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 注意!

 この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。悪しからず。

 なお、初回4話までは、同時公開します!





 そこそこ給料の良い中堅会社に勤めて、早五年。

 私は、入社当時からずっと同じ部署で働く、替えが利く事務職員の一人だった。特に希望部署があったワケじゃないから、仕事内容に不満はない。

 ……が、そこは地獄だった。人間関係が。


 吐く言葉は罵倒か自慢の両極端な上司に、合コンに行く為に仕事を押しつけてくる腰掛(こしか)けお姉様、誤字脱字は当たり前な上に悪筆な後輩、あとはエトセトラエトセトラ……。


 当然のごとく毎日残業、休日返上も珍しくはない。これをブラック企業と言わずして、何と言うのだろう。

 そして、私と同じぐらい働いている社員は、果たしてどれくらいいると言うのか。少なくとも、同じ部署にはいない。


 ……そもそも、私の仕事量は、労働基準法に違反している気がする。いくら給料がよくても、割りに合わない。三日に一度は、サービス残業だった。

 そう気づけたのは先日のこと。……常識感覚もマヒしてるらしい。


 これは、流石にない。

 このままでは、会社に殺される!



 だから私は、決意した。

 ……この前読んだ小説(バイブル)に勇気を貰って。



「部長、私……この会社辞めます」



 辞表をデスクに叩きつけ、私は「今まで()()お世話になりました?」、と皮肉を込めて爽やかに笑ってやる。……私がお世話になったのは、すでに寿退社――実際には、ハラスメント+ブラックな環境に耐えかね、結婚に逃げての退社――した先輩だけだっつーの。フーン、だ。


 ……余談だが、私の顔は、表情によってはかなり威圧感があるらしい。

 そのせいか、私が辞表を叩き込んだ時、セクハラ常習犯な部長の顔は引き攣っていた。正直、胸がスカッとした。ざまぁみろ。





 それが、たった三日前のことだ。

 本当なら今頃、今日の半日で私は引き継ぎを済ませ、午後から貯まりに貯まった有給休暇を優雅に消化する……予定だった。


 実際は、終わらない仕事と疲れる人間関係から解放されたことにより、張り詰めていた精神が肉体の休養を求めて機能停止していた。

 ……ようは、風邪を拗らせたのだ。


 しかし、これまで体調を崩すことなど滅多になかった私の部屋に、風邪薬なんぞ置いてない。

 初日こそ大人しく家でゴロゴロしていたが、やっぱり早く治すには薬は必要かと思い至り、ついさっき会社に連絡をしてから、近所のドラッグストアに出掛けた、のだが……。



 ……なのに、何がどうしてこうなった?




勇谷(いさみや) 清明(さやか)さんっ、おめでとうございます!

 貴女の()()()を見込んで、こちらへ招待させていただきました~!」


 目の前に広がるのは、際限なく広がる純白の空間。

 気が狂いそうなほど広いその中で、妙にテンションの高い人物が私に話し掛けてくる。


 その人物は、髪は短いけど、容姿も声音も中性的で、性別がどっちだか検討つかない。やや身長が低いから、女顔の少年っと言ったところだろうか。

 どうもアルビノらしく、全体的に《白》の印象が強いが、その瞳だけは引き込まれそうなほど妖しい《赤》だった。でも、クリムゾンと言うより、ヴァーミリオンに近い。

 そして、何よりかなりの美形だ。思わず、息を呑んでしまうほどの。

 平凡女子の私に、こんな知り合いいない。


「えっと、どちら様でしょう?初対面……ですよね」

「よっくぞ聞いてくれました!さすが清明さんですっ!」


 ホント、テンションたっかいな。疲れる。

 こちとら風邪引いてんだが……早く話し始めてくれないだろうか?と、思わず胡乱げな目で見てしまった。

 そんな私の視線に気づいてか、少年(?)はテヘッと誤魔化し笑いをした。くそぅ、美形だからって、だからってぇえっ……えぇい、許しちゃるわ!(←絆された)


「え~、こほん。

 では、改めまして……初めまして清明さん。ボクは《イリオスヴァスィレマ》、この空間の支配者であり、界を繋ぐ者。

 貴女に分かりやすく言えば、異世界転移・転生の斡旋及び仲介業をしています」

「は?」


 ちょっと待て、なんだ今の。宇宙言語?日本語でおk。……てか、聞き間違いだよね?そうだよね?

 だって『異世界転移・転生』とか、あれフィクションでしょう?……もしかして、違うの!?


「……貴女の『信じらんなーい!』って気持ちがよく伝わってきますよ、その表情(かお)。でも、これマジなんですよねぇ。

 ボクもそこまで関知してる訳じゃないので、おおよその推測に過ぎないですが……貴女の界隈で流行っている『異世界転移・転生』モノは、たぶんそちらへの転生者が書いたのかと。

 大半の人は記憶を消去しているので気づかないのですが、魂とかに残ってるとですね……(うんたらかんたら)」


 話長い。

 ……でもまぁ、ようするに異世界への転移・転生は、実際にあるってことは理解した。

 で、それを私に話してどうしろと?


「えぇと、はい!貴女には、ある世界に()()して貰いたいのです!」


 ……ねぇ、ちょっと待って。今度こそ聞き間違い、だよね?「いえ違いm……」黙って「はいぃ」、よし。

 まずは落ち着こう。腹式呼吸、深呼吸だ。すーはーすーはー……うん、もう大丈夫。

 さて、と。


「ねぇ、ちょっと。イ、イリオス()()レマ……様?」

「様はいいです。全っ然、敬われてないでしょうし。イリオスヴァスィレマと言いにくいなら、イリオスと呼んでください。

 何でしょう?」


 かっっっるいな、おい。一応お偉いんでしょうに。……確かに敬ってないけど。


 まぁいい、話が逸れた。

 私が一番気になったのは、これだ。


「仮に百歩……いえ、千歩万歩譲って『転移』なら分かるけど、どうして『転生』なの?」


 そう、そうなのだ。

 私は風邪を引いてはいるものの、まだバリバリに生きている。ここに来る前に事故った覚えも、突然死した覚えもない。……気づかないほど鈍いとは思いたくない。

 それなのに、『転生』はおかしくないだろうか?


「あー……気づいちゃいましたか。ですよねっ。

 でも、これは別に変じゃないんですよー。こっちとしては。


 だって、清明さん。

 ……本来なら貴女は、今頃―――『過労死』している予定だったのですから」


「―――はぃ?」


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