1粒目「大和撫子」
世界的ショコラティエの半生を描いた物語です。
チョコレートがテーマであるため専門用語多めです。
脳内再生補助のため勝手に声優をあてておりますがここは無視してください。
これは現代日本の岐阜市を舞台としたフィクションです。
矛盾解消と誤字脱字修正のため一部書き直す場合があります。
これは、世間や常識や普通というものに従い続け、社会不適合者としての側面を隠しながら生きてきた女が、平穏な日々を取り戻すまでの……物語である。
まず初めに私の自己紹介から。
1992年7月15日生まれ、出身は『岐阜県岐阜市』、職業はショコラティエ、身長は成人した時点で145センチ、葉月グループの総帥を務めていた。
特徴を一言で言えば、大体の仕事は卒なくこなせる普通の人間。できることは世界へ行けるほど究められる。苦手なことは、周囲の人間にしつこく迫られたり、イメージを押しつけられることくらい。
手先の細かい仕事や頭脳戦は得意で、周りに合わせたり力仕事をしたりするのも得意。
後は料理やスイーツや楽器や裁縫や動画投稿も行っている。
正直に言えば、学生時代のことを話すのはあまり好きじゃない。しかし、私自身のことを語る上では決して避けられない道。覚悟はできている。何故自分史語りを始めたのかと言えば、それは私の知名度に対して、私の過去を知る者があまりにも少なすぎるためである。
ショコラティエの頂点に上り詰めたまでは良かったが、みんな私がビジュアルだけでご飯を食べていると本気で思っているらしい。そこである人に勧められて渋々始めた。
時間はかなり遡る――。
この私、葉月璃子は大手コーヒー会社の課長を務めているお父さん、専業主婦として家庭を守るお母さんの家庭に生まれた。
2年前の1990年6月8日には、お兄ちゃんこと、葉月梓が生まれている。
幸いなことに、私はこの国ではマジョリティとされる要素の大半を持ち合わせていた。
異性愛、無宗教、A型、黒髪、平均的な能力、集団生活向きの性格、周囲と同化する演技力、空気を読む能力といったものだが、私は日本人に求められる要素を全て持っていたのだ。そのためか、マイノリティとされる人たちの気持ちは、ずっと分からないままだった。
しかし、そんな私にも悩みはある。
それはいついかなる時も、大和撫子を演じなければならないところだ。
私、お兄ちゃん、お母さんの3人で、買い物へと赴いた時だった――。
「ねえお兄ちゃん、今日は何を買うの?」
「璃子のランドセルを買うみたいだぞ」
「ふーん、璃子は何色が好き?」
私とお母さんについてきたお兄ちゃんが淡々とした顔で尋ねた。
「えっと、私は――」
「璃子はピンクが好きだもんねー。あっ、丁度ピンク色があったよー!」
「僕は璃子に聞いてるんだけど」
「いいよいいよ、早く買って帰ろ。私は別にどの色でもいいから」
本当は水色が好きだけど、私は平和主義が祟って、いつも自己主張ができずにいた。
この後、私は購入したピンク色のランドセルを一度はお兄ちゃんが持っている青いランドセルと交換しようとしたものの、結局、お母さんの反対で交換はできなかった。理由を聞けば男の子は青色か黒、女の子は赤色かピンクじゃないと駄目としか言わない。人を色で分けないといけない法律があるわけでもないのに、何故好きな色を選べないのだろうかと、私は素朴な疑問を抱いた。
1999年4月、私は小学校に入学する――。
8年前のバブル崩壊により、お父さんの会社が倒産し、なかなか就職が決まらないまま、貧困から保育園にすら行けず、私とお兄ちゃんはおじいちゃんの家に預けられていた。
先に投獄……じゃなかった、入学したお兄ちゃんと共に実家へと戻ってからは、お兄ちゃんが帰宅する度に、学校がどんな場所であるかを毎日のように聞いてみれば、ずっと生徒を席に座らせながらひたすら黒板に書かれた内容をノートに写したり、読み書き計算を勉強するんだとか。
ただ、それ以上にお兄ちゃんが苦戦したのは、周囲の教師や同級生との人間関係だった。聞けば聞くほど耳を塞ぎたくなるような出来事ばかりを訴えるように口にする。茶髪であることを理由に黒髪に染めるように言われたり、男の子だからという理由でロングヘアーをバッサリ切るように言われたりしていて、これには流石のお兄ちゃんも辟易としていた。
「はぁ~」
「お兄ちゃん、登校する時いつもため息吐いてるよね」
「当たり前だろ。あんな刑務所みたいな所、親に強制されなかったら誰が好き好んで行くかっての」
「そんなに酷い所なの?」
「ちょっと人と違うだけですぐに難癖をつけてくる。価値観が違うだけであれも駄目これも駄目。これでもかというほど、普通に染まれと要求を突きつけてくる。まるで全身を鎖で縛られてるみたいだ」
「結構辛い所なんだ」
私はこの時点で気づいてしまった。学校は周囲に合わせて溶け込まなければ殴られる場所だと。
言ってしまえば、駆け引きと運要素が入った『達磨さんが転んだ』……かな。
お兄ちゃんが先に入学していたのは幸いだった。理由も分からないまま放り込まれる重圧を感じているのは私だけじゃないはず。私は黒髪のポニーテールのまま、お兄ちゃんと共に校門を通過する。
「あっ、言い忘れてたけど、ここはポニーテール禁止らしい」
「えっ、何で?」
「ポニーテールだとうなじが見えるから、それに男子が反応するからだってさ」
「うわ……何その理由……」
「璃子、ここは外の世界では通用しない変な常識が当たり前のようにまかり通ってる。いじめられるのを防ぎたかったら、徹底的に戦うか、徹底的に自分を押し殺すか、どちらか選ぶことだな」
最終警告とも受け取れる言葉をお兄ちゃんが口走ると、一足先に3年の教室へと続く階段を上った。
お兄ちゃんはいつもいじめに気をつけているが、それでも毎日のように傷を作って家に帰ってくる。頻繁に殴り合いをしている様子からも、お兄ちゃんは徹底抗戦を選んだことが見て取れる。
――私はあんな風にはなりたくない。痛い思いだってしたくない。
できれば平穏無事な日々を過ごしたい。
そのためだったら……付和雷同と見なされても構わないと、当時の私は考えていた。
教室に入ると、自分の名前が書かれた席に腰かけた。
クラスにいる生徒は全員私服姿で、表面上は多種多様であったが、最初はそう見えても、徐々にみんな量産型製品のように加工されていくとお兄ちゃんは言った。
教師に言われるがまま、1人ずつ自己紹介をしていく。一刻一刻と私の番が迫ってくる。ただ自己紹介するだけなのに、こんなにも緊張するなんて……さっきお兄ちゃんがいじめられるとか言うからぁ~!
「では次の人、お願いしますね」
担任の斎藤先生と私の目が合った。
椅子を引き摺りながら立ち上がり、周囲を見渡すこともなく口を開いた。
「葉月璃子です。趣味は――可愛いものが好きです」
目立つことなくすぐに着席する。
嘘を吐いた。本当は男の子向けに作られた作品が好きで、5人の戦隊が怪人と戦う作品、ロボットに乗って戦う作品、未来からやってきたロボットが鍵を握る人間を機械軍から守る作品、恐竜が公園から脱走して人々を襲う作品、銀河の覇権を争う作品ばかりを見ていた。
しかしながら、お兄ちゃんの言葉が正しければ、女の子がこういった作品を好きと公言すれば、間違いなくいじめのターゲットになる。ここは無難に女の子=可愛いもの好きという方程式に従うのが無難である。みんなと違うことが駄目なら、この鉄檻から解放されるまで誤魔化し続けないと。
入学から2ヵ月後、1学期後半の6月を迎えた。
自分から誰かに話しかけることはなく、常に受動的に周囲の同級生と接した。
1人になるまで安心はできない。普段は近くの席に座っている同じ班のクラスメイトたちと一緒に登下校し、広い交差点でみんなの家と分岐し、お別れとなる。そこからは1人の時間となり、ホッと胸を撫で下ろす。同級生と一緒にいる時は変に思われないよう、常に細心の注意を払っていた。入学してからしばらくすると、お兄ちゃんが言っていた通り、早速いじめが勃発した。
いじめの理由は鉄棒の逆上がりができないからというもので、クラスに1人だけ、鉄棒の逆上がりができない運動音痴な生徒がいて、担任から度々こう言われていた。
「できてないの、お前だけだぞ。周りにちゃんと合わせような」
お兄ちゃんの言葉を借りるなら、日本人の中でも雑魚キャラに位置する輩が言ったり思ったりする台詞の典型例と言っていい言葉が、学校ではさも当然のように多用される。しかもみんなが見ている前で言われる最悪の状況だった。その生徒は委縮してしまい、逆上がりができないまま時間だけが経過し、体育の時間が終わってから逆上がりができないことを頻繁に馬鹿にされた。
暴力行為にまで発展すると、遂に不登校に陥ってしまったのだ。
この事実が私の恐怖心を必要以上に駆り立てたことは言うまでもない。
学校では勉強と運動といった、あらゆる能力が平均以上でなければ、人権なき存在として扱われる。
場合によっては些細な特徴の違いからいじめに発展する。みんな同じができないことは犯罪であり、ただひたすらに平均化された従順な人間であることを求められる。得手不得手が極端な人間などもってのほか。勉強ができすぎる人は『オタク』と呼ばれ、テストの点が悪いと『知恵遅れ』と呼ばれる。
レッテルを張られたら最後、それがあだ名となる程度ならまだ楽だが、あだ名に合ったキャラクターを演じるのが著しく困難である場合はしばしば苦痛を伴うことになる。周囲が求めるキャラクターを演じることで攻撃対象から外れ、できなければ即仲間外れ。1人でいる場合はぼっち扱いされ、やはりロクな目に遭わない。しばらく過ごしている内に、何をやらせてもそこそこできて、大人の言うことをよく聞く子供が最も無難に過ごせる場所であることは何となく分かってきた。
漢字ドリルや計算ドリル程度なら、答え合わせがあることも手伝い、満点でも特に問題ないことが分かった。だがペーパーテストは鬼門だ。点数が良ければ嫉妬を買い、点数が悪ければ嘲笑を買うということもあり、テストの点数だけは絶対に見せられなかった。何故人間とはこうもめんどくさい生き物なんだろうか。お兄ちゃんはテスト自体に疑問を持ち、名前だけ書いて提出する荒業をやってのけた。
「あぁ~、疲れたぁ~」
「なっ、結構疲れるだろ」
「常に周りに気を配るのしんどい」
「何かあったら戦えばいいじゃん」
「やだよ。私は平和に過ごしたいの。くれぐれも私の教室にだけはやってこないでよね。私に兄弟がいることは内緒にしてるんだから」
失言をしてしまった。黒髪以外は染めているものと見なされ、地毛証明書という名の踏み絵をされ、いじめという名の弾圧を受け、大人になるまで虐げられる立場であることを知りながら、臭い物に蓋をするような言葉を放った。反省のため息を吐く。
「茶髪だからか?」
「というより、家族に変人がいるってばれたら色々とまずいの。特に女子同士の人間関係は複雑だし、絶対につけ入る隙は与えない。お兄ちゃんにも協力してもらうから」
お兄ちゃんにこんなことを宣言しても意味ないのに……何やってんだろ。
誰もが自分自身にも変人要素があることを棚に上げ、他人に対してひたすら厳しい言葉を浴びせかけているのかもしれない。何より自分が言われる側に回るのが怖いから、せめて言う側でいたいのだ。
そんな悩める日々を忘れさせてくれる唯一の楽しみがある。
甘くて美味しい『チョコレート』だった。
貯まったお小遣いを叩いて食べるチョコは最高の味わい。
チョコ自体は苦いものだが、砂糖類を加えることで絶妙なハーモニーを奏でる。こんなに美味しいものがこの世にあったなんて信じられない。
お兄ちゃんと一緒に祖父母の家に赴く。
コーヒー部屋に入ったお兄ちゃんは、いつものようにおじいちゃんの監視の下、コーヒー抽出の修業に明け暮れていた。早くもバリスタの道へと目覚めたようで、特に夢が確定しているわけでもない私にとって、夢に向かって突っ走るお兄ちゃんが羨ましい。
祖父母の家は1階のみではあるが、長屋のように広く、庭も少しばかり大きめだ。
「璃子ちゃんは本当に美味しそうにチョコを食べるねぇ~」
「おばあちゃんのチョコ、凄く美味しいんだもん」
「ふふっ、ただの手作りだよ。チョコレートを型に流し込んで固めただけ」
種を明かしながらも、ユーモアのある笑みを見せた。
ふと、お兄ちゃんの修業をジッと眺める。
「あず君が気になるの?」
「お兄ちゃんって、勉強はできないのに、コーヒーには一生懸命だよね」
「好きこそものの上手なれっていう諺があってね、好きなことには没頭するでしょ。没頭すると誰よりもうまくなって、それでご飯を食べていけるようになるの。あず君は真剣にバリスタを目指してるみたいだね。私はコーヒーを嗜むくらいしか飲まないけど、おじいさんやお父さんに似たのかもねぇ~」
周りが見えなくなるくらいコーヒーに没頭するお兄ちゃんを、おばあちゃんは感心するように眺めながら、コーヒーを飲んだ時の反応までをも楽しんでいる。
私が小さかった頃は、何かに夢中になることが、とても恥ずかしいこととされていた。特にお兄ちゃんのように、ずっと同じことに没頭し、興味がある分野の知識や技能に優れた人間はオタクと呼ばれ、某連続殺人のニュースが報道された影響もあり、忌み嫌われている風潮だ。
お兄ちゃんはそんなことなど気にも留めず、何と呼ばれようとめげずにコーヒーを愛し続けた。私とはまるで対照的で、私はどうかと言えば、バランス良く色んなものをちぎって食べるように吸収していった。何でもバランス良く、要領良く吸収しようとする癖があるのか、勉強も運動もどちらかと言えば得意だし、女の子だからという理由で、早い内から家事に参加していた。
好きになるものを最初から決められていて、選ぶ余地なんてなかった。
私がチョコレートを好きになったきっかけは、私が5歳の頃、バレンタインデーを迎えた日のことだった。同じ商店街に住む近所の男の子にチョコをプレゼントしたことだった。お母さんが配布用のチョコを作りすぎて余ってしまい、処理も兼ねて自分で食べたところ、運命的な食感に魅せられた。
この時期はお菓子がよく売れる。そして漠然とした夢を抱いた。
それはチョコレートを作る職人になること。つまりショコラティエになることだったが、私はどうも他人が苦手なところがあり、作ることまではどうにか思いついたが、どうやって売っていくかなんて、まだ考えることさえできなかった。チョコを食べているみんなが笑顔でいてくれればいいのにと、子供ながらに平和な日々が続くことを密かに願っていた。
しかし、近所の子供たちはお兄ちゃんを除き、年を取る毎に段々と思考が現実主義に染まっていく。入学当初は夢を語る子供だったはずが、上級生になる頃には、より良い大学まで進学して、より良い会社に就職することを夢見るようになってしまっていた。
お兄ちゃんはこれを悪魔の洗脳と呼び、忌み嫌うかのように、みんなとは別の道を歩んでいく。
私はどうするべきなのかを真剣に考えた。学生の頃の私は、このままみんなと同じ道に進めば、間違いなくOLになるんだろうと、漠然とした将来を想像する。だがそこに笑っている私の姿が想像できなかった。お父さんが失業して貧困に陥ったこともあり、私は無意識の内に安定を望んだ。
本当は安心が欲しかったはずなのに、何を間違えたのか、私は過去の選択を後悔する道を選ぶことになっていくが、それでも最初の決断だけは後悔していない。
「――ねえ、作り方教えて」
お兄ちゃんの様子を見ていた私は、主語も忘れておばあちゃんに懇願する。
普段はごく普通の消費者として生きていた自分が、生産者としての側面に興味を持つきっかけを作ったのはお兄ちゃんだった。お兄ちゃんがいなければ、私はチョコを作る側ではなく、チョコを食べる側になっていたことは言うまでもない。無難に生きて安定すること、それが唯一無二の正しい道であると社会から刷り込まれていた私に、お兄ちゃんは一筋の希望を与えてくれたのだ。
「えっ、コーヒーの?」
おばあちゃんが私の顔を見ながら聞き返す。
「そうじゃなくて、チョコレートの作り方」
何かの使い方や食べ方じゃなく、作り方に興味を持つことは時間の問題だったかもしれない。
当時の私には外国人の親戚もいて、多種多様な価値観を学ぶ良いきっかけになった。友達に親戚のことは話せなかった。外国人が珍しい存在で、日本にいるだけで少数派にカテゴライズされ、目立ってしまう。良心的な性格ではあるが、友達に知れたらクラスに広まり、いじめの対象となることを恐れた。
少数派と見なされるのがひたすらに怖かった。いじめを受けるくらいなら、常に多数派に回り、いじめを傍観する側でいたいと、無責任で傲慢な価値観が形成されていた。良く言えば慎重な性格、悪く言えば事なかれ主義。奇しくもお兄ちゃんが最も嫌いなタイプの性格だ。常に中立的な言葉しか言わず、のらりくらりとかわすような態度の人間を、お兄ちゃんは心底軽蔑した。
特に昭和の価値観のまま生きている人たちとは軒並み相性が悪かった。戦後、経済的に豊かにはなったが、出世と拝金以外の生き方が否定される暗黒時代を迎え、バブル崩壊と就職氷河期は多くの人生に影を落とした。女性は男性の引き立て役として一歩引くことが理想とされ、アイドル以外の著名人は男性ばかりであったことが、当時の日本を如実に物語っていた。
女性が活躍しようものなら嫉妬を買い、生意気とさえ言われたこの時代に、私は子供ながらに息を殺して生きることを覚えた。男性には成熟さが、女性には未熟さが求められる。
――だから私は……未熟な大和撫子を演じようと心に決めた。
親戚以上に紹介できないのはお兄ちゃんだ。故に友達ができても、家に招くことだけは絶対にできないと思わせるだけの……ある種の魅力を感じていたのかもしれない。
「璃子ちゃんにはまだ早い気がするけど……うーん――じゃあ3年生になって、それでもまだ忘れてなかったら、教えてあげようかねぇ~」
「ホントにっ!?」
目をキラキラと輝かせながら聞き返した。火を扱うのは危ないからと、この時は流石に認めてくれなかったが、お兄ちゃんは5歳の時点で既にコーヒーの淹れ方をおじいちゃんからみっちり教えてもらっていて、私にはあの光景が心底羨ましく思えた。子供だろうと子供扱いしないおじいちゃんの方針は、お兄ちゃんの価値観に大きなインスピレーションを与えた。同じ5歳でもスタートは違っていた。
ありのままの自分を認めてくれそうもない社会に辟易としながらも、平然を装って普通の人を演じる生活にはすぐに慣れた。自分に嘘を吐くのは得意だ。平気なだけで擦り減るものはあったが、それでも大きく削られるよりはマシだと、自分自身に言い訳の言葉さえ囁いた。
これが私とチョコレートの……運命の出会いだった。
読んでいただきありがとうございます。
気に入っていただければ下から評価ボタンを押していただけると嬉しいです。
葉月璃子(CV:八尋まみ)
葉月梓(CV:岡咲美保)