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社会不適合者が凄腕のショコラティエになっていた件  作者: エスティ
第1章 学生編
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2粒目「迷彩戦略」

 7月を迎え、学校は夏休みを迎えようとしていた。


 ペーパーテストは徹底して誰にも見せなかったが、内容はオール満点、私には些か簡単すぎた。


 小1の段階で躓くようでは将来が心配になる。そんな人ほど平気で同級生に点数を見せるのだから驚きだったのだが、お兄ちゃんが言うには、これは二流の考え方らしい。


 ペーパーテストの点数で将来が決まるわけじゃない。だがそれは勉学以外の部分で才能を発揮できる場合の話である。私にその自信はなかった。人一倍勉強したけど、親からはOLになるか、どこかに嫁いで孫の顔を見せることを期待されていた。私は1人暮らしを望んでいたため、花嫁修業という名目で家事を習得していき、お兄ちゃんは自主的に家事を習得した。


 私は女の子だからという理由で、親にやらされる形で始めたが、この違いは大きかった。


 それにしても、もし誰かに点数を知られてしまえば、見せびらかしたわけでもないのに、自慢したかのように語られてしまう。私のすぐ近くにいた女子生徒は満点のテストを見せることを要求され、調子に乗らないでよねと、妬みの言葉を貰うようになってしまった。


 上位グループにいなかったための仕打ちだった。


 学校には『スクールカースト』という身分制度がある。


 主に勉強や運動の成績上位者で、ルックスに恵まれていたり、コミュニケーション能力の高い陽気な性格の人が属する上位グループ。上位グループには及ばないながらも徒党を組み、仲間内でそれなりに温和を保ちながら、なあなあでつるんでいる中堅グループ。


 孤立する者や下手に個性を出す者は、下位グループに属することを余儀なくされ、クラス替えが行われるまでの期間中、もしくは学校を卒業するか転校するまでの期間中、一定確率で理不尽ないじめを受けてしまう。それが多数派ゲームの真骨頂だ。最上位グループの番長はクラスの支配者として君臨し、他の生徒は番長の逆鱗に触れないよう、慎重に立ち回る必要がある。


 声をかけられないよう、普段は本を読んだり、授業で出た宿題をして、声をかけられない雰囲気を作った。何もしていなければ暇そうに見えるため、常に忙しそうな素振りを見せていれば、相手側の心理として、用事の対象から外れやすくなる。


 誰だって手術をしている外科医には声をかけにくい。


「明日から夏休みですけど、ちゃんと宿題もやってきてよ。くれぐれも羽目を外しすぎないようにね」

「「「「「はーい!」」」」」


 斎藤先生から注意事項の説明を受けると、いつもより早く終礼が済んだ。


 1学期はそれぞれが慣れるので精一杯なのか、みんな他のクラスメイトに対しては様子見の期間で、比較的平和な日々を保っていた。こんな状態のまま、無事に卒業することができればどんなに楽かと、当時の私は考えていたが、そうは問屋が卸さなかった。


 クラス内の人間関係がおおよそ固まり、私は適度に馴染む形で最上位グループに入ることができた。身長はクラスで1番低かったものの、女子の平均身長自体が低いためか、誰も気にしていない。運の良いことに、私はセーフティゾーンに入ることができたのだ。


 馴染みすぎず、馴染まなさすぎず、常に中立的に人と接した。彼女たちは本当の友達ではない。いじめから身を守るための盾である。鮫のヒレに掴まってさえいれば、鮫に噛まれる心配はないのだ。特に気をつけたのは自分の位置である。席替えの時は常に最前列以外の端の席になることを祈り、希望通りにならなかった場合は中央席に決まってしまった友達の隣を希望するクラスメイトと席を入れ替える。


 私がいた学校では、くじ引きで一度決まってしまった場合でも、友達と席が離れたり、座高の関係で黒板が見えないために、一度だけ席の交換を認められていた。この時点でくじ引きが意味を成していないことに気づいていたのは、このクラスでは恐らく私だけだろうか。


 立場の強いクラスメイトの正面に立つと、高確率で話しかけられる。


 人の目に映りにくい端っこの席は都合が良い。視界に入らない位置にいれば、それだけでもいじめを受ける確率を下げることができるのだ。通常、陰キャはいじめの対象になるが、存在を認識されない位置にいれば、どんなキャラクターでもいじめの対象からは外れる。


 あえて名前をつけるなら、『迷彩戦略』と言えばいいだろうか。


 本物の陰キャとは、認識さえ免れる忍者のような存在なのだ。


 両手で口を塞ぎながら欠伸をする。既に下校時刻を過ぎ、私は帰宅途中だ。外にいる時はこの時間が最も落ち着く。周りを気にしなくても済む下校時間になってからがお楽しみのチュートリアル。


 1人でいられる時間はとても大切だと思う。この頃の私は自分の部屋が欲しかったが、親が貧困に陥っていることは何となく分かっていて、全く強請ることはなかった。


 お兄ちゃんは自分の部屋が欲しいと強請るばかりだったが……。


 私はお兄ちゃんから度々相談を受けた。どれも聞くに堪えないものばかりで、学校がお兄ちゃんに対して行っている仕打ちは、傍から見ても学校に対して失望するものだ。運動会で勝てなかったことを理由に集団リンチされた話、茶髪であることを理由に何度も難癖をつけられた話、給食を無理矢理食べさせられた話など、クラスで目立つことばかり。


 その場に私が居合わせても、きっと助けることはできない。


 助けた人も一緒にいじめられ、平和を乱されてしまう。勝つためには時として飛車を差し出す覚悟が必要であるように、友達がいじめを受けていても、黙って受け入れるしかないのだ。だから私は友達を作らないと決めた。失って辛い思いをするなら、最初からいなければいい。


「葉月!」


 後ろから少年らしき活発な声が聞こえる。


 まさか声をかけられるとは思っていなかった私の体がビクッと反応した。


 ――欠伸、見られなかったかな。


 恐る恐る振り返った先にいたのは、同じクラスの浅尾蓮(あさおれん)だった。


 保育園時代から出席番号1番。ボサボサの短い黒髪で、いつも教室の廊下側最前列の席でつまんなそうに欠伸をしながら座り、授業中に寝ていることも珍しくないマイペース人間。スポーツは得意だが、勉強嫌いで、いつも教師に対して反抗的、性格は愚直で、どこかお兄ちゃんに通じるところがあった。


 キョロキョロと周囲を確認する。もしクラスメイトがいれば、すぐに距離を置こうと思っていた。


 私が卒業した後のことは知らないが、当時は男女交際を禁止され、異性同士で一緒にいると、不純異性交遊と見なされてしまう場合があるのだ。教師から注意を受ければ目立ってしまう。クラスメイトなら尚更だ。この国で目立つことは犯罪である。みんな死人のように生きている。


 最上位グループの女子たちとは家までのルートが違うため、いつも私が真っ先に離脱するが、これは本当に幸いだった。通学路には長い坂道があり、山を登るように上がっていくと学校が見える。帰りは降りる分楽ではあるが、ランドセルが重すぎて修業のように思えた。


 お兄ちゃんの言う通り、学校が好きなのは、ドMか修行僧なのかな。


 私の兄は校則なんて守らない。いつも当たり前のように置き勉をしているため、ランドセルの中はすっからかんだ。宿題なんて全然やらないし、良くも悪くも恐れを知らない。お兄ちゃんは学校の勉強が将来役に立たないことを逸早く見抜き、自分のやりたいことばかりを優先させていた。


 浅尾君が手を振りながら私との距離を詰めてくる。


「浅尾君……どうしたの?」

「葉月ってさ、いつも誰かと一緒にいるよな」

「そりゃ友達がいないと恥ずかしいから」

「それは嫌味か?」

「あくまでも学校内だったらの話。浅尾君は友達いないの?」


 いつも孤立していることを気にかけていた私は、思い切って浅尾君に尋ねてみた。


「いねえよ。だってつまんない奴ばっかりじゃん。毎日似たような話題ばっかりだし、朝は眠くて授業どころじゃねえからさ、家で寝てる方がずっとマシだ」

「ふふっ、なんかお兄ちゃんみたい」


 つい笑ってしまった。奇しくも私と同じことを浅尾君も思っているようで、学校は子供でも分かるくらいに退屈すぎる場所だった。当時はインターネットが一般に普及しておらず、ホームスクーリングという選択肢はなかった。閉鎖的な島国根性がまだまだ根強かった、20世紀末前後の話だ。


 我ながら恐ろしい時代を生きていたと思う。


 たった1つの学び方しかない状況に、不平不満を声なき声として持っていたのが私だけではなかったことに、密かな安心と共感を覚え、両手でランドセルの肩ベルトを強く握りしめた。


「お兄ちゃんがいるのか?」


 ……しまった。私に兄がいるのは秘密だったのに。


「あー、えっと、一応ね」


 何で誤魔化してるんだろ。まあでも、あのお兄ちゃんを見たらドン引き間違いなしかも。


「ちょっと寄り道しようぜ」

「寄り道って、後で親に怒られるよ」

「俺はいつも怒られてるから大丈夫だ」


 全然大丈夫じゃないんだけどなー。浅尾君は教師にとっては問題児で、クラスからは孤立している。他にも孤立している人はいるから孤独ではない。とはいえ話すのは最小限にしたい。


 私は1つ重大な問題に気づいてしまった。クラスとは陣取りゲーム。クラス替えが行われない限り、他の陣営と仲良くすることはできない。複数の陣営を持つことは裏切りと見なされるからだ。現に一度固まった相手以外と友達になるケースは滅多にない。


 流石に弱気すぎるだろうか。でも私は平和を愛してやまない。


 もっとも、チョコレートに対する愛には到底及ばないが……。


「ほらっ、一緒に行こうぜ。家教えろよ」


 浅尾君が私の小さな手を引いて走る。


「えっ、ええっ!」


 いつもとは違い、通学路を無視しながら街の中を駆け抜けた。こんなところをクラスメイトに見られたらどうしようと考えるだけで、心臓の音がバクバクと体内に響く。


 連れて行かれたのは、実家のある『葉月商店街』だった。


 後にしくじり都市と呼ばれることになる岐阜市は、徐々に衰退の一途を辿っていた。バブル崩壊を皮切りに、常にシャッターが閉まっている店舗が増えてくると、単なる通り道としてしか使わない人が店の前を通る度に殺風景が漂い、やがて通り道としてさえ使われなくなっていく光景を私は目撃した。


 肉屋、魚屋、八百屋、飲食店が点在しているが、近所に大きなスーパーが建ってからは一括で買い物が終わる利便性も手伝い、商店街にとっては更なる向かい風となっていた。


 商店街に住む人たちはみんな私の知り合いで、私が生まれてから今までのことを一通り知っている。お兄ちゃんは茶髪で女子っぽい見た目ということもあってよく目立つ。


 お兄ちゃんが周囲の目を惹きつけてくれるお陰で、私は全然目立たない。


「ここは通学路じゃないけどさ、通り抜けた所に家があるから、いつも近道でここを通るんだよ」

「私の家、ここにあるの」

「えっ、葉月の家が?」

「ほら、あの家」


 肉眼で見えるくらいの距離にある建物を指差した。


 2階建てではあるが、そこまで広くはない。2階には私とお兄ちゃんの部屋があり、所狭しと畳まれた敷布団が置かれている。1階はキッチンのすぐそばに畳の部屋がある。


 お兄ちゃんがどこからかコーヒーを買ってきては、いつもここに溜め込んでしまっている。お兄ちゃんは超がつくレベルのコーヒーオタクで、近所でも学校でもコーヒーの趣味を公表するほどだ。私自身はコーヒーを飲むことはあまりないが、様々な種類のチョコレートを食べては味を評価している。


「あー、ここに住んでたのか」

「どうでもいいけど、今日一緒に帰ったことは内緒だよ。異性同士で登下校するのは校則違反だから」

「律儀だな。まあいいや、じゃあな」


 駆け足で浅尾君が商店街を離れていく。浅尾君の家は商店街を通り抜けた先にあり、集団登校の時は商店街を通らないため、遠回りのような登校に苛立っていたという。


 葉月商店街は、私のおじいちゃんが昭和中期から仲間を募って始めた商店街で、戦後にできたのか、どこにも傷跡らしきものはない。月に一度、季節に沿ったイベントが行われ、その時だけは一時的に多くの客が訪れるが、それでも状況的にはかなり厳しい。


「おかえり」


 台所で味噌汁の葱を切っているお母さんの声が聞こえる。


「ただいま」


 淡々と返事をすると、手洗いとうがいをしてから冷蔵庫を調べる。


 うちの経済が潤っているかどうかは、冷蔵庫の中を見ればすぐに分かる。不況になるほど、保存食の割合が高まっていく。中に何か入っていればまだマシな方で、酷い時はすっからかんになることも少なくない。だがそんな時でも必ず確保しているものがある。


 奥の方に眠っている冷え冷えのチョコレートを手に持ち、すぐ2階へと上がっていく。


 お兄ちゃんはまだ帰っていない。


 小1はすぐに下校できることが多いものの、授業時間が増えるにつれて段々と下校時間が遅くなっていく。冷えた銀色の包み紙を破ると、中から板チョコが露わになる。板チョコは彫りが深く薄い箇所を指でちぎって食べることが主流みたいだが、私はそんなことはせず、いきなりかぶりついた。歯でカプッとへし折ると、バリバリ音を立てながら咀嚼し、口の中に甘味が広がっていく。


 この瞬間こそ、私の子供時代における数少ない『至福の一時』だった。


 ――美味しい。この味わいが、この時間が、ずっと続けばいいのに。


 しかし、残酷にもチョコは飲み込まれ、段々と味がしなくなっていく。最後に残ったほろ苦いカカオもまた、チョコの味の一部だ。これはこれで美味しい。家系なのかどうかは知らないが、うちの家族は苦味に対して滅法強い。お兄ちゃんは食育指導の影響で野菜嫌いとなったが、苦味自体は平気である。


「ねえ璃子、今空いてる?」


 私よりもずっと年上の女子が声をかけてくる。


 柳瀬優子(やなせゆうこ)さんは葉月商店街の洋菓子店、『ヤナセスイーツ』で親の手伝いをしながらパティシエを目指している女子中学生で、私はヤナセスイーツの常連である。


 黒いミディアムヘアーと陽気な性格、スラッとした背丈でスタイルも良く、出会った時から私の憧れの人だ。商店街チルドレンのリーダーでもあり、私がヤナセスイーツに遊びに行った時は、余ったスイーツをご馳走してくれた。時々新作を試食させてくれて、優子さんがうちに遊びに来ることもあった。


「空いてますけど」

「じゃあ一緒に遊びに行こうよー。みんな公園に揃ってるから」

「……は、はい」


 渋々了承すると、ピンク色の靴を履き、外で待つ優子さんと手を繋いで歩いた。


 優子さんの手の平はいつも冷たい。そのお陰なのか、スイーツの素材に触れても、温めてしまうことがないのだ。冷え性なんだろうかと思いながら、温めるように強く握った。優子さんが笑いながら私の顔を見下ろすように歩いていると、すぐ公園が見えた。


 商店街の近くには大きな公園がある。


 誰かに誘われる度にここで遊ぶわけだが、ここにも学校と同様、暗黙のルールが存在する。


 趣味の話はしない、基本同性同士で遊ぶ、人がいない場所を選ぶ、午後5時を迎えたら帰宅。鬼ごっこや隠れんぼなどの遊びは公園の中のみといったルールだが、男子が頻繁に破るから困る。夏場は日光が肌を直撃するし、私のように繊細な女子にとっては天敵の季節だ。


 私はどこへ行くにも必ず怠らない流儀がある。空気と同化することだ。


 お兄ちゃんは公園でも茶髪や拘りや中性的な外見をいじられていた。最終的に孤立してしまい、公園では一切遊ばなくなった。この失敗例から学んだ私は、みんなの感覚からずれてしまわないように振る舞った。私はこの歳にして、日本社会の構造を学んだのだ。


 この国では常に多数派ゲームが行われている。多数派に属すればセーフとなり、少数派に属すればアウトとなり、落とし穴に嵌ってしまうのだ。趣味の話でさえ、ほとんど誰も認識していないようなシェア率の低い趣味を暴露すれば、漏れなくいじめの対象として爪弾きにされる。変な人のレッテルを張られたら即詰みとなり、これを原因とした転校や転職も珍しくない。


 趣味の話をしないルールは優子さんが考案したもので、主にお兄ちゃんのためである。


「璃子ちゃんって、クラスに好きな人とかいるの?」

「いません。男女交際禁止なので」

「気になる子とかいるんじゃないのー?」

「いないと駄目なんですか?」

「駄目ってわけじゃないけど、青春を過ごせるのは今だけだよ」


 悟りを開いたように優子さんが言った。


 青春は今だけ……か。その通りかもしれないけど、私はどうすればいいか分からない。


 人づき合いは面倒だが、大抵は天気の話か景気の話をしていればやり過ごせる。これはお母さんの行動から学び取ったもの。お母さんが若い頃は、今よりも女性の生き方の選択肢が少なかった。お母さんはパティシエになって店を開くために就職を目指したが、女性というだけの理由で就職を断られた。


 お見合い結婚がとどめとなり、結局夢は諦めた。


 そんな私にとって、青春は呪いでしかない。優子さんは迫り来る猶予期限を予感していた。この時代の女性は10代までしか思い通りに生きることができなかったのだ。


 公園が見えてくると、優子さんに手を引っ張られながら横断歩道を渡る。


 滑り台、ジャングルジム、登り棒、ブランコといったカラーリングされた遊具が一定の距離毎に立ち並び、学校から帰ったばかりの子供が早くも遊具を占拠している。公園の端にはママ友が佇んでおり、子供たちを見守りながら世間話に明け暮れていた。


 できることならつき合いたくはないが、優子さんにはいつも世話になっているから断れない。


 外に出れば多くの危険と隣り合わせ。特に警戒している相手は世間。今お兄ちゃんを最も蝕んでいる目には見えないモンスターだ。だから私は家に引きこもりたい。誰とも会うことなく、家で好きな仕事をして、好きなチョコレートを食べたらどんなに幸せだろうか。


 私は優子さんが誘った商店街の子供たちを集めると、早速鬼ごっこを始めてしまった。


 いつの間にか、私も入れられてしまった。拒否権はないらしい。


「璃子ちゃ~ん。待ってぇ~」


 男子が執拗に追いかけてくる。私はなりふり構わず全速力で逃げた。段々と息が切れてくる。近くに女子がいるが、まるで私しか目に入っていない。


「タッチ!」


 体力の差で距離が縮まり、私の視界に男子の手が入ってくる。


 背中にタッチするかと思えば、男子は私に抱きついてきたのだ。


 この時、私はちょっとした違和感を持った。男の子が鬼になった時に限って、わざわざ最も遠くにいる私ばかりを狙ってきたのだが、意味が全く分からなかった。他の女子たちは呆れ返って走ることをやめてしまったばかりか、男子たちに悪態をつくようになる。


 優子さんの配慮で、鬼は最も近くにいる人を狙わなければならないというルールが追加された。


 私は知らなかった。男子たちの間で、密かに人気があるということを。

読んでいただきありがとうございます。

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浅尾蓮(CV:石川界人)

柳瀬優子(CV:中原麻衣)

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