プロローグ
「きゃああぁぁっ!」
どこからか、女性の悲鳴が木霊した。俺はその声に振り返ると、林の中に断続的に響く悲鳴を頼りに声の主を探した。
いた。トカゲのようなモンスターの前に女性が座り込んでいる。この世界で戦う術を持たない彼女はなんとか逃げようとしているが、それすらもままならないようだ。
俺は全速でそこに飛び込んだ。
「ぜえやああぁっ!」
腰の片手剣を抜き放ち、走りながらトカゲ人間に斬りつける!トカゲ人間は鱗の上から胸を斬り裂かれ、血飛沫を上げたが、とても致命傷とは言えそうにない。
剣を構え直し、立ち位置をずらしてさりげなく女性から注意を逸らした。それによって彼女は威圧感から解け、少しだけ安心した顔をしている。
状況は五分。あとは俺と相手のどちらの力が上か。それだけだ。
敵の踏み込みを感じた。長く伸びた爪が俺の喉に襲いかかる。俺はそれを剣で受け止めた。そのまま爪を上に流し、懐に入り込んだ!
「ぜやあっ!」
胸を一突き。俺の剣は鱗など無いかのようにトカゲの身体を貫き、地面に縫い付けた。トカゲ男はしばらくじたばたしていたが、やがて動かなくなった。
「ふー……あぶねー」
流石は六階。五階までと比べたら魔物の強さが段違いだな。一匹倒すのにこれだけかかってたら先が思いやられる。
「あの……」
「あ……やべ」
トカゲの向こうから女性がおずおずと話しかけてきた。彼女は内臓と血を吐き出し続けるトカゲに顔をしかめつつ俺のところまで来た。
「あの、ここは……あなたは一体……」
「落ち着いてください。ひとまず……」
俺は言った。幼い頃憧れたヒーローのように。
「俺が来たからには、もう安心ですよ」