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「清明さんは、運命って信じます?」
『運命』――それは、一般的には決して変えることの出来ないもの。また、それをもたらす力のこと。
だから、人間はそれを神の御心の業とも表す。まぁ、ぶっちゃけその存在は曖昧なものだと思う。
……でも、それが一体どうしたと言うのだろうか。
「実は、世界って割りと単純に出来てまして。界毎に、ある程度のシナリオが決まってるのですよ。いつ滅ぶとか、誰が死ぬとか」
さらりと言ったけど、それけっこう怖い話だね?だって、誰がどんな人生歩むのかとか、確定されてるってことでしょう?
こーんなところで、カ○ヴァンの予定説が証明されるとか……知りたくなかったわぁ。
「……で、そちらの世界では、シナリオ通りなら貴女は過労死しているはずだった」
それも、知りたくなかったね。自分の死亡予定とかさ。
しかも、過労死かぁ……。あのまま、あそこで勤めてたらあり得た未来だったんだ。やっぱり。
……あれ?じゃ、何で私回避できたんだ?
「し か し っ、偶然が起きて貴女の死は、なんとっ回避されたのです!
いやぁ~、命に関わる運命ってそうそう変わらないのですが……貴女は凄いですねぇ☆
だって、まさか小説に影響されて会社辞めちゃうなんて!」
吃驚です、と言い、イリオス少年(?)はケロリと笑った。……冷静に振り返ると反論できないよ。ぐぅの音も出ねぇ。
え、でもちょい待ち。
「……運命って不変じゃないの?」
そう言ってキョトンとしていると、イリオスは微苦笑した。
ねぇ、子ども扱いしてません?見た目的には、あなたの方が子どもなのに。くぅっ!
「そんなことないですよ~。寧ろ、つまんないじゃないですか!意外性なくって」
あはは~っと、言いきったコヤツを脳内でボコった私を責められる人がいるなら、頼むから出てきてほしい。
えぇと、ごめん。取り乱したわ。
……とにかくイリオス曰く、界とか次元とかを取っ払った先にある場所?定義?の向こうの存在が、こちら側――もちろん、私たちの生きる世界を含む――を覗くとき、退屈しないよう予めシナリオを緩く設定しているそうな。
……『この世は誰かのみる夢』説みたいで、これも怖い話だよね。
その結果、シナリオを破る――つまり運命改変を引き起こすことが、稀に起こるらしい。
なら、何で私がここに呼ばれたんだろ?
私が無自覚に運命改変したのは分かったけど、その界とやらの垣根を越えれば、他にも候補がいたんじゃないの?
「いえ、貴女ほど大きな改変をした者は、ここ数百年単位の界隈にはいませんよ?
まぁ、その所為で貴女はこの世界に居られなくなってしまったのですが……」
「えぇ……なんでよ?」
「それは、バタフライ効果とシナリオ改変による再編された予定調和の結果、ですかね?」
バタフライ効果と予定調和、ね。
……確か、バタフライ効果は、蝶の羽ばたきが未来の嵐の原因になっているとか、なんとかってヤツ。
予定調和の方は、神様が世界を調和させるために……って、これはさっきのシナリオうんぬんそのままだよね。たぶん。
私、倫理は苦手だったからな~。よく覚えてないんだ。なんせ、暗記が苦手だから。
「貴女が生き延びたことにより、まず貴女の勤めていた会社の調査介入が遅れます。
その間に、親会社の方で幹部役員が横領をするのですが……その金は浮気相手を経由して、とある反社会勢力の懐に流れますね。いわゆる、美人局だったのでしょう。
しかも、その資金を元手に増えたお金が、そこから某宗教団体に回りまして……その、この先聞きたいですか?」
「聞きたい気もするけど、とりま結論言って」
「最終的に、地球はドカーンッ☆ですっ。約26年後ぐらいに」
数字が具体的だな!?
てか、あれからどうしたらそんな事に……あ、やっぱりいいです。聞きたくないわ。
「それに、清明さん自体もかなりの力を持ってしまいましたからねぇ。
や、特に目に見えるようなものじゃないのですよ?でも、他のシナリオの因果律にも影響が……(ごにょごにょ)」
……つまり、私が生きていると都合が悪いと。
それは、何とも――酷い話だね?
だって、せっかく生き残ったのに。
それでも、世界のために死んでた方が良かった、って聞かされるなんて、ね。全くもって、酷いよなぁ……。
思わず私が俯いていると、イリオスはしゅんと眉を下げてしまった。
「……ごめん、なさい。
だけど、言わなければ納得できないでしょう?
……このままでは周囲に与える影響が強過ぎるので、本来のシナリオに戻させてもらいたい。
異世界への転生は主にこちらの都合を押しつけるお詫び、なのです」
そっか、お詫びなのかぁ。へぇへぇへぇー。了解了解ー。
――……なぁんて、聞き逃すとでも思った?
『主に』……ねぇ、まだ何か隠してるっぽいな。
ジト目でじいぃっと見つめると、失言を悟った当のイリオスはうっと息を詰まらせた後、しばらくは首を左右振っていた。
が、ついには根負けして全てを白状した。(←させた、とも言う)
「……異世界転移・転生には、膨大なエネルギーが必要なんです。特に記憶を残したままにするには、魂を保護したりとか。肉体情報だけ、送り先仕様にしたりとか、その他にも諸々……。
貴女の持ってしまった改変力は、転移させても有り余るほど。だから、一度死んでリセットしていただいてから、転生してもらいたいのですよ。
それでも若干余ってしまうので、残り分は貴女の肉体へと還元しますが」
……はぁ、分かったよ。
私の力――改変力?だっけか。それをどーしても消費させたいのね……。それで、異世界転生かぁ。
まぁ、どうにかこうにか事情は呑み込めたわ。