うことが当たり前になっていく自分に慣れつつあった。


 プロの概念が存在する職種でやっていける自信はない。


 上には上がいるし、プロじゃなくても、一流じゃなくても許される下請けくらいしか、私にできることはない。いや、できることがないと思わされている。お兄ちゃんでさえ、バリスタという目標が最初から決まっていて迷いがない。早い内から目標がある人は強い。


 お兄ちゃんは道筋に補助線を引くことができる。


 ただ闇雲に突っ込むだけと思っていたお兄ちゃんの方が、私よりも立派に人生を歩んでいる。目標もないまま彷徨っている自分が嫌になってくる。


「ねえ、今日はお父さん帰ってこないから、うちに来てチョコ作ろうよ」

「うん、楽しみにしてる」


 私の本能を呼び起こすかのように、反射的に返事をしてしまった。


 さっきまでの落ち込みはどこへやら。こんな時でもチョコレートだけは手放せない。どんな仕事に就くことになろうとも、チョコレートは我と共にある。嬉しい時も、悲しい時も、私を喜ばせ、励ましてくれたのはチョコレートだ。この時だけは現実を忘れられる。


「璃子って、チョコアート全然作ってないんじゃなかったの?」

「優子さんから余った道具を貰って、家でも作れるようにしたの。ずっと作ってないと腕が落ちるし、休日しか作れないけど、これがあるから楽しんだよね」

「なんか学校にいる時と全然違うね」

「うん、私も同じこと考えてた」


 使い捨ての道具と材料は、優子さんから貰っているお小遣いでどうにかなる。


 積もりに積もった設計図の1つがチョコアートに反映されていく。ホワイトチョコレートで形を整えると、彫刻を彫るように削りを入れた。手伝ってくれている3人は瞬きさえ忘れ、私の作業を見守っている。チョコアートの本で学んだ技術を使い、チョコだけでエトワール凱旋門を作り、パソコンの画像を見ながら細かい造形までを再現した。各部分の彫刻は難しかったが、これをやったら、また1つ上のレベルに上がれると気づいた私の手が……止まることはなかった。


 明確な目標さえ持てれば、どこまでも突き進めるのだが、これではチョコレートを究めたとは到底言えない。プロと呼ばれている人たちは、独自のアイデアを反映させ、作品として昇華させている。私はお兄ちゃんのように、ありもしない存在を空想で作り上げる創造力はない。


 無論、チョコアートを作るだけで飯は食えない。


 常に斬新なアイデアを考え続ける度胸はない。


 ショコラティエは私の憧れだ。しかしながら、私にできるのは模倣だけだ。


 向いていると言えば向いているし、向いていないと言えば向いていない。


「結構小さい凱旋門だけど、彫刻が凄く細かいよねー」

「うん。再現性が高いし、なんか職人みたい。璃子ってこういう仕事向いてるんじゃない?」

「職人技よりも、アイデアを考える能力の方が大事だよ。今まで作ってきた作品は全部現実にあるものがモチーフだし、世界相手に勝てるくらいの作品が作れないと、食べていけないし」

「頂点に立たないと食べていけないこともないよ。それだと、ほとんどの人が食べていけないじゃん」

「まっ、璃子がOLになりたいって言うのも、分からなくはないけどね」


 私を煽てる冬美と静乃を宥めるように夏芽が言った。


 ある症状を抱えてしまった。食えるか食えないかを基準にしてしまっている。ある意味国民病だ。


 お父さんやお母さんが食い扶持を確保するだけでも苦労している光景を見ている内に、生きていく大変さを私は思い知った。一度でも失業すれば、うちの親みたいに過酷で安月給な労働を強いられ、一生齷齪する。このままでは老後も働き続けることは明白だ。


 しかもその頃には、葉月商店街の壊滅も堅い。


 うちの家は生活保護を一度断られている。国は助けてくれない。だったら夢なんて追っている場合じゃない。ショコラティエだって、斬新なアイデアを生み出し、有名になって毎日お客さんが来てくれるような店を出さなければ、生きていくことはできない。食いっぱぐれるのは命を取られるのと同じだ。


「でもさー、手の平サイズのエトワール凱旋門にこんな細かい彫刻を描くって、普通の人にはなかなかできないことだよ。これを優子さんに見せたら驚くんじゃない?」

「そんなことしなくていいの。大したことじゃないし」

「何でそこまで自分を過小評価するの?」

「……私はみんなが思ってるような人間じゃないから。そろそろ帰るね。お疲れさん」

「璃子……」


 肩身の狭さを感じた私は、逃げるように狭山家を立ち去った。


 実際、大したことないのは事実である。みんな明らかに勘違いしている。私は見たものを再現しただけで、技術だって本を通して先人から盗んだだけだ。これくらい誰でもできるし、その気があるかないかの違いではあっても、私個人の適性の証明にならないことは確かだ。大好きなチョコレートを仕事にできたらどんなに幸せかとは思うが、ここでも足が竦んで動けない自分自身に苛立ちさえ覚えた。


 何故模倣はできるのに、自分で考えることはできないんだろうか。勝負事だってそうだ。相手の動きに合わせて戦略を切り替えることはできるが、自ら斬新な戦略を考案し、相手を圧倒するような立ち回りはできない。用いてきた戦略も誰かの模倣で、決して精巧とは言えない。その場を乗り切るだけで、自らを優位にするには至らない付け焼き刃の戦略だ。周囲の馬鹿な人たちの愚かさは底が知れない。


 頭脳だけで周りを抑えるには限界がある。


 本当は……存在感で圧倒できれば、争いなどなくなるのだ。


 腕っぷしの強い男に生まれていれば、もっとうまく立ち回れていたのは間違いない。


 喧嘩が弱いこの体では、無用な戦いを避けるのが精一杯だ。学校での私は立場が強くない。むしろ存在を忘れられつつあるくらいだし、小6の時に至っては、最上位グループの誰からも話しかけられたことがない。存在を認識されなければ、いじめを受けることはない。私の目標は遂に達成された。勝者は誰1人としていない。ただ私の周囲が平穏であるだけ。


 そんな状況下で、自分を押し殺して周りに合わせ続ければどうなるか……。


 やりたいことを言えない、指示待ち人間の完成だ。

読んでいただきありがとうございます。

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