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「……で、私はどーすればいい?」
「はいっ、大まかでいいので転生後の希望をこちらに書いてください♪」
さっきまでのしおらしい態度、どこ行った?……まぁ、いいけど。気にしたら負けだよね。
私はイリオスから手渡された紙を覗き込む。そこにはアンケート形式で色々書かれていた。
例えば……第一設問。
・転生は生まれ直しからやりたいですか?
→Ja/Nein
……敢えて、初っぱなからツッコませてもらおう。
な ぜ に ド イ ツ 語 !?
普通、『はい/いいえ』か、『Yes/No』じゃないの!?……ドイツ語は、大学で単位取ってたから少しは分かるけどさー。「だからだよ☆」←黙れや。
ま、ここは『Nein』を取るけど。
だって、私の親はあくまで死んじゃったとーさんとかーさんだけだし。生まれ直しとか、自立できるまで恐ろしく時間かかるじゃん。あと、親族関係の柵とかも、メンドいよねぇ。もし、罷り間違って貴族家なんぞに転生しちゃったとして、上流社会にありがちな政略婚とか、(元)←がつくけどイマドキな日本人には、受け入れがたいと思うの。
そんなことを思っていたら、よく見ると設問のいくつかが薄くなっていた。主に容姿とか性別に関する部分が。
「生まれ直ししないなら、ここは変えられないんだよねぇ」
「え、じゃあ私の見た目どうなるの?」
「んー?今と変わらないよ(ほとんどはね)」
「ならいいや」
私の容姿は可も不可もなく、平凡……というには少し男前かな、女だけど。
顔つきとか、あと身長も――日本人女子の平均よりは――高いし。父に似すぎるほど似てるからなー。……ちなみに、お胸様はDよりのCですのよ。エヘン。
でも、同級生には、男装が似合いそうだとよく言われたっけ。この姿のまま転生できるなら、むしろ好都合だ。
……だって、鏡で自分を見て「何この美少女!?」って、イヤじゃん。まぁ、美少女とは限らないけど。
そんなこんなで、他のもポンポンとほぼ直感で決めていく。
弟に見られてたなら、もっと慎重になるべき!……なーんて言われそうだけど、石橋叩いて渡っても、後悔するときゃするんだし、いいよね。
大体、アンケートなんて、そんなもんでしょ。
ざっくり100問ほどを書き終わると、最後には『他に希望はありますか?』の枠。うーん、芸が細かいなぁ。
それはそうと。んーんー、希望ねぇ……何かあったっけ?
あ、そうだっ!
「うんと、『食べた分だけ太る体質を治してください。見た目に出なければそれでも可』っと。これでよし」
「……女の子は気にするよね、それ」
「まぁね」
全部(一応、色の薄くなったところも含めて)書き終わって、抜けがないかを確認してから、イリオスに紙を渡す。……ねぇ、あんまりまじまじと見ないでよ。恥ずかしい。
と、おもむろにイリオスは、満足そうに(そして、面白そうに)ニッコリ笑うと紙を放った。すると紙は空中で淡く発光しながら、私の手元に再び戻ってくる。
驚いて内容を見ると、さっきとは変わっていた。数字の羅列……まるでこれは。
「な、何ぞこれ」
「それはアンケートの結果から作った、清明さんの基礎ステータスだよっ」
「マジかよ!」
やっぱりか!なーんか、RPGのヤツに似てると思った。
でも、ちと待て。このステータス……初期値なら高過ぎじゃない?
と言うか、むしろラスボス戦直前のステだよな!?
「そりゃそうですよー。貴女の余った改変力を注ぎ込んだら、初期値でもこうなりますって!(しかも、これだけじゃないですし☆)」
「さ、さすがは地球滅亡レベルの力……」
ステータスは、オールマイティーなバランス型。でも、やや魔法使いより。……と言うか、転生先には魔法があるらしい。スゴいよね。リアルファンタジーだよ。
で、スキルは冒険に役に立ちそうなのがいっぱいだ。
《探索》とか《オートマップ作成》とか。あ、《暗視》なんてのもある。
それ以外で目を引くスキルは……《調伏》、かな。魔獣や魔物と契約して使役できるらしい。うんうん、転移・転生モノの王道だよねー。
何だか、某有名RPGのレンジャーとパラディンが混ざったような感じのステータスだ。
「安定志向ですねっ、清明さん」
「特化型もいいんだけど……使いこなせる自信がないからね」
自分一人で攻撃・防御・治癒・強化が出来るのが理想だよね。知らない世界で生きてくなら。
だって、私の性格じゃ殺られる前に殺るとか、盾殴りとか、破壊僧とか、狂戦士とか、ムリムリ。
そもそも、ゲームでもバランス型かサポート系しかしたことなかったしー。
「肉体の設定は完了しました~。……では、次行きましょう!」
あどけなさの残る美貌に、満面の笑みを湛えたイリオスに、またも紙を渡される。書類苦手なのにっ……!くうぅ……美形めぇえっ!
それからは、装備品や刺青――転生者は、その世界の神の眷属になるので、その証明に必要らしい――のデザイン決めやら、初期装備(お金とか食料とか)の設定、はては転生後の世界の常識イロハの勉強など、たくさんのことをやった。
途中から熱が入ったあまりに、イリオスと篤い友情を交わしてしまったほど。
……どうしてこーなった?
ま、最初は戸惑ったけど、こうしている内に私の中で覚悟が決まっていった。きっと、そんなのもイリオスにはお見通しだったんだろうなぁ……。さすがだよねぇ、(よく分からないけど)すごい存在なだけあって。
そして、全ての準備が整ったその日。
ついに、私の旅立ちの瞬間がやって来た――。