10粒目「潜伏する悪意を探して」
江藤君が言うには、先週の夏芽が珍しく学校を休んだ時、夏芽の家を訪問した。
宿題が書かれたプリントを渡すために江藤君が夏芽を呼び出すが、夏芽本人は現れず、代わりにハウスキーパーが現れ、プリントを受け取った。受け取ったのは恐らく瑞浪さんだ。
プリントを渡した後、江藤君は好奇心から庭の中をチラッと覗いた。江藤君が見たのは、コスプレ衣装を着用し、百合園にいた夏芽だった。江藤君は迂闊にも人のプライベートを見てしまったのだ。
通常は誰かの趣味を知ったところで、黙っておくのがマナーではあるのだが、あっさりと暴露してしまう不届き者もいるため、ありきたりでない趣味を明かしてはいけない。学校を休んでいた夏芽がコスプレ姿のまま百合園にいたのは不可解だが、ただのサボりでないのは確かだ。
普段の夏芽は多少調子が悪くても、当たり前のように登校する。
とりあえず夏芽に聞いてみよう。
昼休みになると、私は体育館裏に夏芽を呼び出した。
違うクラスであるため、体操服の上から来ているゼッケンの色が異なる。
私は水色で、夏芽はピンク色。奇しくも私たちが好きな色だった。夏芽は体育館裏の壁に背中をもたれさせ、風が長い髪を靡かせている。
最初こそ余裕の顔だった夏芽の表情が、話を進めていく内に、段々と青褪めていく。
「えっ……それ本当なの?」
「うん。江藤君はつまらない嘘を吐くような人じゃないし、コスプレの趣味を持ってるっていう噂を広められるのは時間の問題だと思う。そもそも何で先週学校を休んだの?」
「……お母さんの命日だったから……この日だけは特別に休むの」
あぁ~、そういうことかぁ~。
しかし、夏芽は悲しい顔どころか、むしろ清々しい表情だ。
「実は今日、あたしの誕生日なの」
「えっ、今日夏芽の誕生日だったの?」
「言ってなかったっけ? お母さんはあたしを生んだ直後に死んだから、お母さんの命日でもあるの」
「……ごめん。辛いことを思い出させるつもりはなかったの」
「気にしないで。わざとじゃないことくらい分かってるって」
「えっと……誕生日おめでとう」
「ふふっ、ありがとう」
ニコッと笑いながら、夏芽が私の体を抱擁する。
私よりもずっと背が高くて腕も長い夏芽は、いとも簡単に私の全身を覆ってしまった。
クラスメイトの誕生日は教室の後ろに全員分が張り出されているが、私はかなり薄い字で書いた上で端っこに貼りつけているため、特に言及されたことはなかった。私の誕生日は夏休み直前で、みんな夏休みのことしか頭にないため、特に話題になることはない。
日本には空気反逆罪だけでなく、『顕著注目罪』というものもある。文字通り下手に目立つこと自体が事実上の犯罪であり、社会的制裁を受ける破目になる。少数派に属することも顕著注目罪の範疇だ。笑い者にされていじめのきっかけになったり、次の日から変なあだ名をつけられたりする。
法律上明文化されていないルールは戒律として機能し、多くの人々を縛っている。
自分から誕生日なんて言った日には目立ってしまう。プレゼントをくれる人もいるだろうが、その場合は相手の誕生日にお返しをする必要が出てしまう。余計な面倒事を防ぐ意味でも、誕生日は絶対に言わない方がいい。夏芽は私にだけは自ら明かしてくれた。不可侵条約が見事に効いている。
「コスプレをしていたのはどうして?」
「あー、お母さんにコスプレ姿を見せてあげたかったの。遺骨はないけど、百合園はお母さんの墓でもあるの。でもまさか、百合園にいるところを見られているとは思ってなかった。瑞浪さんが言うには、プリントを届けに来てくれたのは5人で、1人だけプリントを渡すために玄関まで入ってもらったの。多分、その時に見られたのかな。うっかりしてた」
不安げな顔を空に向けながら夏芽が言った。
「――江藤君には口止めしておいたけど、しばらくは気をつけてね。何か分かったら報告する」
「うん。頼りにしてる。ほーら、早く行った行った」
手の甲を見せながら追い払うような仕草を見せる夏芽。
言われるがまま運動場に戻ると、数分もしない内に、夏芽も何食わぬ顔で運動場へと戻っていく。
私と夏芽の席位置は少しばかり離れている。クラスメイトと仲良しそうに話してはいるが、不穏な表情は全く見せないあたり、どうやら大丈夫そう。
夏芽のコスプレ姿を見たクラスメイトは、まだ夏芽の趣味を全員には暴露していない。噂が流れているなら、とっくの昔に問い詰められているはず。夏芽自身が知らないということは、まだ問い詰められてはいないということであり、事態はそこまで深刻ではない。
あくまでも噂程度にしか思っていない上に、クラスメイトですらない江藤君に犯行は不可能。江藤君が夏芽の情報を知る方法は限られている。仮に生徒の1人が夏芽の情報を探っていた江藤君に、噂を装って情報を売ったと考えれば、全ての状況に対して説明がつく。
もしそれが本当なら、そこから導き出される結論は1つ。
夏芽の知り合いの中に……裏切り者がいる。
それも、夏芽に対してかなりの悪意を持つ生徒だ。すぐには公にせず、あえて江藤君にだけ教えていることからも、その狡猾さが見て取れる。
ふと、私の脳裏に途轍もなく嫌な予感がよぎる。
――ん? そういえば江藤君、何か重大なことを言っていたような。
ハッ! 確か夏芽の誕生日、みんなの前で告白するって言ってた。
今日は夏芽の誕生日当日。もし江藤君がそのつもりなら……かなりまずい。
私がこのことに気づいたのは、昼休みが終わり、運動会が終盤に差し掛かっている頃だった。食後なのか、みんなさっきよりも若干動きが鈍っている。私はこうなることを予想して、食べる量は控えめにしていた。豪華な弁当箱を親に持ってきてもらっている生徒も少なくなかったが、運動中は食べる量を抑えなければ胃もたれを起こしてしまう場合がある。料理を嗜む者としての基本だ。
全ての競技が終わり、全員が教室へと戻っていく。かと思えば、江藤君がカバンから人気アニメキャラクターのコスプレ衣装を取り出して教室を飛び出した。こっそり後をつけた。江藤君は夏芽がいる教室に入ると、恐れ多くも夏芽がいる席の正面に立ち、コスプレ衣装を差し出した。
「狭山、俺、狭山のことが好きなんだ。これ、誕生日プレゼント。コスプレが好きって聞いたからさ」
「「「「「!?」」」」」
周囲が夏芽と江藤君に注目し、私と夏芽は時間が止まったかのように戦慄し、冷や汗をかいた。
「……あのさー、別にコスプレとか興味ないんだけど。ていうかそれ、誰に聞いたの?」
「いや、名前も顔も知らねえけど、人から聞いた。それにこの写真、狭山だろ?」
写真を見た狭山の顔が青褪めた。しかもあろうことか、江藤君は写真を周囲に見せびらかしたのだ。
「……いい加減にしてよ! こんな合成写真使うとか意味不明なんだけど! 今すぐ帰ってっ!」
夏芽は周囲を吹き飛ばすくらいの剣幕で江藤君を怒鳴ってしまった。江藤君はコスプレ衣装を置いて帰ってしまったが、夏芽は最悪の状況に置かれてしまった。
他の生徒たちのひそひそ話が耳障りになるくらいに聞こえてくる。どんな写真かも、ひそひそ話の内容も分からないが、この状況が不味いことは分かる。夏芽は静かに席に着いたが、グループからは完全に孤立してしまったのだ。夏芽がいたグループの人たちは彼女に近づくこともできないでいる。
クラス内での孤立は、サバンナで草食動物がたった1匹で肉食動物の縄張りに入るようなもの。俗にいうぼっちというものだが、私のクラスでもぼっちでいじめを受けなかった生徒はいない。何なら晒し者にされて不登校に追いやられた生徒もいる。私の後ろの席は空席だ。
いじめは良くないけど、いつも見てみぬふりをしている私も悪い。
放課後――。
「じゃあみんな、起立……礼」
「「「「「さようなら~!」」」」」
羽島先生の長い終礼が終わり、ようやく下校する。
「璃子……」
助けを求めるような弱々しい声が後ろから聞こえる。
振り向いた先には通学路で浮かない顔を浮かべた夏芽が佇んでいる。
周囲をキョロキョロと見渡し、誰もいないことを確認した。すぐには夏芽に近づけなかった。孤立している最中の人間と、人前で仲良くしてはならないという不文律がある。
みんなは某少女漫画に因み、赤札ルールと呼んでいる。ぼっちは周囲によってぼっちであることを強要させられるのだ。無論、赤札を張られた人間と仲良くした人間も赤札を張られてしまうことは言うまでもない。夏芽にはぼっちの疑いがある。ぼっちとは感染症なのだ。
「どうしたの?」
「うちに来て。ここじゃまずいから」
「?」
私は首を傾げながら夏芽についていき、彼女の家に入った。1階のリビングにいた瑞浪さんが私に気づくと、すぐにお茶を淹れてくれた。ソファーに誘導されると、私は夏芽の隣に座った。
「何があったの?」
目も合わせないまま、私は夏芽に恐る恐る尋ねた。
夏芽の怒鳴り声が私の脳内で何度も繰り返される。顔を見るのも恐ろしい。私はそれほどまでに繊細な神経の持ち主であることを改めて思い知らされた。
「みんなの前で江藤君に告られて、しかもコスプレ衣装までプレゼントされて……こんな写真まで」
夏芽が机に1枚の写真を投げるように置いた。写真は夏芽の手によって強い力で握り潰され、全面的にクシャクシャになってしまっていたが、夏芽の楽しそうなコスプレ姿が部屋越しに映っていた。
誰かの本当の趣味を、みんなの前でばらされてしまうとは思ってもいなかった。
私は知ってしまった……何故暴露はいけないのかを。
周囲が受け入れていない趣味を公の場で暴露することは、相手の人生を破壊する卑劣な行為である。社会的殺人と言ってもいい。ばれてしまえば迫害を受け、社会に居場所をなくす危険性がある。学校であれば退学、職場であれば退職の危機さえ生じる可能性を持つ重大な倫理違反だ。
江藤君に悪気がないことは、表情を見れば分かる。終礼中も江藤君は何で怒られたんだろうと言わんばかりの顔だったが、周囲の男子からは勇者のように扱われていた。江藤君は最上位グループにいる体育会系。立場が弱ければ赤札を張られるところだったが、夏芽とは違うクラスということもあり、それは免れたようだ。悪意があるかどうかの問題ではない。文化的配慮の問題である。世の中には絶対に暴露してはいけない機密情報がある。組織から個人に至るまで存在し、明かされれば、最悪どちらかが、もしくは両方が立場を失う。江藤君は無自覚にもシークレットタブーに触れてしまったのだ。
夏芽は必死に容疑を否認するかの如く怒鳴ってしまったが、合成写真である証拠もなく、写真には撮った日まで載っていたことからも、素で撮ったものであることが見て取れる。どこにも不自然な点はないし、合成写真を作るほどの技術など、大半の人は持ち合わせていない。
「どうしよう……あたし、もう学校に行けない」
涙声で訴えてくる様子に、私は胸を締めつけられた。
「あの場で怒鳴っちゃったのはいけなかったね。かえって怪しまれるし、こっちにも聞こえてたよ」
「動揺していたの。まさかコスプレ姿が撮られてるとは思わなかった」
「夏芽、辛いのは分かるけど、ここで不登校になったら、事実だって認めることになるよ。ここは毅然とした態度で、グループの人たちとはいつも通り挨拶して、何事もなかったかのようにやり過ごすの。クラスメイトだって、大半は平和主義のはずだから、簡単には面倒事にしたくないはずだよ」
「……分かった」
力なく夏芽が答えた。その衰えた自信からは女王の威厳を感じない。
さっきまでの恐怖心が消え、私は冷静さを取り戻した。
「夏芽の知り合いの中に1人、裏切り者がいる」
「……その裏切り者が、あたしを陥れようとしたってこと?」
「うん。少なくとも、同じ学年であることは確かだよ。夏芽に対して悪意を持っている生徒が江藤君を利用して、まんまと夏芽を陥れた。裏切り者は自分の手を汚さず、江藤君が夏芽を好きなことを知った上で利用してる。誰かに恨まれてる覚えとかない?」
「あったらとっくに問い詰めてる」
「夏芽はいつも通りに過ごして。私は裏切り者を探すから」
「……絶対に見つけて。こんなことをする人がいるなんて、あたし絶対に許せない」
静かに、確実に、夏芽の中にある怒りの炎が煮え滾っている。
これが暴走するようなことがあれば、クラスの平和が乱されることになる。
無論、大人たちに頼るのはNGだ。夏芽の趣味が公になる。裏切り者が私たちの動きに感づいてしまう可能性がある。夏芽とて学年の中に裏切り者がいると知った以上、見過ごすわけにはいかないはず。裏切り者を見つけるまでに、どれほどの時間がかかるかは分からないが、夏芽が下手に動けない以上、この問題の解決は、事実上私に委ねられる格好となった。
仮に裏切り者を見つけたところで、どうやってやめさせればいいのだろうか。
そんなことを考えながら、私はこの日を終わりを迎えるのであった。
翌日――。
朝礼の少し前、通称朝の会まで時間が空いている。江藤君の友達は遅刻魔ばかりだが、江藤君はきっちりと時間を守って登校していることを私は知っている。
「江藤君、ちょっといい?」
「どうかしたか?」
「夏芽から伝言を頼まれたんだけど、あんなことは二度としないでほしいって」
「お、おう。てことは返事も駄目だよな?」
「当たり前でしょ。何であんなことをしたの?」
「……俺、相手の名前は分からねえけど、脅されてるんだよ」
「詳しく説明してくれない?」
「分かった。でもみんなには内緒だぞ」
「もちろん。下校したら公園に来て」
江藤君はコクリと頷いた。商店街チルドレンの仲間でもある江藤君を見捨ててはおけない。
下校時間になると、学校から少し離れたいつもの公園で待ち合わせた。私より少し遅れて江藤君が到着する。ランドセルを肩から下ろすと、トンネルの近くに座らせてから事情を話してくれた。
今から1週間前のこと――。
江藤君がいつものように登校すると、そこには1通の手紙が添えられていた。江藤君が1年前、公園でサッカーをしている最中、公園の隣にある家の盆栽がたくさん載った飾り台をボールで倒してしまったのだ。飾り台に乗っていた盆栽は全て割れてしまい、江藤君はこっそりとボールだけを持ち帰った。家の人は留守だったようで、江藤君はまんまと逃げ遂せたのだ。
この弱みとも言える過去を学校中にばらされたくなければ、1週間後の運動会の日、夏芽に告白してコスプレ衣装をプレゼントするよう書かれていた。手紙には夏芽のコスプレ写真が添えられ、江藤君が夏芽にコスプレの趣味があることを知ってしまった。確認のために私に話しかけたが、他の人に聞いて回った件は、江藤君の自作自演で、全くの嘘だった。私から情報を引き出しやすくするためとはいえ、江藤君ほどの正直者が嘘を吐くなんて……誰かに仕組まれているとしか言いようがない。
顔も名前も分からない裏切り者は私が睨んだ通り、かなりの狡猾さと悪意を持っている。
しかも私がありきたりの少女趣味と言ってしまったことも、江藤君の背中を押す要因となった。江藤君は可愛らしいコスプレ衣装を少女趣味と解釈し、確信を持って行動に移ったのだ。裏切り者は江藤君の夏芽好きを知っているが、このことは以前から一部の生徒に知られるところとなっていた上に、噂自体はあったため、これだけでは裏切り者を絞れない。
「江藤君が持っていた写真だけど、どこで拾ってきたの?」
「どこって、俺の靴箱の中に入ってたんだよ。この手紙と一緒にな」
「……これ、私が貰ってもいいかな?」
「ああ、別にいいけど」
力なく返事をする江藤君。
夏芽が持っていた暴露写真は私が回収し、どこからどんな方法で撮られた写真であるのかを調査する破目になったわけだが、写真を撮った位置からして、夏芽の家からそう遠くない場所。しかも夏芽の部屋よりも標高が高い場所であるとすぐに分かった。夏芽の家は大きく、部屋は2階にある。隣の家の数が多い上に、近辺にはマンションやアパートまで立ち並んでいる。
――つまり、夏芽の姿をバルコニー越しに上から撮るには、少なくとも3階以上の高さが必要だ。
クラスメイトの中で、夏芽と同じ方向に帰っていく生徒は限られている。夏芽と同じグループの人たちは、いずれも夏芽とは途中ですぐ別れることになるため除外される。夏芽の部屋を覗けそうな位置は、夏芽の家の真向かいにある西の方角にある建築物のみ。ここの3階以上の部屋からだ。
帰宅途中に寄るわけにはいかない。裏切り者はかなり狡猾で繊細な神経の持ち主。ロビーで鉢合わせすれば、真っ先に感づかれてしまう。まずは夏芽のクラスメイトの名前を全員分暗記する必要がある。
「夏芽、もう出てきていいよ」
「ええっ!」
トンネルから夏芽が出てくると、江藤君の正面に立った。
「さ、狭山。何でここに?」
「江藤君、君が本気にしても、そうでないにしても、あたしは江藤君と恋人にはなれない。ごめんね」
「あー、いや、別にいいんだ。はなっからそんな気はしてたし」
「江藤君、コスプレ衣装の件で何か聞かれたとしても、ドッキリ企画だったって言い通してね」
「分かった。じゃあコスプレ衣装も捨てるしかねえな。せっかく小遣い叩いて通販で買ってきたのに」
「す……捨てるぅ?」
物欲しそうな目をうるうると震わせながら江藤君を見つめる夏芽。
「な、何だよ……欲しいのか?」
滅多に見せない表情に江藤君は慄いた。
はぁ~、確実にばれたなこれ。流石の江藤君でも分かるくらいだし。
「今家にあるんだったら、後で私の家に持ってきて」
「……お、おう」
「それと、もし夏芽の趣味を誰かに言ったら、サッカーの件、ばらすからね」
「わ、分かったよ」
後日、江藤君が持っていたコスプレ衣装は、私を経由して夏芽の元に送り届けられた。
心底ではずっと着たがっていたが、公の場で着てみたいとも言えず、受け取ることもできなかった夏芽はお預けを食らう格好となっていたが、これでようやく報われた。
月日は流れ、3学期の終わりが近づいてくる――。
結局、裏切り者は分からず仕舞いだった。
夏芽の家周辺にある建物の表札は調べたが、夏芽の知り合いと一致する名字はなく、裏切り者不明のまま、迷宮入り寸前であった。夏芽はどうにかやり過ごしたが、他の生徒たちとは微妙な距離感だ。
結局、この件は江藤君のドッキリ企画であると、2人はみんなに説明したが、これで同じ手は二度と通じない。今度またコスプレの趣味をばらされてしまえば、もう後がない状況だ。成績優秀、スポーツ万能、クールビューティーな夏芽に嫉妬を覚える女子も少なくない。
男子からも度々告白されるが、夏芽は全て断っている。告白を断られたことを逆恨みして、夏芽を陥れようとしている可能性もある。今の時点では性別まで絞れないか……。
夏芽の家に遊びに行くことを控えた。いつ裏切り者に見られるか分からない以上、近づかない方が無難であると私は感じた。こんなことをしている時点で、ある意味夏芽を売っていることくらい重々分かっている。矛先を自分に向けられるのが怖かった。夏芽と仲が良いことを裏切り者が知れば、今度は私が狙われる恐れがある。それだけは絶対に阻止したかった。
ボロボロになって帰ってくるお兄ちゃんを見る度に思う。同じ目には遭いたくないと。
小3の3学期が終わり、私は一度もいじめを受けないまま、春休みを迎えるのであった。
読んでいただきありがとうございます。
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