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Progress 1 (5)

 新入生は四月の下旬、臨海学校に参加することになっている。生徒達は普段より少し早く学園に集まり、そこから各クラス一台ずつのバスに別れて学園から北東の方向にある山へと向かう。目的地に着いてからは、野外散策と班ごとの自炊。二日目は施設の中で“アストラルの鍵”による能力が世の中でどれだけ生かされているかといった講義があるらしい。

 

 ちなみにバスの座席のどこに座るかは決められていない。班分けで誰とメンバーになるのかも自由。影虎から話を聞くと、野外散策も名目上だけであり実質は自由時間、部屋で寝ていてもよいらしい。

 

「毎年あの場所に課外授業に行くのは、あそこに“アニマの錠”に関するなんらかの秘密があるからだとオレは思う」


 海星たち一年生三人に、影虎は事前にこう言っていた。


「この学園が今のようにアストラルの鍵を持った生徒を本格的に受け入れ始めたのは七年前からだ。それから臨海学校の目的地が今のところに変わっている。もちろん、受け入れ先がアストラルを嫌ったりといった理由かもしれないが」


 そして、影虎は海星らに野外散策の時間、錠に関する手掛かりを探すように命じたのであった。

 

 海星はあらかじめ打ち合わせていた通り、一番後ろの席で夜空と悠と座っていた。前方には響と修二郎がいる。

 

「それにしても意外ね」


 細い声で悠が海星に話し掛ける。

 

「なにが」


「てっきり同好会には入らないと思っていたわ。そもそも部活には入らないって決めているようだったから。それに同好会に入らない=全く関わりを持たないという訳でもないしね」


「……どうしてそう思ったのかは聞かない。けど僕は入る理由をいくつか持っているから」


「いいえ、あなたは入らないつもりだった。それでも入ったのは、“鍵”の相性が良い人がこの中にいたからかしら?」


「……」

 

 両者の間に、なんとも云えぬ靄のようなものが発生する。間に挟まれている夜空がそれを察知し、

 

「せっかくですから、もっと楽しい話しましょうよ」


「どうでもいいわ。あとはお二人で勝手にどうぞ」


「手掛かりを見つけるのに、どうするのかを決めるはずだったけど」


 だがしかし、それっきり悠は眠ってしまう。

 

「あっれ〜……」


 夜空はさらに困ったように横で一人残されていた海星の方を向くが、海星は終始困惑した表情で黙って悠を眺めていただけであり、今さら自分の方に向かれてもどうすることもできないといった様子だった。

 

「いい。僕らだけで話し合おう。部長が言ってたのを信じると、宿舎から少し離れた地点を散策した方がいいらしい」


「でも、もう何年も繰り返してるんですよね。私達が行動したところで、今さらなにかあるとは思えませんけど」


「そうだね」


「まほろば同好会の話してんのか?」


 響が前方の席から顔を覗かせて話しかけてくる。海星や夜空、そして中等部からの進学組である悠がまほろば同好会に在籍していることは隠しているわけではないため、響や修二郎も知っている。


「いいよなぁ、俺も入りたかったなぁ」


 響から意外な言葉が出てくる。海星がきょとんとしていると、


「海星、まほろば同好会ってのはなあ、学園側から酷いように扱われる雨組の希望なんだよ。聞いた話だけど、OBなんかは学園側にいろいろと便宜を図っていたりするらしい。そうやって俺たちを守ってくれてんだよ。そういうのって……なんかカッコいいだろ!」


 響の偏見も混じっていそうではあるが、てっきりオカルト研究会や霊能研究会とベクトルは違えど同じくらい敬遠されている組織だと思っていた。


「修二郎の兄貴も、まほろば同好会のOBなんだぜ」


「と言っても、僕の兄も誘われて入れられただけで、深いところまでは知らないみたいだけどね」


 海星が地図を広げ、候補地を選び順路を立てていこうとする。悠は興味なさげな様子だが、夜空は一緒になってそれを覗く。


「月ヶ瀬さんと野詠さんが良ければ僕らも一緒にまわらせてくれないかな? それとも同好会の活動でなにかある?」


 修二郎の提案に、海星と夜空は目を合わす。悠は反応を示さないあたり、どちらでも良いのだろう。


「キャンプ場の近くに幽霊スポットがあるんだってよ! 俺らだけでいくのも盛り上がりに欠けるし、みんなでそこに行こうぜ」


「ダメです!」


 夜空が声を上げ、響と修二郎が驚く。バスの中ではいろいろと盛り上がっているせいで他の生徒は聞いていないようだったが、海星たちの間では妙な空気が漂う。


「ごめん。お昼に行くとはいえ、幽霊スポットなんて気味悪いよね。ほら響、せっかくなんだからもっと違うところを回ろうよ」


 キャンプ施設に着き、海星たち雨組の生徒たちは順番にバスを降りていった。


 同様に、曇組と晴組の生徒も。


 そして、一年晴組のバスから星見マナが降りてきた。



 星見マナが一年生で、しかも晴組だということすら把握していなかったことに海星は今ごろになって気がついた。


 キャンプ場に到着した直後、星見マナは噂で言われていた通り他の晴組の生徒の賑わいの中で見向きもされていなかった。無視をされているというよりは、まるで幽霊のように存在そのものを認知されていないかのようであった。その異様な光景を、海星は初めて目の当たりにした。


 自由時間は響と修二郎、夜空や悠と共に行動している間も、好きなように集団をつくり周辺を探索したり広場で遊びまわっている生徒を見かけたが、マナは何処にもいなかった。


 フィールドワークを終えるとクラスごとに夕飯を作る。そこでもマナはいない。班分けが好きなようにできたり自由時間が多めに取られているように、参加しないという自由もまた学園側は認めている。ずっと部屋に隠っているのだろうが、それなら彼女はどうしてここに来たのであろうか。


 就寝時間までもうすぐという時間。海星は宿泊施設の一階ロビーで夜空と合流していた。


「野詠さん、さっきのキャンプで疲れちゃったみたいです。もう部屋で横になっちゃいました」


 まほろば同好会の三人で昼間に探索できなかった場所に向かう予定だった。


 海星も、そもそもこんな時間に出歩きたい訳でもない。ここまで来てしまえば少しくらいは散歩をするのも悪くない程度の気持ちだった。


「私たちも早めに切り上げましょう。誰かに見つかったらいけないですし」


 海星は、夜空が僅かに声を上擦らせていることに気付いていた。


「夜空、なにか知ってる」


「そそそ、そんなことありませんよ……」


 じっと見つめられた夜空の動揺は、海星でなくとも分かる程だった。


「響が幽霊を捜索すると言った時の否定はなにも怖かったからじゃない。自由行動の際にも、夜空はまるで響が幽霊スポットに行ってしまわないよう見張っているようだった」


 海星はもう、夜空が考えていることを引き出せると確信しているかのようであった。


「このまま黙って押し通せると思わないで」


 夜空でなくとも、海星の気迫には怯えてしまうだろう。


「こ……」


 夜空が口を開く。


「ここは、精霊が出てくるポイントなんです」


「あれが、また出てくるの?」


「その場所に行けば恐らくは」


 海星の問い掛けに、夜空は頷く。


 響の持っていたオカルト雑誌に出てきた、幽霊スポットと呼ばれている場所を調べれば精霊の出現地を特定することができるのだろうか。その雑誌や編集部について調べてみる必要がある。


猿飛影虎はともかく、学園側がこの土地のことを意識しているとすれば、“アストラルの鍵”と“精霊”は別々の存在ように見えて何か繋がりがあるのかもしれない。一番恐ろしいのは、学園も幽霊スポットのひとつなのだということだ。あの夜にマナが襲われていたように、他にも学園に被害者がいるのだろうか。


「精霊が出てくるポイントは分かります。そこを避けて手短に終わらせましょう」


 二人は施設を出た。


 一歩外に出てしまえば、調理場とテントを建てるための広場があるだけだ。施設から離れて茂みに入ろうものなら、海星たちを照らすものは星々しかない。


 海星が、そんなキャンプ場に何かあるのに気付く。こそこそする必要性があるのか微妙なところではあるが、二人は先程まで夕飯を作って食べていた火起こし場に身を隠した。


 星見マナがいた。


 海星はマナを眺める。立っているだけでこれから行動を起こす様子もない。だが、海星の胸の中で密かなざわつきがあった。暗がりの中で、マナが一人でいるという状況。あの時と同じことが繰り返されるのではないかと。


「あれは」


 海星が息を呑む。


 マナが振り返る。海星たちの存在に気付いたという訳ではない。


 光だ。


「精霊です。ポイントからは離れていますが、あの子を狙って現れたようです」


 取り乱さないことから、夜空があの光を見慣れていることが分かる。


 精霊という名の炎に成長する煙のような光が、マナの傍に現れた。


 マナは驚くという機能が削除されているように、やはり微動だにしない。


 夜空がマナのもとへと走り出す。海星も後を追った。マナは夜空が駆けつけたことでようやく反応を示した、ように海星には見えた。


「夜空」


 この場を対処可能な人物は彼女しかいない。海星が来たところで邪魔にしかならない。ならせめてマナの手を掴んで施設まで離れるべきか。


 煙は炎となり凶暴性を増していく。下手に動けば後ろからでも襲われる恐怖があった。


 オカルト研究会では本物の火が広がっていたから分かりにくかったが、やはり熱さは感じない。それどころか、生い茂る雑草が燃えている様子もない。


 人間だけを殺すための兵器だった。


 海星は既に、対抗するよりも後退する方針に徹していた。


 マナがろくに動かないため、じりじりと追い詰められていく。


 精霊はすぐそこまで迫っている。


「大丈夫だ、海星」


 夜空はそう言い返して一番前に出る。


 夜空を、炎が覆う。


 その直前、夜空の身から噴き出た炎が襲いくる敵を砕いた。精霊は現実の炎とは違い、鎮火するというよりは消滅と表す方が正しい。


 そして、その身に精霊を収めた夜空の姿が、炎の中から現れる。


「お怪我はございませんか?」


「ん」


 夜空を見るマナの目――普通の人よりも読み取りづらいが、海星には夜空のことを知っているのだということがそれで分かった。


 その関係性についても知りたいところではあるが、訊くべきことは沢山あった。海星はマナに向き合う。夜の学園での一件は無事だったのか。死んだのではなかったのか。どうして襲われていたのか。君は幽霊なのか。“アストラルの鍵”と何か関係があるのか。


「星見マナ。ここで、なにを」


 挨拶すらも、今の海星にとっては余計なことでしかなかった。文脈もなにもあったものではないが、その一言の意味は伝わったらしく、


「……月」


「月?」


「月を、見ていた……」


 マナに釣られるように、海星も空を見上げた。


 先ほどまではキャンプファイヤーのせいで気が付かなかったが、月の周りに星々が光輝いていた。


「あああああの、マナさんのことどうして知っているのですか!? 学園では一応内緒にしてらっしゃったと思うのですが」


「昔に見たことがある。それより夜空こそ、どうして」


「わっ、私は、このお方を守っています。マナさん、困ったもので時々こうして抜け出しますから」


「だって、夜空が助けてくれる。それに、夜空が来てくれるまでの時間くらいはへいき」


 星見マナのその言葉は、夜空を信用していると言うよりも自らの危険に対して何一つ関心を持っていないかのようであった。


 改めて、海星はこの少女の底知れなさを身に浴びる。


 あの夜も、学園に来て月を見ていたのだろうか。


 海星が目を覚ました時にはマナが消えていたが、夜空が助け出したのだろう。


「あの、本当のことお話しします」


 夜空が海星へと向き直る。


「精霊はマナさんを狙って現れます。この前みたいに人が呼び出すのは例外ですが」


 その後、夜空はマナに早く施設の中に戻るよう促した。幽霊スポットの探索はこうして打ち切りとなった。

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