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断チ切ル世界  作者: 龍狐
一章 プロローグ
2/7

束ノ間ノ日常

しばらくは説明とキャラ紹介なんで退屈かも。実際戦うのは二話くらい後かな

「兄貴!ご飯できたよ!」


 朝七時。俺は妹の達美たつみの声で目を覚ました。瞼を開くと、エプロン姿の達美がベッドの横に立っている。


「また遅刻するよ!」

「ああ、すまん……昨日も遅くてな」

「夜に外出てるから朝が辛いのよ!」


 妹の小言を幸せな気持ちで聞きながら俺はリビングに向かう。温かい朝食が置いてある机には、下の妹、あいが座っていた。


「あ、おはようお兄ちゃん」

「おう、おはよう。どうした、機嫌良いな」

「えへへ……実は昨日また賞取っちゃって。作文で最優秀賞!」


 愛はどこから出したのか、賞状を俺の目の前に突き出した。俺は得意気な愛の頭を撫でてやる。


「おお、愛はすごいな。これからも頑張れよ」

「えへへ~」

「ほんと、凄いわね。あたしそんなの取ったことないわ……」


 少しだけ、達美は悲しそうな顔をした。「いやいや」と俺は達美に向き直る。


「達美は中二なのに家事を全部やってくれてるんだ。十分すごいぞ」

「そうだよ。私たちお姉ちゃんには感謝してるんだよ!」

「そんなこと……それなら、兄貴だってお金稼いできてくれるんだし……」

「お、どうした?今日はデレるじゃないか。いつもは俺の事なんか絶対誉めないくせに」

「…………っ!うるさいバカ兄貴、さっさと食え!」

「「いただきます」」


 そう、俺たちには親が居ない。

 二年前事故で死んだーーーことに、表向きはなってる。


 達美。

 愛。

 二人すら、知らない。

 知っているのは俺だけだ。


 力を受け継いだ、俺だけ……


「……お兄ちゃん?」

「あっ!?あ、ああ、なんだ?」

「いや、ぼーっとしてるから……」

「夜更かしするからよ、バカ兄貴」

「ああ、悪い……まだ眠いみたいだ。今日は学校休もうかな」

「駄目です」

「……はい」


 しかし、あの世界は入るだけで疲れるのだ。あの世界ーーー「断界」は。


 二年前、両親が死んだ。

 当時中学生だった俺は、亡骸すら見つからない二人の死に疑問を抱き、現実逃避もあって部屋を探した。すると、俺への手紙があった。


 そこには「断界」のこと、そして二人はそこで死んだことが書いてあった。


 手紙によると、自在に「断界」に入れる力、そしてそこに落ちた人を察知する力を俺は受け継いでいるらしい。

 その人たちを助けるのが、両親の仕事だった。

 その仕事の果て、二人はーーー


「……あれ?」


 少し考え事をしていると、いつの間にか妹たちが消えていた。玄関からは扉の鍵を閉める音。どうやらもう家を出たらしい。

 時計を確認すると、七時半。もうすぐ出なきゃならない時間だ。


「マジかよ!」


 俺は急いで朝食をかっ込み、着替えて鞄を掴み、家を出た。数分走ると、達美の背中が見えてきた。


「ぜえ、ぜえ……」

「兄貴、走ってきたの?」

「ああ、まあ……兄たるもの妹と一緒に投稿しないとな」

「キモい」


 ぐさり。兄の心に50のダメージ。

 そこで気づいた。愛の姿が見えない。見えるのは道路を走る痛車くらいだ。朝っぱらからヲタク全快。楽しそうな人生でござんすな。


「愛は?」

「先に行った。演劇部の朝練があるんだって」

「へえ……相変わらず足速いな」

「本当にね」


 下の妹、愛はいわゆる天才だ。成績優秀、運動神経抜群、眉目秀麗。まるで言うことがない。兄として誇らしい限りだ。それでいて人当たりもいい。とてもよくモテるようだ。兄として告白した男子を八つ裂きにしたい。


 対して上の妹、達美は凡人だ。拳法をしているが、それだけ。しかし、彼女は親の居ない我が家の家事を一手に担ってくれている。なんとなく、俺の負担を減らすためだというのは理解していた。優しい子だ。


 二人とも、俺の自慢の妹たちだ。二人が一人立ちするまで、俺は二人を絶対に守らなきゃならない。


「……そういえば」

「ん?」

「俺が昨日居なかったの知ってたんだな」

「そりゃ、部屋に居なかったし」

「ん?俺の部屋?何か用事でもあったのか?」


「あっ……いや、その……とにかく!どっか行くならちゃんと言ってから行ってよね!じゃないと……」

「あー……悪い。心配させたな」

「いや、ストレス解消に殴る相手が居ないのよ」

「お前は兄を何だと思っているんだ」


 会話を楽しんでいる間に、妹たちが通う中学が近づいてきた。達美は鞄を漁り、俺に一つの手提げを渡した。


「はい、今日のお弁当」

「おお、いつもありがとな」

「……別に」


 達美は小走りになって中学に入っていった。それを見送って、俺は高校へとまた歩きだした。

 そんなとき、後ろから肩に手が置かれた。


「よっ!けしからんね、朝から可愛い妹と登校とは」

「浩介……」


 同じ学校の友達、浩介だった。彼は学校内でも有名な不良で、金髪、グラサン、制服のシャツの前を開けて柄モノTシャツを着ているような男だ。しかし、なぜか俺とは馬が合い、以来友達だ。二人ともクラスで孤立気味だからかもしれない。


「手作り弁当とか!妬けちゃうねえ」

「どこもこんなもんだろ」

「バーカ。天野とか姉ちゃんと一ヶ月は喋ってねえらしいぞ」

「そんなもんなのか?まあ、うちは……」


 脳裏に写真が浮かんだ。

 まだ生きていた頃の、笑っている顔。


「……色々あったからな」

「う……すまん」

「気にしてないさ。もう二年も前だ」


 俺の顔が曇ったのに気付いたのか、浩介は申し訳なさそうだった。しかし、本当に気にしていない。二人が死んだことは悲しいが、いつかは味わうことなのだ。むしろ……


「親の家業を継げる俺は幸せかもな」

「あん?何か言ったか?」

「いや、別に。今日の一時間目は何だっけ?」

「あー、えーっと……」

「英語の小テストだ、馬鹿ども」


 車道から声が聞こえた。声の主であろう人は車の窓を開けて、こちらを見ている。長い黒髪に、良いガタイが収まりきっていないスーツ、毎朝見る顔だ。


「長瀬先生」

「よう天草、眠そうな顔だな。さぞかし勉強したんだろうなあ?」

「あー……」

「センセー、晴輝がそんな事するわけないじゃないっすか」

「生徒を信じてやるのが教師の仕事だぜ、河野かわの

「先生、俺めっちゃ勉強してきました」

「ふむ、結果で証明するんだな」


 先生は車の中から煙草の煙を俺に吹きかけた。


「ぐへっ……先生!生徒になんてことするんですか!」

「学校の敷地外だからセーフだ。まったく……職場で煙草も吸えないとは、過ごしにくい世の中になったもんだ」


 言いながら車の備え付けであろう灰皿に煙草を捨て、「じゃあな」と先生は消えていった。学校はまだしばらく遠い。


「あーあ……どうするかな」

「行きながら勉強しとこうぜ。employee」


 気楽に意味のわからない英単語をつぶやく浩介ゆうとうせいに俺は少し苛つきつつ歩みを進め、学校へと向かった。

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