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社会不適合者が凄腕のショコラティエになっていた件  作者: エスティ
第1章 学生編
13/70

13粒目「セーフティアベレージ」

 放課後、私はピンクのランドセルを背負い下校する。


 お兄ちゃんとランドセルを交換していたら、今頃は私が生け贄になっていたに違いない。


 お母さんはそれを察知していたのだ。お兄ちゃんだけでなく、私に対するいじめを回避するためだ。具体的に言い表すことはできなくても、学校は多数派ゲームであることを無意識に理解している。私が青色のランドセルを背負わなかったのは、結果的には正解だった。


 女子たちが何故赤系の色でランドセルを統一しているのかがよく分かった気がする。水筒に筆箱に至るまで、全部ピンクか赤に染まっている。


 学校の外で弱々しく歩いている静乃を私の目が捉えたが、全くと言っていいほど覇気がなく、落ちこぼれを見ているかのようだ。あの一件で静乃は髪を黒く染める破目になったわけだが、一体どうするつもりなのか、少しばかり気になってしまった。


 目で追いながら静乃の後をついていく。


 静乃が入ったのは、外から透けて見える外観の路地に建っている美容院だった。


 しばらく立ち止まりながら静乃を観察していると、静乃の髪が徐々に真っ黒に染まっていく。実に恐ろしい光景だ。世間が欲したのは、ありのままの静乃ではなく、ごく普通の日本人であることを私は痛感する。意図せずとも学校が望む姿に作り替えられていく静乃を見ていられなかった。


「どうした?」


 私の真後ろから不意に男子の声が聞こえた。


「浅尾君っ!?」


 脊髄反射で後ろを向くと、そこにはつまんなそうな顔でポツンと佇んでいる浅尾君の姿がある。


「そんなに驚くことねえだろ」

「あのさ……さっきのことなんだけど、あれを見て」

「あー、最近できた美容院だな。それがどうかしたか?」

「そうじゃなくて、あの中で静乃が髪を黒く染めてるの」

「中津川が?」


 目を大きく見開いた浅尾君が美容院の中を凝視する。


 沈んだ横顔の静乃が美容師と話しながら席に着いている。


「あのろくでなしのせいだ」

「荒井君のこと?」

「ああ。さっき男子から聞いたけど、試合で負けたら髪を黒染めにするって約束をさせられてた」

「酷いことするね」

「見て見ぬふりしたのにか?」


 痛いところを突いてくるなぁ~。でも正論だから仕方がない。


 いじめも悪いけど、事実上見捨てた私たちも全員同罪だ。お兄ちゃんの言葉を借りるなら、理不尽を見過ごすような人間は、理不尽な目に遭っても文句は言えない。


 だからお兄ちゃんは理不尽に対して真っ向から立ち向かうし、誰かが理不尽な目に遭っていれば通報くらいはするが、ほとんどは意味を成さない無駄な抵抗だ。お兄ちゃんがそれを理解しつつも行っているのは、自分が理不尽な目に遭った時、堂々と文句を言うためだ。


 常に本音で生きることを望む人間にとっては、さぞ生き辛い環境だろう。


 引きこもりが一定数いるのもよく分かる。


「分かってると思うけど、あれは私の手に負えない。助けたとしても、被害者が増えていただけ。でも夏芽を助けてくれたことには感謝してる」

「狭山と仲良かったっけ?」

「みんなには内緒にしてるけど、夏芽とは結構仲が良いの」

「まっ、荒井の奴も、中津川が黒染めしたことを知れば、当分は手を出してこないだろうけど、テニスクラブに入るなんて、葉月らしくないな」

「私らしくないって、どういうこと?」

「葉月だったら、料理クラブにでも入って、穏やかな女子たちと一緒に過ごすもんだと思ってた」


 ……私の思考を全部読まれてる。浅尾君、やはり只者じゃない。


「結構見てるんだ」

「いつも立場の強いグループに取り入ってるけど、学校の外にいる時の葉月とは全然違うと思ってさ。なんか自分を押し殺して周りに合わせて縮こまってるけど、そういうのって楽しいか?」

「楽しいかどうかの問題じゃないよ。無難にやり過ごしたいだけ。まあでも、あれだけ人がたくさんいる中で過ごす経験って、多分学生の時期ぐらいだから、新鮮ではあるけど……私には窮屈すぎるかな」

「――俺もその気持ちはよく分かる」


 静乃の姿を眺めながら、心配そうな顔で浅尾君が言った。


 浅尾君はこっち側だ。端っこでのんびりしているかと思いきや、私の存在をしっかりと認知していたのだ。浅尾君だけは絶対敵に回したくないが、浅尾君自身は誰とも争いたくはないらしい。


 私は人と喧嘩したことがないし、正面からまともにぶつかり合ったこともない。自分の意見を主張する場合、自分よりも立場が強い人を味方につけて、味方に主張してもらう方法を採ってきた。これなら何かあっても自分に火の粉が降りかかることはないし、うまくいけば労せずして主張を通せる。現場で戦うよりも、安全な場所から采配する方が私には合っているらしい。


 ――だがそれは……臆病者の選ぶ道。そんなことは分かっている。


 しかしながら、生き延びてきた人間の多くは、臆病で戦おうとしなかった人間ばかりだ。戦って死んだ人間が子孫を残せる確率が低いことを考えれば、今生きている人類の祖先は臆病者ばかりと言える。臆病な立ち回りこそが正しい戦略であることを意味している。普段は極力戦わないことに尽力し、戦いになってもあまり戦わず、機を見て退却する傭兵のような生き方が悪いとは思わない。


 恐らくそれが普通の生き方じゃなかろうか。だからこそ誰もが思いつかないことを思いつける人や、誰もがやりたがらないことに挑戦できる人は、それだけでも十分な価値があるのだ。


 静乃が美容院を出たところで浅尾君と別れ、家に帰宅する。


 その後、髪色をガラリと変えた静乃を前に、生徒たちは驚きの反応を隠せなかった。地毛証明書も提出しているわけだから、多少のストレス耐性があれば、後は浅尾君を盾にして過ごしていれば、染髪する必要など全くないのだが、静乃なりに考えた結果なんだろうか。


 以前のような陽気で明るい性格は鳴りを潜め、あまり人と喋らなくなった。


 以降、クラブ活動では特に大きな問題は起こらなかった。


 しかし、一難去ってまた一難と言うべきか、また新たな問題に直面することとなった。


 月末が近づいた頃、朝の会で白川先生の口から衝撃の発表が行われた。


「月末には、皆さんがきちんと学習できているかどうかを測るために総合テストを行いますが、今年からはルールが変わります。今まではテストの点数を公開しませんでしたが、今年度からは、全ての生徒の成績を公開することになりました」

「「「「「えええええぇぇぇぇぇ!」」」」」


 当たり前のように白川先生が告げると、箱が爆発するようにクラス中が絶叫する。


 非常にまずいことになった。このクラスには自分よりも優秀な成績の生徒を嫌う渡辺君に加え、成績の悪い生徒を積極的にいじめる岩城さんまでいる。この2人のどちらかに目をつけられたら最後、クラスが変わるまでは徹底的ないじめを受けることになる。荒井君よりは格が下がるが、渡辺君も岩城さんも天敵がいないクラスでは最上位グループを形成できる程度の力は持っている。静乃に対してはある程度の同情が集まってるし、これ以上の迫害を受けることはないが、冬美は成績優秀だ。最上位グループにいるとは言っても、どちらかと言えば、私と同様に下っ端の立場だ。


 いつも通り満点を取るわけにもいかなくなった。


 私は小3までは満点しか取っていない。授業の内容があまりにも簡単すぎて、欠伸が出そうになるほど簡単であることがここに響いている。かつては満点のテストを取った唯一の生徒として名前を明かされそうになったのだが、その時は夏芽に助けてもらった。しかし、その夏芽もここにはいない。今日中に全学年の生徒が驚いたことだろう。白川先生が言うには、成績向上のためなんだとか。


 だがこれだけで全員の成績が良くなるかと言えば、答えはノーだ。


 勉強が得意でない生徒は、毎月屈辱を思い知ることとなる。しかしながら、満点を連発するようなことがあれば、成績の悪い生徒からの嫉妬を買う。


 小テストは点数非公開だが、迂闊にも見せ合いっこで、渡辺君よりも高い点数を渡辺君に見せてしまったクラスメイトが殴る蹴るの暴行を受けた。点数の低かった生徒は岩城さんから度々嫌味を言われ、仲間外れにされてしまったり、答案用紙をクラスメイト全員に公開されたりと、精神攻撃を受けてしまっていた。このクラスで点数を全て公開されるということは、上位や下位の点数を取ってしまったクラスメイトは、漏れなく最上位グループからの壮絶ないじめを受けることを意味していた。


 私も最上位グループではあるが、あくまでも属国的な存在であり、強い立場ではない。私もいついじめの対象になってもおかしくはない。


 ――総合テスト当日――


 全員に2枚のプリントが配られ、表裏がびっしりと書かれている。


 配点を確認しながらテストをこなしていく。


 私は席替えにより、窓際1番後ろの席を確保した。1番後ろの人はテストを回収する立場だ。他の生徒に自分の答案用紙を見られることはない。最初の席替えからずっと最後の席を確保し続けることで、私は他の生徒にテストの答案用紙を見られずに済んでいるばかりか、私が他の生徒の答案用紙をチラ見して、おおよその暗記力の高さを見極めることもできる。


 成績の良い生徒と成績の悪い生徒の差は明らかだ。途中式すら書かないし、空欄もざらである。記号問題は全部埋まっているが、回答を見れば勘で当てようとしていることがよく分かる。


 国語の問題はいつも通り、習っていない漢字は使わず、ひらがなを漢字で書く問題を終わらせ、応用問題に差し掛かった。私は基礎問題こそ解けるが、応用問題は苦手なキャラクターを装った。配点を見ながら応用問題をわざと間違えた。出たばかりの社会や理科の問題を中心に、私は半分近くの問題に()()()()()()を書いた。


 誰でも正解できそうな問題には正解の回答を記入し、ちゃんと勉強している優秀な生徒なら正解できる問題は惜しい回答を書いた。テストを受けるというよりは、普通の生徒の答案を作るような感覚で全ての問題を解いていたが、本来の趣旨とは完全に異なっているのは、自分でも滑稽だと思う。


 配点の通りなら、恐らく60点前後の点数になっているはず。


 何も満点を取ることだけが正解ではない。過不足のない生徒である方が、無難にやり過ごせる確率が高い。特に最上位グループを牛耳るあの2人に目をつけられないようにするのであれば尚更だ。


 上位になっても下位になってもいじめられるのであれば、平均点を取ればいい。


 平均点であれば、がり勉が調子に乗っているとも、頭が悪い猿とも思われない。最初こそ50点台を狙おうと思ったが、文字に難癖をつけられた場合による減点や、惜しい回答をした場合の部分点などを想定し、60点になる程度に、保険で正解数を増やした。


 鉛筆を持っている私の右手がプルプルと震えている。


 いつもなら答案を埋めるだけの簡単な作業なのに、これほどのスリルを味わうとは思わなかった。


 平均点を取るのは、ある意味では満点や0点を取るよりも難しい――。


 5月を迎え、テストが返却された。


 昼休みには廊下の掲示板に各クラスの生徒名と点数が公開され、点数の高い順にびっしりと並べられていた。1番上と1番下は特に目立つ。つまり真ん中を狙えばいい。平均点と5点差以内の誤差であればセーフティアベレージだ。平均点でいじめられた例は聞いたことがない。


 普通であれば許される。だがそれは普通と見なされなかった場合は許されないことでもある。


 誰に断って普通の範囲から抜け出せばいいのか、私には分からなかった。


 廊下の掲示板をよく見ると、最上位グループにいる人たちは、軒並み平均以上の点数だ。


 私の点数は――あった。64点。平均点は59点。ギリギリではあるが平均点だ。


 それにしても、あんな簡単な問題ばかりなのに、平均点が低すぎる。


 どちらかと言えば、レベルの低い生徒に合わせている問題ばかりだ。学校としては落ちこぼれを出してはいけない方針なんだろうが、私には物足りなかった。


「おい、お前調子乗ってんじゃねえぞ!」


 渡辺君の声が教室から聞こえてくる。


 矛先を向けられていたのは冬美だった。


 冬美は迂闊にも満点を取ってしまった。クラスでたった1人の満点だ。もし私がこのクラスの法則を知らなければ、冬美の隣に私もいただろう。だが助けることはできない。冬美は渡辺君の犠牲になってしまった。浅尾君は運動場に遊びに行ってるし、止められる人がいない。


「別に調子になんか乗ってないけど……」


 弱々しい声で冬美が言い返した。


 完全に狙いを定められてしまっている。


 渡辺君に同調する生徒も数人ほどいる。いずれも最上位グループにいる者たちばかりで、多勢に無勢である。部外者は見守ることしかできない。しかも最上位グループにいない生徒までもが羨望の目を向けられ、クラス中にロックオンされてしまった。冬美は世間を敵に回した。


「そんな簡単な問題も解けないなんて、学校に来てる意味ないんじゃないの?」


 一方、岩城さんは、成績が悪く、気の弱い生徒に八つ当たりをするように暴言を捲し立て、生徒たちは滅入ってしまっている。どっちも味方を引き連れ、相手を選びながら数の暴力で押し潰すように責め立てる。しかも担任がいない時を見計らっての計画的犯行だ。


 やはり私が思った通り、成績が極端な生徒が狙われた。


 無論、担任はこんなことなど知りもしない。誰かが告げ口なんてすれば、告げ口した生徒が担任の口から暴露され、次に赤札を張られてしまうことを知っているが故に、誰も動けない。集団が相手では、浅尾君でさえ敵わないし、やはりロクなことにはならなかった。


 月末の総合テストは事実上の公開処刑だ。しかもこれが毎月のように続く。


 優等生も劣等生も損をするテストでしかなく、平均点を取ってやり過ごしている生徒も、上振れや下振れが出てくれば、地獄を見ることになる。冬美に赤札が張られてしまった以上、私はしばらくの間、冬美に近づくこともできない。教えておけばよかったと、今更ながら後悔する。


 下校時刻を迎え、私は1人で帰宅する。


 誰かと一緒に帰ろうという気は起らなかった。


 下校なら1人で歩いていても不思議に思われない。結局最後に散り散りになる。


 あの狭苦しい威圧感が支配する教室にいるだけで……息が詰まるよぉ~。


「はぁ~」


 思わず息を吐いた。私はいつまであの空間に耐えなければならないのだろうか。


 いじめられっ子の苦しむ姿を見ている内に、私まで気が滅入ってしまう。あの昼休みだけでドッと疲れた。数日ほど休みが欲しい。私はあんなものを毎日見せられるために通学しているのではない。通学すればするほど目的が分からなくなっていく。私は一体……何のために通学しているのだろうか。


「なあ、さっきの総合テストだけどさ……」


 唐突に浅尾君が話しかけてくる。


「どうかしたの?」


 ピタリと足を止め、後ろを振り返った。


「いつもの璃子だったら、満点取れてたんじゃねえの?」


 ――! 何でばれてるの? 私はみんなにとって、ごく普通の女子のはず。


 テスト点なんて全然公開したことないし、私が満点を取ったことを知っているのは夏芽だけのはず。


「満点なんて取ったら、冬美と同じ目に遭っちゃうでしょ」

「藤倉がどうかしたのか?」

「……冬美が満点を取ってしまったせいで、みんなからいじめられてるの。点数が悪かった人たちも」

「だから点数を加減したのか?」

「何で加減した前提になってるの?」

「この前職員室に行った時、たまたま先生が小テストを採点していて、丁度葉月の答案用紙が見えた。小テストが全部満点だった葉月が、あんな点数を取るのはおかしいと思ったんだよ。もっとも、先生は気づいてなかったみたいだけどな」

「今年からは平均点を取るのが正解になると思うよ。じゃないとほら、あんな風になる」


 私が首を向けた先には冬美が俯きながら1人でとぼとぼ歩いている。あの光景を見せしめのように浅尾君に見せながら告げると、浅尾君は歯を見せながらクスッと笑った。


「随分とつまんねえこと考えてんだな」

「だっていじめ受けたくないじゃん」

「今俺と話してる時みたいに、平然と言い返せば済む話だろ」

「それだと相手を怒らせちゃうでしょ。気の知れた相手と2人きりで話すならともかく、話の通じない人たちは力づくで言うことを聞かせるか、二度と会わなくなるまで誤魔化すしかないの。じゃあね」


 浅尾君は思ったよりも鋭いところがある。あの様子を見る限りだと、告げ口をする気はなさそうだ。


 ――それにしても、夏芽を陥れようとしている裏切り者を早く特定しないと。


 もしこの問題を野放しにすれば、裏切り者がいつ私に手を出すか分からない。矛先が夏芽に向いている内に解決しなければ、私に矛先が向いた時、誰にも助けてとは言えなくなる。


 数日後――。


 冬美は最上位グループから離脱し、クラスの誰とも話さなくなった。実に不憫である。


 私は冬美の苦難に対し、人知れずシンパシーを感じていた。


 シンパシーとは苦しむことを意味する。


 シンパシーを感じるとは共に苦しむことだ。どうやら私には、相手の苦しみを自分の苦しみとして背負うくらいの行き過ぎた感受性があるらしい。何と辛すぎる特性だろうか。いじめられっ子と同じ気持ちになってしまうのは、私も一緒にいじめられているようなものだ。


 ならばいっそ、感情なんて捨ててしまいたい。


 でもそれならロボットでいい。人間である意味がない。


 いじめなんて――なくなればいいのに。


 ――あっ、そういえば、冬美の家は確か居酒屋だ。


 冬美の家には何度か行ったことがある。冬美が風邪で休んでいた時、私が担任から頼まれ、家まで連絡用プリントを届けに行ったこともある。古風な居酒屋で、所々に煤汚れが目立つ場所だ。近所に住む常連たちが、いつも夕方からやってきては、ビールや日本酒を飲み干し、肴を食している。


 葉月商店街を通過していく冬美の後を追い、一度帰宅する。


 冬美はこの場所が近道であることを知っている。


 家にランドセルを置き、すぐにまた冬美の後を追った。私服姿は目立たないし、体が小さいお陰か、人の目に入る機会も少ない。その他の外見的特徴は、至って普通なのが幸いだ。葉月商店街の周辺を歩きながら商店街を抜けると、普段はあまり見ない光景が広がった。


 どうやらオフィス街に出たらしい。


 何度か見たことはあるが、スーツを着た大人ばかりが通る道で、完全に場違いだ。私と距離が離れていた冬美が信号に足止めされている。家の前の信号を渡ると、突き当りの角を曲がった。


 見失った冬美を追いかけようと、私も突き当りの角を曲がるが――。


「一体どういうつもり?」


 曲がったすぐ先には冬美が腕を組みながら待っていた。


「あはは、ばれてたんだ」

「さっきそばを歩いている人が、あの子供可愛いって言ってたし、ここらでうちの学校の生徒って結構限られてるし、私が思いつく限りだと、璃子しかいない。で? なんか用?」


 淡白な目をこっちに向け、冬美がめんどくさそうに言った。


 流石は満点を取るだけのことはある。周囲の状況の変化には敏感だ。


「……どうしても言いたいことがあって」

「ふーん、じゃあうちに入って。ここうちだから。立ち話もどうかと思うし」

「うん、ありがとう」


 ガラガラと音を立てながら引き戸を開けると、当たり前のように中へと入っていく。


 私は案内されるまま、気配を消しながら冬美の後に続いた。

読んでいただきありがとうございます。

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