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君思フ。

作者: 朝霧 詩音

悲しいくらい冷たい風と銀色に輝く太陽が雲ひとつない青空に君臨する。

吐息は白く上がり握りしめた手はひどく冷たい。

【初詣】の看板をもつ男はやる気無さげに誘導をする。

澪は人の多さに顔をしかめ鳥居の前で一礼し立ち去った。


スマホの画面を一度つけ通知がないことを確認する。

落胆した気持ちと割り切った気持ちが複雑に混ざり合う。

「親なら新年の挨拶の返信くらいしろっての。」

誰にも届かない独り言は虚しく空に消えていった。


大学生になって初めてのお正月。

澪はやっと呪縛から解放された。

帰省して大嫌いな親戚に会うこともなく自由に過ごせる。

姉は彼氏の家にお泊まりで親はどこか遠くの神社まで初日の出と初詣のために出かけた。

澪はつい数時間前のことを思い出す。


毎年の地獄のような年越しとは違い今年は大切なやつと過ごした。

親には高校の友だちってことにしてあるけど、本当は大学で出会った所謂友だち以上恋人未満ってやつ。

気があって楽しくて優しくて、何より一緒にいて楽な相手。


お互い夢を叶えるまでは付き合わないって宣言してるから世間的に言葉に表せるような関係じゃないけど、今は一緒に遊んで話して笑っていられればそれでいい。

「幸せすぎて嘘みたい…。」

去年までの年末年始が嘘みたいに楽しかった。

愚痴も不安も全部受け止めてくれて、泣いて笑ってこんなにも満たされた時間はない。


澪は仲の良い家族が羨ましかった。

愛想をつかした反面、何処かで世界に嫉妬してた。

「帰ろ…。」

多分帰っても誰もいない。


電車に乗ってスマホの写真フォルダを開く。

あいつとの2ショットの写メをみて心がホッとするのを感じた。

まだ一緒にいた温もりが残ってて1人でも寂しくない。

地元の駅に着けば顔に刺さる風が痛い。

陽も傾き始めた16時前。

新しい靴で歩き疲れて足はすでに痛かった。


「初詣、行けなかったな…。」

澪は少しだけさっき参拝せずに引き返したことを後悔した。

せめて氏神様にはご挨拶しに行こうと痛む足を引きずって少しだけ遠回りをする。


小さな神社だが流石に元日ということもあり手水舎に水が流れていた。

鳥居の横にある門松にやっと正月だという現実味を感じる。

本殿の前に並ぶテントには揃いの法被を着た地元の人達がいた。

「あけましておめでとうございます。」

簡単に挨拶を済ませて参拝に向かう。

流石に夕方という時間で人はまばらにしかいない。

鈴を鳴らして2礼する。

手を合わせてから澪は神様に話しかけた。

「あけましておめでとうございます。

昨年は大きな怪我もなく過ごさせていただきありがとうございました。

今年はより一層夢に向けて頑張ります。」

本来は神様は願い事をするものではない。

でも、澪は続けて言った。

「あいつが今年も笑って過ごせますように。

本年もよろしくお願い致します。」


澪は満足気に一礼して踵を返す。

足場の悪い神社に重かった足が少しだけ軽くなった気がした。

大好きなあいつが笑っててくれれば頑張れる。

「今年も沢山一緒に騒いでバカやって、偶には真面目な話もして頑張ろうね。」


澪は参道を駆け下りた。

また一年が始まる。

でも今までとは違う、想像もつかない日々。

1人じゃ見れない景色、あいつと仲間と新しく出会う人らと見られたらいいな。

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