救援完了
「ほら、飲め」
「ん……く」
マンドラゴラの解毒薬を飲ませてもらうと、見る間に体が楽になった。救出対象の女性にも飲ませてもらい、二人揃ってなんとか動けるようになった。
「ありがとうございます。助かりました」
凛とした顔で師匠に礼を言う彼女。その股間は思いきり濡れているが気にしない。こんな仕事をしていればよくお目にかかる光景だ。
「ああ。とりあえず一階へ戻るぞ。その後こいつに元の世界へ帰してもらうといい」
「あ、はい。ええと……その、質問があるんです」
女性の顔が曇る。プライベートな事情なのだろう。
おそらくは、それが今回のーーー
「私、その、お腹にーーー」
「こちらの世界には、向こうの世界のものは持ち込めません」
俺は彼女の言葉を遮った。言わせては、いけない。
「魂が入っていないものであれば、向こうに戻ったときに返ってくるはずです」
「そう……ですか」
ほっとした様子で女性はお腹を撫でた。と、彼女はその言葉に違和感を覚えたようで、はっと自分の姿を見た。
持ち物は何も持ち込めない。当然彼女は全裸であった。
「ーーーっ……!」
みるみるうちに彼女の顔は赤く染まった。先程の凛とした態度は見る影もない。仕方がないので上着を貸してやった。
師匠がそこで「行くぞ」と言って、俺たちは歩き出した。すぐに転移場に到着して、俺たちは一階に戻った。
□ □ □
「……わ、すごい。本当にワープするんですね」
「俺も初めて来たときびっくりしました。面白いですよね」
平静を取り戻した彼女は俺の上着を羽織り、それでも危ない感じの姿で街に入った。その見た目にギルドの職員がぎょっとするも、俺の顔を見て納得した。いつものことである。
服を持ってくるべきとも思うが、モンスターの素材を取ることを考えると荷物は少ない方がいい。せめて長い上着を着ている程度である。
「こっちですよ」
あれこれ見慣れない店を見に行こうとする彼女に注意の意味を込めてそう言うと、少ししゅんとしながら俺の後ろへと戻る。凛とした態度は完全に外向きのものなのだろう。
「ちなみに。お姉さん、どこからこの世界に入りました?」
「え?えっと……職場ですね」
「職場でしたら、貴女は職場に戻ることになります。が、向こうもこっちと同様に時間は進んでいるので怪しまれないよう帰ってください」
「はあ……つまり、今……夜の九時くらいですか?に、会社に突然出現するってことですね」
「そういうことです」
九時頃。それくらいだろう。ああ、また達美に怒られるな。今日はサッと行ってサッと帰れると思ったのに……
俺が帰った後を考えてげんなりしていると、彼女は不安な顔をしていた。
「どうしました?」
「この時間だとまだ仕事している人も居るかな、と……時間を遅らせられませんかね?」
「それは……無理ですね。俺にも帰ってからの予定というものがありますので」
「ですよね……」
師匠の家に着いたので、彼女は肩を落としながら入ってゆく。そんな彼女に師匠が声をかけた。
「君にもプライドがあるなら、こんな子どもに頼らず、自分で切り抜けろ」
少し厳しい言葉だったが、救い出されたことや今着ている服を思い出したらしく、彼女の顔が鋭いものとなった。
家の裏に案内して、申し訳ないが上着から大きな布に着替えてもらう。彼女がこれを着て元の世界に戻ると、次に彼女がこの世界に来るまで俺の上着は断界に存在しなくなるのだ。
俺は彼女を元の世界へ帰すための詠唱を始めた。
「ありがとうございました。私を、助けてくださって」
そんな俺に、彼女が話しかけてきた。
「私を助けても、貴方は何の得もしないのに……」
「いや、こいつは向こうで月四十万ほどの報酬を貰っているぞ」
「四十万っ!?」
私より高収入じゃないのおおおぉぉぉーーーー……
そんな言葉を残して、彼女は居なくなった。もう会うことも無いだろうが、幸せになってほしいと思う。子どもと、一緒に。
「無事終わったな」
「師匠」
「なんだ」
「台無しです」
数分後、俺も元の世界へと帰った。釈然としない思いを今日の夕飯への期待で打ち消しながら。
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