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⑸『甘い音は、風に乗って』
⑸『甘い音は、風に乗って』
㈠
おい、あらすじと、第一章までは、文学者Aだったのに、第二章からは、表記が小説家Aに変容しているぞ、という天啓をまたずして、それも承知の上だ、と、無意識の俺が呟く。勿論、意識的には変えていなかったのだが、無意識の内に変容した、小説家Aに、甘い音が、聞こえてくる。
㈡
いつぞやの俺は、たいそう、風まかせの生活だった。とにもかくにも、神経質で、また、ひどく怯えていたかの様だった。それも、しかし、今思えば、一種の幻覚に過ぎなかったのだろう。回答は一つではない。我々には、生きる権利がある、そう、元文学者Aだった、小説家Aが、文中で叫び出すだろう。
㈢
風に乗って、事の便りは届いた。そこには、ありとあらゆる、小説家Aの苦悩が、まさしく、俺の苦行の記憶にフラッシュバックして、小説足り得る小説を、提示しているということだろうか。何れにしても、風に乗って、運ばれてくる、新たな便りの待ちぼうけだ、そう思う次第の、今の俺だ。