Progress 1 (4)
校内放送で部活動の中止、帰宅の促し、及び寮から出ないようにという知らせが入った。
そんな中、海星たちは悠に案内された教室に入る。悠が照明を点ける。先程までいた部屋と同じく窓から光が入ってこない仕様になっていた。
それだけでなく、テイスト的にもオカルト研とそう変わらなかった。厨二病な世界からは暫く遠ざかりたいぐらいの危機に瀕したばかりなのに。
部屋の中心にはやけに応接室くさいソファがコの字に鎮座されていた。海星はそこに茜を寝かせる。
「あなた、あの会長が目を付けるぐらいだから何かあるのだと思っていたけれど、まさかここまでとはね」
息を落ち着かせた悠が、夜空に話を切り出す。
「オカルト研のクズが言うには精霊らしいけど、あなたもそう呼んでいるのかしら?」
悠の口調が相まって、夜空は取り調べを受けているように俯いている。海星は、今はまだ間に入るべきではないと判断し、扉にもたれて黙っている。
「……はい。でもまさか、精霊を呼び出すことのできる人がいたなんて……」
「それじゃあ、どうしてあなたはその精霊と一緒にいるのかしら? とても友好的とは思えなかったけれど」
夜空はますます萎縮していく。
「わたしたちがあなたのことを悪いように扱ってしまうと思っているのかしら? それとも、自分だけが特別な力を持っていることに浸っておきたいの?」
「そ、そういうわけでは……」
「あのような事が頻繁に起きているとは思えないけれど、今までにもあったのでしょう? そしてそのために誰かが傷ついている。そんな状況になっているのにわたしたちにも話そうとしないのは問題を放置しているのと一緒よ」
消防と救急車のサイレンが近づいてきた。そして学園の敷地内に入ってきたのだろう、外が一層騒がしくなる。
オカルト研のメンバーは、どうなったのだろうか。海星はそれが気掛かりだった。考えたくはないが、恐らく無事ではないという確信もあった。
「まあ、いずれ分かることだから、話したくないのならもういいわ」
茜が目を覚ます。そのタイミングで、悠は夜空を解放した。
「あの、ここは……?」
「わたしの部屋よ」
学園の一室の所有権を平然と言ってのける悠が、安心させるように茜の頭を撫でる。
「気分は悪くない?」
茜は頷く。まほろば同好会では無理をして自分を大きく見せようとしていた節があったが、今はその余裕もないようだ。
「そう、よかった。いったいどうしてあんな奴らと一緒にいたのかしら?」
「前からオカルト研にはちょっとだけ興味があって……オカ研にはクラスメイトがいて前から話をすることもあったんだけど、さっき急に声を掛けられて」
「それであそこに連れ込まれたわけね」
茜の気持ちが落ち着いた後、まだ学園に残されていた生徒たちに紛れて、海星たちは寮や自宅へと散り散りに戻っていった。
●
騒動から一晩明けただけであるが、火事のあった周辺が立ち入り禁止となっただけで授業は通常通り行われた。
熱心にオカルト信仰をしていた少年たちが放火を起こし死亡したという事件は当然ながらニュースになり、SNSでも話題を呼んだ。
学園の名前もマスコミに出されてしまい、理事側がその日の晩に会見を行う事態にまでなった。今朝も報道陣が学園に集まっていたせいで、生徒たちはもの珍しさ半分、迷惑さ半分でその間を登校していた。インタビューを受けた者もいた。「前からオカルト研のことはみんな変な目で見ていた。だけどまさかここまでとは」
海星たちはすぐにその場から避難したこともあり、被害を受けたことを誰かに訊かれることはなかった。オカルト研究会のメンバーも全員が死亡したせいで、精霊のことや夜空がそれを退治したことは他に誰も知らない。
「いよいよ俺もテレビデビューだぜ。夜のニュースが楽しみだな〜」
「朝からその話ばっかりだよ、響。テレビに出るっていっても、顔は映らないんでしょ?」
いつものように昼食を終え響や修二郎と廊下を歩いていると、海星はとある教室が気になった。
「海星、どこに行くんだよ」
「ちょっと。先に戻ってて」
海星がいつもと違う行動をとったことに、面白いこと好きの響と修二郎が気にならないわけがなかった。海星もそんな後を追う二人を止めることはせず、目的地へと歩みを進めていく。
海星はとある扉の前で立ち止まった。外見は他の教室と変わりがない。
「どうしたんだよ海星? そこは霊能研究会。オカルト研とはまた別の理由で入るのはやめた方が……っておい!」
海星は響の制止を振り切るように、扉にかける手を止めなかった。
「なにかよう?」
海星の登場に、悠は動じなかった。
入って正面にある、この部屋の主を受け入れる席ではなく、悠はその脇にあるPCディスプレイの前に座って棒状のお菓子を食べている。
「昼はそれだけ?」
「ええ、そうよ」
机上には開封後のお菓子のパッケージが投げ出されていた。よく見るとディスプレイの脇にはボーカルマイクが設置されていて、趣味のためにも日常的にこの部屋を利用していることが推測される。
昼休みはすぐに教室を出て、その上食堂などでも姿を見かけないと思っていたが、その理由がはっきりした。
響と修二郎は入って来ようとはしなかったが、そうされると悠と話ができないため扉は閉めさせてもらう。
灯華には悠と『仲良くなれ』と言われたものの、どうしようか。
「呑気なものよね。昨日の騒動で死者が出ているというのに」
「彼らはアストラルについてなにか掴んでいたと思う? どうしてあの子が被害を受けたのか。選ばれたのは偶然だとは思うけれど、誰でも良かったというわけではないはず」
「“アストラルの鍵”が精霊を呼ぶために必要なのかもしれない、と言いたいわけね。だけれどそれはないという可能性の方が高いわ。大方、アストラルに勝手な幻想を抱いて独自の解釈をしているのでしょ。まほろば同好会、あの会長以上に詳しい生徒なんて他にいないもの」
「会長だけ?」
「少なくともわたしはアストラルなんてどうでもいいもの。あの同好会には少なからず縁があって中等部の頃からいるけれど、あまり行きたくないわ。あの男気に入らないもの。よっぽど“鍵”の相性が悪いのかしら。アストラルについて知りたいのなら、わたしなんかに訊かずに同好会に入ってあげたらいいじゃない」
アストラルの鍵の相性に良さがあるということで、その一方で悪さもあるのではないかという俗説がある。
この様子では悠と仲良くなったとしても、アストラルに関して聞けることはあまりなさそうだった。
「その割には、部屋が随分オカルティックなようだけど」
「今までこういうのに囲まれて生きてきたから、こっちの方が落ち着くってだけ。昨日のような連中とは一緒にして欲しくないわね」
「いい部屋だ、と思う」
灯華に言われたことは別にして、海星は悠に興味を持ち始めていた。
悠の机の上にはその他に、最新のVR機器もあった。視覚や聴覚だけでなく、平衡感覚さえもヘッドセットから刺激し、ユーザーを電脳世界へと誘うという。
「やってみたい? 残念だけれど、二台とも既にユーザー認証がされているから他の人が使うことはできないわ」
「また来てもいい?」
「人の募集はしていないのだけれど。特に男は嫌い。気持ち悪い。だけれど、認めないということを認められていないわね」
そう前置きをしつつも、
「歓迎するわ。ようこそ、霊能研究会へ。ただし、あまり近くには寄らないで」
歓迎していないムードであった。
放課後、海星はまほろば同好会に参加することを猿飛影虎に告げた。